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旅立ちは汚物に見送られて



 宴開始の時間となった午後六時。

 数十人しかいない村人は既に広場に集まっていた。明日ミサが旅立つということで、それはもう盛大に宴を開いたのだ。送別会の意味があるからと言って悲しい雰囲気を出しては勿体ないと、それこそ過剰な程盛り上がった。

 六時から始まった宴は一次会として九時まで続き、その後は子供を抜いた者達のみで二次会が開始される。今の世の中は十六歳から成人で、それこそ昔の元服とたいして変わりはない。この世界では、成人と冒険者はイコールで繋げられる程に当然のこととなっている。職人なんて者はほんの一握りしかいない。




「よおミサ! せっかくの旅立ちなんだからこれを持っていきな! ミサ専用の軽くて全耐性を持つ俺の自信作だ!」




 そしてこの村はその一握りしかいない職人で構成された村だ。生計も職人によって建てられている。そのほとんどが冒険者を引退した者ばかりだが、その中には数人『本物』が混ざっており――




「ありがとうテツさん『オーケーゴーグル!』……防具名『ありがとう。良いローブ――」



「ただの感想じゃねえか!」




 いきなり書いていないことを読み上げ始めたミサに全力のストップをかけるテツ。キレのあるツッコミに満足したミサは普通にデータを読み上げる。



「――紅焔(こうえん)のローブ』か……これ聖装じゃん。こんなすごいの良く作れたね。しかも私の魔法で模倣できない超貴重な奴」



「だろ? てか、そんな名前なんだな……まぁ、大事に使ってくれよ!」




 ――それこそミサの魔法を持ってすら作れないアイテムを作る職人すらいる。

 ミサの解析魔法はかなり細部の情報までデータ化することができるのだが、テツから貰った真っ赤なローブは『聖装』『模倣不可能』と表示されているのだ。



 『聖装』とは文字通り『聖なる力が宿る装備』のことで希少価値が高いものなのだが、今回の場合はさらに一枚上手(うわて)。『聖装』と言えど、ミサの模倣魔法で完全にではないにしろ再現はできるのだが、この装備はそれすらも出来ない。特殊効果という使用者しか分からない効果があり、それが模倣できないようにガードしている、という説が濃厚だが、そこらへんはまだよくわかっていない。もしそうだとしても、ミサが模倣すら出来ない作品など、それこそ片手で数える程度だ。これは、そんな一品なのだ




「製作期間は――十六年か」



「よし、じゃあ次は俺だな! 俺からはこの刀をやろう」



「あ、オサムさん。ありがとう。 『オーケーゴーグル!』……武器名『さきゅばす』」



「冗談はいいぞ。ハッハッハッ――」



「いや、この剣本当に『さきゅばす』って名前ついてる」



「――ハッハッ……マジ?」




 剣をプレゼントしてくれた鍛冶職人のオサムは冗談と言ってくれ、と懇願するような目で訴えるも、ミサは首を横に振る。オサムのショック顔も仕方ない。せっかく作った剣にそんな名前ついてたら、誰だって嫌だろう。




「でもちゃんとした聖装だよ。しかもこれも模倣できない超貴重な奴」



「お、おう……そうか? そうだよな。 俺自慢の妖刀(ようとう)だからな! 当然だ! ミサなら使いこなせると思うぜ!」




 名前のショックも、世界に片手で数えるほどの模倣できない聖装となれば話は別だ。ショックは何処へやら、オサムの顔には嬉しいと書かれている。軽くチラ見した効果の内容に見てはいけない諸事情が書かれていたが、人には一つや二つ、隠し事があるものである。例え冒険者時代に男性とだけ冒険をしていたり、男性の前でオサムが異様にテンションを上げていたりとかは全く関係ない。もらった武器のことを精装、ましてや精巣とか間違っても言ってはならない。



 ミサは頭を切り替えて内容を見ていく。ポテンシャルは素晴らしいものでどれも目を見張るものだが、そのなかでもどうしても気になるものが一つ。




「製作期間――十六年」




 製作期間だ。年数とミサの年が同じなのは明らかに偶然ではないだろう。宴の途中に武器や防具を渡されることはあったが、それら全てが年単位の代物であり、全てが『聖装』レベルだった。さらにこの二人の装備だけは性能や風格だけでなく、製作期間そのものが違う。本物の職人が十六年もかけて作った代物ならば、いくらミサでも模倣できないわけである。



「ああ、お前が十六歳になるまでにしっかりと仕上げておいたんだ。旅立ちに生半可なモン渡せねぇからな」



「本当は俺らもついていきたいが、この老体だ。雑魚をすまねぇな」




 彼らはミサがこの村に来た時から、ずっとこの時を待っていたのだ。可愛い子には旅をさせろ、とは良く言ったもので、この村の住人にとってミサは皆の娘であり、孫であり、悪戯っ子であり、希望なのだ。

 二人の気持ちを汲み取り、その場で装備をする。




「うん。サイズもピッタリ」



「おお、似合ってるな」



「全く。立派になりやがって」




 二人からの温かい視線。ふと見渡してみると、いつの間にか広場全体の視線を集めていたらしく全員が三人を見つめていた。テツとオサムは気づいていないようだが、例え理解していてもこの何かアクションを起こすことはない。まだ宴は続いており、せっかくのローブを汚すといけないため、脱いでデータ化し、収納する。




「そのローブ。実は昔俺が好きだった漫画を元にしたやつなんだ。もうあまり覚えてなかったし素材の都合上色は合ってないけどよ」



「漫画? どういうの?」



「巨人を倒す漫画だ。まあ今ではそれも現実だ。しかも、その漫画のやつとは比べ物にならない程強いから洒落(しゃれ)にならねぇ」



 巨人。ミサはまだ実際に見たことがないが、以前村長から聞いた話で『巨人族』という種族がいること、生息地はこの村からだいぶ離れた『東北』と『四国』の二ヶ所を中心としていること、村長も冒険者時代に偶然一体と出会っており、戦って手も足も出なかったことを聞いていた。




「巨人もパンツ履いてるのかな……」



「ん? なんか言ったか?」



「ううん、何でもない」



「そうか。それじゃあもっと飲むか! まだまだ夜はこれからだぜぇ!」




◆◆◆




「気を付けてな……ミサ……ウッ……まずは道なりにずっと……進んで『ダークピック』って……オェッ……街に行くんだぞ……」




 宴は夜通し行われた。終わったのが日の出の少し前と言えば、どれくらい長いこと行われたか分かるだろう。旅のことも考えてミサを休ませるという意見も出たが、それを本人が拒否したため続投。結局ほとんどの者が酔い潰れて村の男の中で見送りに来たのは村長のみ。その村長も意地と気力で見送りに来ているような状態で、後は全員女だ。




「ごめんね、ミサちゃん。こんな大事なときなのに主人たちが酔っちゃってて……」



「おかげで楽しかったので。怒らないでね」



「ミサちゃんに言われたら弱いわね。分かったわ」



「ありがとう。それじゃあ私は行ってきます。村長は早く寝なよ」



「すまん……まずはギルドで仲間を……ウッ!」



「仲間を見つければ良いんだね。わかった。おやすみ」



 テツに貰ったローブを装備し、妖刀を背中に下げて、見送りの視線と一人分の汚物に送られながら外の世界へ。がんばってー、や、世界を救って頂戴ねー、と遠退く声に後押しを受けながら歩みを進めていく。そして、振り返っても村すら見えなくなった山の一部、村を囲う魔除け用のバリアの場所へ。




『バージン』




 魔法で内側に新しいバリアを貼り、外側のバリアを解除。ここからは魔物が蔓延る死の世界。いくつもの生命を奪った世界だ。いくらミサの能力が優秀とはいえ、なめてかかったら命がいくつあっても足りない。

 お世話になった村に祈りを捧げ、村長に言われた『ダークピック』を目指し、その場を後にした。

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