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黒のセイバン



「……さすがに不味かったかな」




 あの決闘から一時間弱。あんなにいた決闘申し込み者は何処へやら。綺麗さっぱりと居なくなっており、たまに様子を見に来ては腕を組んで帰る、というよく分からない光景は何度見たことか。おまけに、いつの間にか変な名前まで付けられている。



 それはクエスト開始から約三十分が過ぎた時だった。あまりにも人が来なくなったために、クエストが取り下げられたのかと思ったミサがギルドに様子を見に行ったのだ。すると、依頼した時は『冒険者を勝ち取れ!』というクエスト名で内容も淡白だったものが、三十分の間でクエスト名が『人類の悪夢 サキュバクとの激闘』と変わっており、難易度も跳ね上がっていた。

 サキュバクはどうやらサキュバスとバクを合わせた造語らしく、夢を餌に不幸の蜜を吸う行為――つまり先程のミサの言葉――由来とのこと。



 自分の持ってる精装に近い名前を付けられるのは大変不本意ではあったが、難易度が跳ね上がったということはそれだけレベルの高い者が来るということ。つまり、ミサの求めている人材が来る可能性も相対的に高くなるということ。

 そして、目の前に来た人物を見たら役に立ったと認めざるを得ない。




「俺はセイヤ。お前が例のサキュバクか?」



「そう、私が例のサキュバクです。あっ例のサキュバクったーら例のサキュ――」



「普通にお前と戦うだけでいいんだな?」



「え、あ、うん……」




 色は黒だがミサと似たようなフードを被っているセイヤと名乗る冒険者。だが、ミサはボケを突っ込まれなかったことにショックを受けてシュンとなる。

 しかしセイヤはそれを無視して(ふところ)の刀を抜き




「合図はどうする」



「……コイン投げるからそれが地面についたら」



「分かった。早く始めるぞ」




 強者の風格か――いや、自分は強者だという雰囲気を実際に漂わせながら、淡々とその時を待つセイヤ。武器はまさしく刀。相手はそれを横に広げて刀身(とうしん)を立てた。



 剣術の稽古の時にミサの師匠にあたる人物が必ずやっていた刀身を背景に同化させる技術。これにより刀身の長さが分からず、下手に動けない。セイヤから確かなものを感じたミサは実力には期待を膨らませて、もう一つの実力は期待しないことにして親指にコインを乗っける。



 ピンッ!



 クルクルと等速で綺麗な弧を描くコイン。だんだんとセイヤの凄味が増していき、空気が張り詰めていくのを感じる。ミサも今度は鞘から剣を抜き、構える。

 これから冒険するにあたり、やはり実力のある仲間はどうしても欲しい。だからその可能性が見出だせるものには――本気を出す。



 宙を舞うコインは重力に引っ張られて、放物線を描きながら落下を始めた。ミサは聖夜の重心が少し前傾になるのを確認する。対戦相手が来たという噂を聞いて少しずつ集まってきているギャラリーは、完全に雰囲気に飲み込まれており固唾を飲んで行方を見守っている。



 ――コインが落ちた。



 瞬間、ミサは反射的に刀身を地面から水平にしてガードの構えを取り――吹き飛ばされる。

 数メートル宙を浮かんだ後、地面に剣を突き刺して体勢を整えた。セイヤは刀を振り下ろした格好で先程までミサが立っていた所にいる。フードは今の一撃の早さについてこれず頭から外れており、下にはまぁ悪くはない程度の顔立ちがあった。セイヤの一撃におお、と広場に嘆息が漏れる。




「なんだ、その程度か? クエスト難易度八相当の相手と聞いて期待していたのだが……残念だな」




 正直予想以上だった。今の一撃から察するに、レベル差は三桁以上は確実に開いている。実力は申し分ない。むしろミサが完全に劣っている。

 仕方ない、とミサは気乗りしないまま自強化システム魔法『アガステ』を唱えた。その瞬間うっすらとオーラみたいなものが美紗を覆う。




「まさか。私が貴方の実力を見極める方なんだけど」



「自強化魔法ね……まぁ、楽しみにしておくよ」




 立ち上がって再び構えを取ったミサ。

 一瞬の静寂。

 そして、今度はミサが動く。

 一瞬にして肉薄したミサの一撃を頭の上で受け止めるセイヤ。先程のお返しとばかりに攻勢に出るミサだが、全ての攻撃を受け止められている。

 何故か相手は攻撃に出ない。




「ほら、足元がお留守だ」




 というよりも、遊んでいた。これではどちらが実力を測っているのか分からない。ミサは剣に集中していたためか、足元が隙だらけだったらしい。肉薄していたミサの足を払うように蹴りが入れられて――




「――ッ!?」




 ――次の瞬間、セイヤは背中を地につけていた。

 微かに残っている(すね)の裏の感触とこの状態から、逆に足を払われたことは理解した。




「おお、よく足元が留守だって分かったね」



「そっちの留守じゃねぇ! てか、今のなんだよ!」



「さぁ?」




 だが、何が起きたかは理解できない。さっと立ち上がって距離を置くセイヤ。少し距離を取って考えるも、何が起きたのか本当に分からない。

 足は間違いなく隙だらけだった。ミサの身体能力的に、あの場面で蹴りを避けられるようなフィーリングはない。なのに実際は空振りして、逆に足を払われた。




「ねぇ、セイバン」



「セイバンってなんだセイヤだ! ……なんだ? まだ終わってないだろ」



「いや、背中に天使の羽が見えた瞬間にその名前が出てきた。まだ終わってはないけど、一つ聞いても良い?」



「は? 後にしろ」




 そしていきなり付けられる変な名前。元からある程度ネタにされていたのか、クスクスと周囲で笑いが起きる。途中まで張り積めていた空気が少しずつ緩んでいく。




「甘党? 辛党?」



「んー、甘党……って答えるか!」



「ナイスノリ突っ込み」



「いや、誉めてないでお前もそこ突っ込め――ってそうじゃねえ!」




 先程までの緊張感は何処へやら。今来た人が見ればたば単に戯れているだけの絵面。しかも自分のボケは拾ってもらっておいて、乗ってきた相手のボケは放置プレイという相手側が最も恥ずかしい行為をするミサ。

 ああっ! と気合いなのか恥ずかしさを誤魔化しているのか、ともかくセイヤは声を出して剣を構える。若干顔を赤くしているのはご愛嬌(あいきょう)だろう。




「……続きやるぞ。ほら、来いよ。さっき何したかを見極めて――」



『スイートソリッド!』



「――やうっ!?」




 今度は台詞を妨げられて魔法で口いっぱいに何かを詰め込まれた。いきなり入れ込まれた異物を瞬間的に吐き出し、口の中に(ほの)かに残った風味を強制的に味合()わせられる。




「なんだこ――あっま!?」



「うん、砂糖だもん。甘党には最高でしょ?」



「いや違うから確かに甘党だけどこれは違うから! 甘党だからって砂糖そのまま食べねぇわ!」



「当たり前じゃん。まぁ、おふざけはここまでとして――」




 おふざけはここまで、という言葉に大きな反応をするセイヤ。ニヤッと口許を歪ませ、ミサと同じようにうっすらとオーラを纏う。あれ? とミサは首をかしげた。




「やっとか……せっかくのムードをぶち壊しにしたお返しだ。ここからは容赦しない」



「あ、ちょっと待っ――」



「もう待たねえからな! 行くぞ!」




 待ったら何を起こすか分からないことが分かった相手に待つ間抜けはいない。言葉通り、セイヤは本気だ。自強化魔法はその術者によって効果が変わる。

 ミサは固有魔法の恩恵で高い水準で使えるのだが――




「ハァッ!」




 ガキィン!



 縦に一振り。剣が折れるのではないか、と思うほどの金属音と共に、刀から来るとは思えないほどの凄まじい衝撃が剣から身体へと伝わる。始めと同じ軌道だったため受け流すことに成功はしたのだが、それでも腕が痺れた。



 分かってはいたが、やはり完全にレベルが違う。セイヤは元の身体能力に加えて、自強化魔法すらミサの上を行っている。ミサの痺れている腕を休ませる間も与えず、そのまま振り抜かれる二撃目。



 ――今度こそ取った。



 セイヤは確信した。現にセイヤの刀はミサの脇腹を抉らんとしており、フワッと身体から浮き上がるローブにまで辿り着いている。



 難易度八。確かにうざさは難易度八だったが、所詮こんなもんか……と少し落胆するセイヤ。刀はローブを押し込んでいき、ミサの身体に当たり――すり抜けた。




「……あっ」




 セイヤはいきなりのことで身体が硬直し、間抜けな声を漏らす。彼は完全に失念していた。先程、足を払われたばかりなのに。ブンッ! と空振りした刀により重心が傾く。

 それを見たミサは、ニタァッと口を歪ませた。これだけの隙があれば、数文字の単語を紡ぐくらい造作も無いことで




『パンツクイカム』



「ぎゃああぁぁぁぁぁ!」




 鋭い悲鳴が、広場一帯に轟いた。

まだ始めたばかりですが、大幅リメイクします。

脳内お花畑にしつつGzのために作ってたものですが、どうせネタにするなら完全にやりきろう、と決めたからです。

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