表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

もつべきモノは元カレ

あれから2週間。

直樹とすれ違っても目も合わせず仕事をした。


何度か声をかけられたが、

「なんですか?課長」と冷たく言いうあたしに、

「いや・・・なんでも無い・・・」と言い直樹は自分のデスクに戻った。


それを見た健吾が、

「お前怒らせると怖いな・・・」と呟いた。


自分の中で直樹に対しての恋愛感情はもう消えていた・・・と思う。


日帰りの出張で、健吾と二人車を走らせていた時のこと・・・


「なぁ・・まじで3月いっぱいで辞めるの?」


「うん。有給が残ってるから実際は4月まで在籍だと思う。

 秋にはあっちの仕事が始まるらしいから、その前に

 いろいろ準備があるんだってさ。だから5月にはあっちに行く予定〜」


「お前、、カオルの時にその行動力があったらよかったな。

 そっかぁ・・・まゆも辞めちゃうのか・・・」


「なに〜 寂しいの?」


「寂しいっていうか・・・俺の仕事増えるな〜ってさ」


そう言って健吾がズルそうに笑った。


「健吾・・・ごめんね。全部押し付けるような感じで辞めることになって。

 もう少し健吾と一緒に働きたかったけどね・・・」


「仕方無いさ。組織には太刀打ちできねーもん。

 所詮、そんなもんだろ。俺達なんか」


「ん・・・そうだね。でも、辞めるまではちゃんと頑張るから。

 迷惑はかけない。あと、いまのうちに協力してくれるメーカーも

 チェックしとくよ」


「しっかりしてんな。でも、何件かは大丈夫だと思うぞ。

 まゆのこと信頼してるとこ結構あるじゃん。大丈夫だ!」


「うん。ありがと。絶対頑張るから。東京に来たら遊ぼう?

 ちゃんと連絡してね。絶対だよ」


「うん。わかった・・・・って、、お前あっちに行くならカオルに

 言わないの?同じ東京なのに」


一瞬ドキッとしながら、健吾の顔を見た。

同じ東京にいても、偶然会うことなんか無いだろうと思った。

祐子さんも望月さんももう今の会社を辞めるし・・・

カオルとはなんの接点も無い。


「言ってもなにも始まらないでしょ?あんな裏切りかたしたのに。

 健吾、カオルに言ってないよね。あたしが直樹と別れたこと」


「あ・・・うん・・・まだ言ってない。ハッキリしてないかと思って」

「もうハッキリしてる。けど、、カオルには言わないで!」

「なんで?別れたなら言ってもいいじゃん」

「言わないで・・・ 花嫁修業で辞めたとか言っておいて」

「なんで嘘つくんだよ。いいじゃん」


「言ったからってなにが変わる?いまさらじゃない・・・」


もうカオルには新しい彼女がいるのに、いまさらそんなこと聞かされて、

おまけに喧嘩別れで、東京に行ったなんて言われたら、

格好悪くて泣けてくる。

そんな惨めな状態で、カオルに会うことなんかできない・・・


「ん・・・わかった。じゃあ、、、武者修行に出たって言っておく」

「花嫁だっつーの」

「言ったほうがいいと思うけどな〜」


また期待をさせるような言い方をして健吾が煙草を吸いながら運転をした。

そんな健吾の意見を無視して黙って外を見ていた。


(カオルの近くに行くんだなぁ・・・)





直樹と喧嘩別れしてから3週間ほどした週末。

インターホンの音にドアを開けると直樹がいた。


「あ・・・ちょっといいかな。ちゃんと話しようよ」

「もう話すことなんか、なにも無いけど」

「だからさぁ・・・本当にこれでいいのか?」

「いいよ?もう直樹のことは忘れる」


ドアを閉めようとしたが、グッと止められた。


「ちょっと・・・一旦部屋で話そうよ。玄関じゃなくて・・」



後ろから直樹が部屋に入り、ため息をついて話を始めた。


「俺は別れる気・・・無いんだけど」

「あたしは別れる気しか無いんだけど」

「ちょっと待ってよ・・まゆ・・・」


「もう直樹の言いなりになんかならない。勝手すぎるよ!

 なんでもあたしが言うことを聞くって思ってるでしょ!

 絶対自分には逆らわないって思って!」


「そんな風には思ってないって。俺はまゆがもっと楽に

 俺の所に来やすいようにって、そう思ってああしたんだって」


「だからそれが勝手だって言うの!あたしそんなこと望んだ?

 一度だっていままで直樹に反抗した?

 いつも直樹のいうこときいたじゃない。なのに・・・」


「でも、この仕事辞めないといつまでも、あの話で迷うだろ?

 お前には無理だって。本当にそう思うから言ってるんだぞ。

 お前の為に言ってるのに、なんでわかってくれないんだよ」


「どうして?なんで言い切るの?」


「そう・・・思うから・・・ 誰が見ても分るだろ?」



真面目な顔の下はきっと、あたしのことをバカにしているんだ。

所詮あたしじゃって思ってるんだ。

悔しくて、、、悔しくて、、、知らないうちに手に力が入っていた。



「直樹の思うことが全部正しいの?絶対正しいって言える?

 あたしあのまま直樹を待つだけの生活だって嫌!

 仕事ばっかりして、あたしのこと放っとく直樹も嫌!

 ぜんぜん正しくないことだっていっぱいあるの!

 これじゃ遠距離より最悪。側にいるのに全然嬉しくない!」


目に涙を溜めて言うあたしを見て、申し訳ない顔をした。


「本当に俺と別れて後悔しない?」

「しないわよ!」


そう言って滲んだ涙がこぼれないうちに手で拭いた。


「わかった・・・ そこまで言うなら・・・そうするよ。

 いままで一人にしてごめんな・・・」


そう言って直樹は部屋を出て行った。

本当に悔しかった。絶対見返してやる!

それしか頭の中には浮ばなかった。


あんなに憧れて大好きだったのに、別れたことより

最後の最後まで「無理!」と言われたことが悔しくて

仕方無かった。


直樹から貰った物、一緒に撮った写真、お揃いのカップ、

すべてゴミ袋に投げ入れて一つにまとめた。

ちょっと高価な物に躊躇はあったが、悔しさが勝ち全部を捨てた。


ゴミ袋の中でひっくり返っているモノ達を見下ろし、

不思議と胸がスーとした。


(別れる時はこうじゃなくちゃ!)



相手のことを嫌いになって別れるのが一番だ。

いつもまでも相手のことをウジウジ考えながら別れるのは

カオルの時だけでもう沢山だ・・・


スッキリした気分で買い物に出かけた。

少しずつ引越しの準備をしようとガムテープや紐を買いに

近くのホームセンターに行った。


「あ。怒らせると怖い人だ・・・」

振り返るとまた健吾に会った。


「絶対あたしのことつけてるでしょ?」そう言って笑いながら

健吾と並んで歩いた。


「なに買いにきたの?・・・ってもう引越しの準備?

 まだ辞表も出してないのに」

カゴの中身を見てそう言った。


「ん。さっき直樹と完全に別れたから、ついでに部屋を片付けて

 使わない物から先に準備しておこうと思って」


「完全て、向田さんに会ったの?」

「うん。さっきうちに来た。で、完全に別れた」

「うわぁ・・・・ 本当に別れたんだぁ・・・」


「当たり前じゃない。言ったでしょ?絶対許さないって」

「お前と別れる時、モメないでよかったよ・・・本当に・・」

「そう?」


ニッコリと笑ってそのままカートを押して歩いた。


「じゃあ〜 今日は俺がオゴるわ。独りもの同士、気楽だしな」

「ん。そうだね。もう誰にも気兼ねないからね。じゃ、行こう」

「あぁ。少しなら引越し準備手伝うよ」

そう言って健吾はカートを押して先に歩いた。



部屋に戻り、健吾は玄関にある直樹からの贈り物が入ったゴミ袋を見て

「あ〜ぁ・・・」と言いながら部屋にあがった。


「あれ・・結構高い物とかあるんじゃない?」

もったいない顔をして聞いてきた。


「うーん・・あるだろね。

 直樹ってブランド物とかのアクセサリーとか結構くれたから」


「それ捨てちゃうの?もったいなくない?それくらい持ってても

 問題無いじゃん・・・」


「ダメ!別れた男の物なんか持ってても仕方ないでしょ?

 気持ちが落ち込んだ時にそれ見て後悔したくないから。

 欲しかったら持っていっていいよ。彼女ができたらあげたら?」


少しだけ考えてジ〜と袋を遠目に見ていた。


「いや・・・やっぱやめとく・・怨念とかついてそうだから」



二人で押入れの物を出し、要らない物を捨てながら荷造りをした。


「これ、なに入ってるの?」


後ろで健吾がゴソゴソと箱を開けながら聞いた。


「ん?」


振り返ると、その中にはカオルから貰った物や、写真が入っていた。


お互いなんとも言えない間があき黙っていた。


「これは・・・・別れた男の物では・・・ないでしょうか・・・」

笑いを堪えながら健吾が言った。


「それは・・・捨てるの忘れたの!」そう言って箱を閉めた。


「ふ〜ん・・・・そうなんだ?じゃあ俺が捨ててきてやるよ」

そう言いながら箱を持ち上げ、また中を見た。


「そ、、、そうだね」


(シマッタ・・・)という顔をしながら後ろを向いた。


「ふ〜ん・・・カオルちょっと変わったな。老けたのかな?

 髪型か?いや・・あいつ整形したのか?」



「老けたんじゃないの?もうあれから2年経ってるし」

「そっか・・・・そうだよな。2年だもんな〜」


「うん。カオルも健吾も、もう来年には30でしょ?

 三十路だね・・・」


「やばいよなぁ・・30だって。涙がこぼれちゃいそう・・」

「早く相手見つけないと、直樹みたいに周りに言われるよ?」

「だよなぁ・・・・ でも男は30からだろ?」


「まぁね。まだまだイケるでしょ。健吾ももっと残業しないで

 出会いを探したら?」


「お前だってどうすんだよ。もう27だろ?ギリギリだな。

 いや、、、もう終わってるな・・・」


「あたしはこれからさ!って・・・どうしよう・・・

 あっち行っても誰もいなかったら・・・キツイな〜」


ちょっとだけ不安になった。

このままあっちで仕事人間になって誰からも相手にされない歳に

なるんじゃないだろうか・・・


「ん〜 まぁ・・・そればっかりはわかんねーな。

 仕事もそこそこに誰か見つけないとな〜

 体で釣れるのもギリギリだぞ」


笑いながらこっちを見た顔が憎らしかった。

男はいいよなぁ・・・

幾つになっても若い女と結婚できて。

逆ってあんまり無いからなぁ〜。


「ま。これは大事にとっておけよ。捨てられないんだろ?」

カオルとの想い出の品が入ったダンボールにガムテープを貼り積み上げた。


「ん・・なんとなくね。あたし、カオルのことは大好きだったから」


「向田さんだって大好きだったろ?」

「そうだけど・・・別れ方がね。あたしが先走らなきゃきっと、

 最後にカオルがホテルに来た時、また元に戻ったかもしれない・・・」


「それを言うならカオルの子供より最低な嘘だな・・・」


カオルとの別れを決めた時、カオルはあたしに東京に来て欲しい

ばかりに「来ないと会社の子に誘われてるから遊ぶ」と子供じみた嘘を言った。


まだ迷っていたあたしには、その嘘を見破ることができず、

それなら別れたほうがカオルの為だと勝手に決め、

その話を聞いた夜中、カオルの家から黙って帰ってきた・・・


お互い不安定だった時なので、頭が回らなかった。

一緒にいてあげられないのならば、いっそその方が

カオルが寂しい思いをしなくていいのではと思い、その嘘が引き金になった。


結局、直樹と付き合った後に、それが嘘だと判明したが、

もう手遅れだった・・・



「あの時は遠距離ってことが大きかったから・・・

 カオルの嘘も今となっては笑い話だよね」

弱く笑い箱を見つめた。


「アイツからその話聞いて、やっとあの朝の謎が解けたよ。

 そりゃお前も怒って帰ってくるわな。ま・・・アイツが迂闊だったって

 ことだよな〜」


「ううん。あたしが悪いんだって。ちゃんと言いたいこと言わないから。

 だからカオルにも辛い思いさせちゃったしね。

 今でも悪いことしたな・・・って思ってる」


「意地張らないで連絡すれは?本当はまだ好きなんだろ」


「意地じゃないよ。カオルの為だし、自分の為だから・・・」


もしも、カオルに会いまた好きだと思ってしまったら、

きっと彼女と別れてほしいと願ってしまう。


そんな勝手なことはできない・・・

せっかく今は幸せかもしれないカオルに波風立てることを

してはいけない・・・


けど・・・結局は自分の気持ちの弱さなんだよね・・・

直樹がダメだからカオルに・・なんて都合が良いにもホドがある。

それも、、、あんな終わり方したくせに。


「だから・・・健吾も絶対言わないで。ね?」


そう言ってまた引越し準備をした。

「頑固だよなぁ・・」呆れた顔をして呟いた。


部屋がスッキリしてから、二人で外に夕飯を食べに行った。

なんとなく気分は軽かった。

こんな時、一緒にいてくれる健吾に心から感謝をした。


持つべきものは昔の彼氏だ・・・・

そう思いながらサッパリとした気持ちで食事をした。


「ありがとね。健吾」本当に感謝の意味を込めて言った。

「なに?気持ち悪い・・・」人の顔を見て疑った顔をしながら

ちょっと笑ってそう言った。


「ううん。こんな日に一緒にいてくれて」

「本当に間が悪いよな〜俺って。なんか感謝のしるしでも貰わないとな」


「本当だね。じゃ今夜うちに泊まる?」

「は?な、、なに言ってるの、、お前、、、」


驚いた顔をして目が泳いでいた。


「ん?こんなにお世話になったから、一晩くらいいいかな?ってさ」

「えぇー。お前なに言ってんだよ・・馬鹿じゃねぇの・・・

 まじで?、、、どうしようかな・・・そりゃもう向田さんもいないし」


「嘘だから」


「え?・・・し、、知ってたよ・・・・ 嘘だろ?うん。知ってた」


慌ててビールを飲みながらそう言った。


「ふ〜ん・・・・」


そんな健吾を横目で見ながら笑った。

やっぱりこんな日に健吾がいてくれて心底良かったと感じた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ