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知らない所で進む話


久しぶりにアクセスしたチャットルームには見たことが無いほど

沢山の部屋が建っていた。

昔ならば入ったことが無くても、見たことがある名前の部屋が

いくつもあったのに、この2年弱でそこにあった部屋達は

心機一転ほとんど知らない名前の部屋ばかりだった。


ほんの2〜3室は見たことがある部屋もあった。

結束が固い部屋もあるんだなぁ・・・ けれどそんな部屋に顔を出しても

みんな常連さんばかりできっと話にはついていけず

ただ黙って「はい」とか「うん」とかそんなことしか出せないのであれば

入らないほうがいいような気がした。


バーを下げながら見たことが無い部屋の名前を読んでいった。

結構な人数がチャットをしているんだと思うと、なんとなく寂しい気持ちが

少し減り、(みんなクリスマスでも関係無いよね〜)とそこにいる

大勢の人達に心の中で呼びかけて寂しさを紛らわせている自分がいた。


中にはカップルでそんなことをしている人もいるのかもしれないけれど・・・・



(まずはハンドルネームだよなぁ・・・)


自分の昔のHNの(リオ)を使うのはちょっと考えた。

どう見ても女と分かるその名前に(クリスマスに女が一人でチャットか・・)

きっとそう思う人も多いと思い、男でも使えそうな名前にしようと思った。


クダラナイ見栄を張る自分もどうなんだろう・・・

実際暇で独りぼっちなのに。




<まゆ>じゃ女だし、、、直樹の<なお>なら男でも女でもイケそうだ!


入って、みんなが女なら女と言おう。男ばかりなら男と言おう。

ここがネットの良い所だ!そう思いながらHNを<Nao>にして

適当に一室入ってみた。


3人の人が話をしていた。簡単に慣れた感じで挨拶をし、

軽く自己紹介をした。もう自分の27歳という歳は結構この世界では

年配だと感じた。


みんなが女の人ばかりで、

「寂しいよね〜 クリスマスに女ばかりでー」と出しながら、

それなりに会話を楽しんでいた。


聞くとあたし以外のみんなは彼氏がいなく最近ずっとネットばかりをし、

当然今日もイベントと関係無くチャットをして普通に寝ると言っていた。

中には19歳でいままで彼氏がいたことが無い人までいた。


内心、(そんなに若けりゃどんなことしても男なんてできるのに)

そんなことを思ったけれど、自分で「モテない!」と言いきる彼女に

それ以上言うのは喧嘩を売っていると思われるのも嫌なので

黙って「そんなことないよ」と無難なことを出していた。


そのうち話はあたしの話になり、どうして彼氏と会わないの?とか

どんな人?とか聞かれ、適当に話をするうちにいない人の僻みなのか

「今ごろ他の女の人と一緒ならどうする?」とズケズケと書かれ、

だんだんと面白く無くなってきた。


そう思われても仕方が無いのかもしれないが、そうじゃないから

困ってるんだと・・・・


そのうち面倒になり「あ。じゃあ彼氏が帰ってきたから」といままで言われた分を

その言葉ひとつで終わらせ部屋を出た。


やっぱりこんな日は、暇そうな人は僻みっぽいのかな・・・そんなことを

思いながら他の部屋を探してみた。

新しく作られれば部屋の名前はどんどん上にあがる。

古い部屋ほど下にある。一番下まで見たけれど古い所にほとんど人がいなく

新しい所はそれなりに人がいた。


「なんだかどこもたいしたこと無いな〜 もう止めようかな・・・」


そんなことを思いながらも下までチョコチョコとバーを下げながら

なにかインパクトがありそうな部屋の名前を探していた。


けれどそんな部屋なんかどこも無く・・・


「もうやめよっと・・ほんの少しでも人と話せたからいいや」


久しぶりにメールチェックをして、ダラダラとHPを見たりして時間を

潰しているともう12時になっていた。



(イヴも終わりか・・・・)


結局ケーキもチキンも食べずにその年のクリスマスは終わった。

意地を張らずに連絡をすればいいのに・・・


それでもやっぱり去年も、その前も一緒にいれたのに、

なにも自分のことを考えてくれていないと思うと寂しかった。

このまま起きていると、泣きそうになりそうで

無理をして布団の中に入った。


(これから・・・ずっとこうなのかな。あたしにはもうイベントとか無いのかな)


暗い天井を見ながらポツリとそんなことを考えた。

もう・・・・いい加減年だもんな。

卒業しなきゃな・・・そんなこと・・・




翌日、昨日のチャットのこともあり、それほど独りぼっちで過ごした

気分でもなかった。実際は思い切り一人だったけれど・・・・


それでもあたしは素直に直樹と目を合わせることはできなくて

すれ違う時も下を向いていた。

もっと素直になれば、きっとそれなりな対応としてくれる人だと

分っているのに、どうしてもできなかった。


変に意地を張り続けてもなんの意味も無いのに・・・・


その日、それでも家に帰ってから0時までの間、

(まだクリスマス圏内だよね)と2年前に誘ってくれたことを思い出し

デジタルが1分ずつ進むのをボ〜と見ていた。


一本自分からメールをすれば、この気持ちはスッキリする方向に向うかも

しれないのに、そうするとなんとなく負けた気がして黙って直樹のほうからの

連絡だけを待ち続けた。結局、その想いは伝わらなかった。


26,27日と朝から直樹は年末の挨拶周りで会社には居なく、

最終日は健吾と二人で外出をして戻った時には

直樹はまた書類の山に埋もれながら、他の人達と打ち合わせをしていた。

話すことも側に行く事もできずに、結局最終日は黙って家に戻った。


休みに入って3日後の31日。

あまりの暇加減に普段なら絶対思わない実家に帰ろうかと考えていた。


年末に一人ぼっちなんて、もう何年も無い。

去年は直樹がいて、その前はカオルがいた。

その前は・・・たぶん誰かいたはずだ。


そんな自分が惨めで、帰ろうか、どうしようか考えていた。

きっと31日の大晦日でも直樹は会社にいるのだろう。

なんだかどんどん直樹の行動が嫌いになってきた。

夕方、家を出ようとした時、やっと直樹から連絡がきた。


「まゆ?ごめん。今、仕事終わったから今日うちにこれる?」


「・・・・・・・」


「聞いてる?今日さ、これからうちで一緒に年越ししようよ」


「・・・・・・・」


「まゆ〜 なに、怒ってるの?ごめんって。仕事が忙しくてさ。でも、も・・・」


「もういい!今日は実家に帰るから!」


電話を待っていたくせに・・・

仕事が忙しいって知ってるくせに・・・


でも、やっぱり自分の都合だけであたしに会おうとする直樹に

腹がたって、直樹が話をしている最中に、怒って電話を切った。


実家に帰る用意をしていたのに、なんだか力が抜けて

そのまま黙って家にいた。


(別に家に電話した訳でもないし・・・どっちでもいいや・・・)


そんなことを思いながら黙って部屋にいた。

本当は直樹に会いたいのに、勢いで電話を切ってしまい、

どうすることもできずにただ時間が過ぎていた。


きっと黙って家にいたのは、直樹が家にいるかもと様子を

見に来てくれないか内心思っていたのかもしれない。

けど、新年が明けてもあたしは一人だった・・・・


このままフェイドアウトして、直樹と別れるのかな・・・

そんなことが頭の中を過ぎった。

けど、不思議とそのことにたいして、あまり悲しい気持ちにはならなかった。



それならそれでいいかもな・・・


どんどん気持ちが冷めていくのが自分でもわかった。

憧れは憧れのままのほうがよかったのかもな・・・・

そんな感じで直樹のことを受け止める自分がいた。

ギリギリだった気持ちはどんどんと乾き、もう怒りも無くなりつつあった。




年明けの仕事が始まった。

新年の挨拶は商品課が今年の仕事を始める前に済んでいた。

通常の人達よりも、商品課は出張や残業が多いのもあり、

いつもお正月の休みは多少のズレがあり、普通のみんなとは

2日ほど遅く仕事が始まった。


商品課だけの朝礼をすませ席についた。

朝礼の間に2回ほど直樹と目が合ったが、

悪びれもせずニコッと微笑む直樹が憎らしかった。


いつもなら笑顔で返す所だが、あえて無視して思い切り違うほうを見た。

そんなことをしても、きっと直樹にはなにも打撃が無いとは

思っていたが、それでも笑顔にはなれなかった。


ムスッとしたまま席につくと健吾が顔を覗きこんできた。


「朝から機嫌悪いな・・・・ 正月休みに喧嘩でもしたのか?」

「してないよ。会ってないもん」


「うっそ・・・連休に一度も?」

「あたし・・・もう別れるかもしれない」


そう一言だけ言って黙々と仕事をした。


「まじ?つーか・・・この連休なにしてたのよ?一人だったの?」

「うるさい。今日は話かけないで」


そう言って黙って仕事をした。

そんな時、後ろから直樹が話しかけてきた。


「まゆ・・・今日さ、昼一緒に食べない?」


そんな二人を見ないふりをしながら書類の影から健吾の目が見えた。

ちょっとその仕草が可笑しくて笑いそうになった。


「あたし、昼から打ち合わせで外に出るから」

直樹の顔を見ないで黙ってパソコンを打っていた。


「じゃぁ・・・夜は?」

「残業あるからいけない」


「遅くなってもいいからさ・・・」

「疲れるから嫌!」

そう言って席を離れた。


後ろで健吾が

「向田さん・・・誕生日も無視して連休も一人にしたの?」と、

直樹に言ってるのが聞こえた。


直樹がどんな顔をしてその話を聞いているのかは見えないが、

内心(ざまーみろ!)と思いながら、給湯室に行った。

5分ほど時間を潰し、席に戻ると、物凄く嬉しそうな顔をして健吾がニヤニヤしていた。


「人の不幸って面白いよな」

「性格悪いね・・・相変わらず」特に笑いもしないで仕事を続けた。


「少しは懲りたんじゃない?これで」

「知らない・・・」


「今日、家で待ってるってさ。伝えてだって。俺はちゃんと伝えたからな」

まだニヤニヤしながら健吾が言った。


「悪いと思ってるなら自分で来るべきじゃない?あたし行かない」

「まぁ・・・そうだけど・・・」


そのまま健吾は話をする事無く、黙っていた。でもニヤニヤと・・・

(絶対行くもんか!)そう思いながら仕事をした。



その日の夕方、出先から戻り書類の整理をしていた。

まだ終わる目途が立たなかったので、給湯室に珈琲を取りに歩いていった。


中には人の気配があり、そのまま入ろうとした時、話し声が聞こえた。

その中に健吾の声もあり、ふと足を止め、その場に立ち止まった。


「4月の人事で向田さん部長だってさ」

声の感じで西田さんだと思いながらその話に耳を傾けた。


「ふ〜ん・・・・」さほど興味の無い健吾の声が聞こえた。


「でさ、商品課の今のパートナーも入れ替えあるんだってさ」

「まじで?俺、まゆに全部頼みっきりだから別れたらキツイな〜」

いない所でも、そう言ってくれる健吾の言葉が嬉しかった。


「そうだな〜。まゆちゃん全部やってくれそうだもの」

「そうそう。文句言うけどやってくれるのよ。楽だぞ?まゆとだと」


「でも、まゆちゃん外れるらしいよ?」

西田さんの言葉にドキッとした。


「なんで?外れるってなんだよ」


「向田さんが統括になるから、自分にはパートナーはいらないって。

 だから今のままじゃ一人余るだろ?だからまゆちゃん外してくれって

 向田さんが上に希望出したらしいよ?」


「なんだよそれ。パートナーいらないってどーゆーことよ?」


「ほら、去年の夏くらいに向田さんとペアの小山がミスしたじゃん。

 それ以来、小山に仕事ふらないで全部向田さんがやってたらしくて、

 それで今回から一人でやるってさ」


「そんなの自分の都合じゃん。まゆには関係無いことじゃん」


「まぁ・・・・きっとまゆちゃんと結婚でも考えてるんじゃないの?

 向田さんも、そろそろ年貢の納め時って感じだし。

 まゆちゃんならいいんじゃないの?男としては、あの年の差嬉しいだろうし。

 結構二人で話している時、仲いいじゃん。

 「直樹」とか「まゆ」とか言っちゃって。向田さん直樹って呼ばれてんだな〜

 それもあってキツイ商品課から外すってこともあるんじゃないかと・・・

 ここじゃなくて、たぶん前の商品2課って聞いたな〜」


「2課?あんな所にまた戻すのかよ!」


「いや、、俺が決めたことじゃないし。ただ統括になることと、

 まゆちゃんを外してくれって頼んだことしか知らないけどさ。

 2課は噂だよ。もったいないと思うんだけどな〜 俺は」


「もったいないより・・・ まゆより仕事が出来ないのいっぱいいるだろ?

 なんでまゆなんだよ!」


「いや、それは俺に聞かれても・・・ 向田さんが直々に頼んだって・・・ 

 まぁ・・春の話だからさ。今からマツも少しまゆちゃんに押し付けてる

 仕事、自分でやったほうがいいぞ?次に誰にあたるかわかんねーし」


「ちょっと、俺、向田さんに聞いてくるわ。変だろ、その話!」


そう言って給湯室から勢いよく出てきた健吾とバッタリ会った。

会ったと言うより、話を聞いてビックリして足が動かなかった。


「あ・・・・ 今の話・・・ 全部聞いちゃった?」

あたしがいたことに驚き健吾が言った。


何も言わずそのまま自分の席に戻ろうと歩いた。

直樹の所に行こうとする健吾の手を掴み、自分の席に座らせた。


「なに?ちょっと聞いてくるだけだって」

「あたしが聞くからいい・・」


「ん・・・・ なら・・・いいけど」

そのまま健吾は黙って席に座りなおし、また仕事を始めた。


なにも手につかなかった。

ただ、勝手にそんなことを決めた直樹に腹が立って仕方無かった。

統括になるなら、そんな権限はあるとは思っても、

どうして自分なのか腹が立ち黙って唇を噛んだ。

そんな様子を黙って目の前で健吾が見ていた。


「健吾・・・・」

「うん?やっぱ俺が聞いてこようか?ちゃんと言ってやるよ」


「違う・・・ もし、この話が本当なら・・あたし辞める」

「はぁ?また黙って従うのかよ・・・ちゃんと向田さんに・・・」

「違う!この会社辞める!東京に行く!」


「えぇぇー!マジかよ!!」


あまりの健吾の声の大きさに商品課の全員がこっちを見た。

慌てて「なんでもないでーす」と健吾がみんなに笑った。


「ちょ・・いいの?マジで!向田さんどうすんのよ?

 まだ決定なのか、わかんないじゃん」


「だから、それが本当なら。もう直樹の言いなりになんかならない。

 なんでも自分勝手で!あったまきた!ちょっとイイ男だからって

 いい気になりやがって!」


「イイ男は関係無いと思うけど・・・・・」


「もういい。だんだん嫌いになってきた!」


「ちょ、、声大きいって、とりあえず会社出ようって!」


そう言って自分のカバンを持ち、あたしの手を引いて急いで廊下に出た。


駐車場で健吾の車に乗せられた。

「ちょっと頭冷やせって。まだ決まった訳じゃないだろ?」


「だって!上からの指示ならまだ納得するけど、なんで直樹が

 そんなことまで決めるの?あたしそんなに仕事できない?

 そんなに迷惑かけた?変じゃない!」


「いや、、、だから、それは俺もそう思ってるってば。

 きっとまゆを家に置いておきたいんじゃないの?

 ほら、例の件だってバイヤーやってなきゃ、でてこない

 話だったしさ。それもあるんじゃないの?」


「だって、それは断る気だったもん。「気のすむまでやりなさい」って

 自分で言ったのに・・・ どうして・・・・」


悔しくて目が潤んだ。


「まぁ・・・俺も納得はしないけどよぉ・・・」

そう言いながら健吾も困った顔をして黙った。


「とりあえず、あたし今日聞いてくる。それが本当なのか」

そう言って健吾の車を出た。


「あんまり興奮して言うなよ?な?後から電話くれよ?」

「うん。わかった・・・」


家に戻り、簡単に支度をして直樹の家に向った。

さすがに腹が立って食事の用意もわざとしなかった。


11時を過ぎた頃に直樹が帰ってきた。

いつもならば玄関に迎えに出るが、とてもそんな気分にはならなかった。


「まだ怒ってる?」


いつものニコニコした顔をして直樹が部屋に入ってきた。


「これ。遅くなってごめん。忘れていた訳じゃないんだ・・・

 その・・連休もちょっと忙しく・・・」


なにかプレゼントの入った袋を差出しながら言った。


「あたしを外す相談が忙しくて?」


話を途中で切りそう言った。


「え、、なんの話?」

「あたしを商品課から外してくれって頼んだんでしょ?」

「ずいぶんと話が広まるのが早いね」


「どうして?あたしミスした?気のすむまでやれって言ってくれたじゃない!

 どうしてなんでも勝手に決めちゃうの!」


「前にも言ったろ?下手にこの仕事に関わるから、

 あんな話もくるし、それにもう残業しない部署に移ってゆっくりとしなよ。

 ここに引っ越しておいで」


「あたし残業が嫌って言った?この仕事が嫌いって言った?

 直樹なんにもわかってないじゃない!」


「まだ迷っているから東京の話をキチンと断れなんだよ。

 この仕事から離れればそんな気はもう起きないよ。

 だから外れるのは一番いいんだ。そう思って俺が決めた」


「もう決まったの?それは」

「あぁ。そうしてもらった」


直樹は勝手だ・・・

自分の都合だけであたしの行動すら決めてしまう・・・


「もう・・・いいよ・・・・

 一緒にもいてもくれない!なんでも一人で決めちゃう!

 あたしがどれだけ寂しかったとかわからないでしょ!

 自分が会いたい時だけ連絡して!もういい!

 直樹とは一緒にいられない!もう・・・別れる!」


「別れてどうするの?東京のあの馬鹿げた話に乗るの?

 そんなの無理に決まってるじゃない。黙ってここにいれば

 なんの心配も無いのに、それでもそうするの?」


(なに言ってるの?)と言うような顔をして少し笑いながら言った。


「無理かどうかなんかわからないじゃない!

 馬鹿げてなんかいない!なんでも直樹の言うことが

 正しいと思わないで!あたし東京行く!」


「失敗するのが関の山だよ・・・

 俺のこと好きなんでしょ?ならいいじゃない。

 俺もまゆのこと大好きだよ。だからいつも家にいてくれたら

 もう寂しいことなんか無いだろ。俺は、どんなに遅くなっても

 キチンとここに帰ってくる。無駄な努力することないだろ」


「もう直樹の言うことなんか聞きたくない!さよなら!」

引き止める声も聞かずに部屋を飛び出した。


そのまま車の中から祐子さんに電話をした。

きっと今の勢いで言わないともう電話はできない。


「もしもし。祐子さん!」

「あら。まゆちゃん。どうした?また出張決まった?」

「あたし、祐子さんの会社行きます!お願いします」

「え?ど・・どうしたの、、なにかあった?え?」


ちょっと慌てて祐子さんが答えた。


「ダメですか?あたし3月で仕事辞めます!直樹とも別れます!」

「えぇー 本当にいいの?本当?」

「本当です!」


「そりゃ・・・私はとっても嬉しいけど・・・・でも、、彼の」

「じゃ!そーゆーことで!また連絡します!」


いつもとは反対に一方的にこっちから電話を切った。

悔しくて涙が溢れた。


(馬鹿にして・・・ )


涙をグッと拭いて直樹の家の駐車場から出た。

腹が立ちすぎてどこを走ってるのかわからなかった。


ピピピピ・・・

信号が赤の時に携帯が鳴った。

直樹からなら、もう一度文句を言おうと思い画面を見ると健吾だった。



「もしもし・・・あの・・大丈夫か?まだ話中?」


「今、健吾の家に行く!」


「あ・・・うん。じゃあ、、待ってる。あんまり熱くなって事故るなよ」


携帯をバックの中に投げ入れ、そのまま健吾の家に向った。

インターホンを押し、健吾が顔を出した。

「どうなった?」心配そうな顔を見て、一気に涙が溢れポロポロとこぼれた。


「ちょっ!こんなとこで泣くなよ!隣の人に誤解されるだろ・・

 もぅ〜 とりあえず入れよ」


そう言って慌てて中に入れた。



「やっぱり本当の話だったのか?もう決まりか?」

そう聞かれれば聞かれるほど悔しくなり、健吾に抱きついて大泣きした。


「やっぱり・・・本当かぁ・・・」


そう言いながら黙ってそのまま背中をポンポンと叩き、

泣き止むまで黙って待っていてくれた。


少し時間をおいてから、目の前にウーロン茶を出して

「まぁ・・・ちょっと落ち着けよ」と言い自分もビールを飲んだ。


「落ち着ける訳ない!」そう言って健吾のビールをとり一気に飲んだ。


「あっ!馬鹿!お前車だろ!なに飲んでるんだよ!」


「もうなんでもいい!もぉぉぉ〜! 嫌だ!」

「嫌だ・・って。俺も酔っ払って絡まれるの嫌だぁ〜」

そう言って全部ビールを飲み干したあたしを見て情けない顔をして言った。


「まだ時間あるしさ、向田さんだってちゃんと話せば分ってくれないか?」


「しらない。もう別れるって言ってきた」

「はやっ!まじで?向田さんなんて?」


「知らない。そう言っても「別れて馬鹿げた話に乗るのか?」だって・・・

 もう知らない。絶対許さない!あんな男!それも笑いながらだよ?

 なによ!ちょっと顔がいいからって!」


「いやだから・・顔は関係ないから・・・」

「だって、一目惚れだったんだもん!」

「知らねーよ!そんなもん!」


呆れた顔をして馬鹿にしたように言った。


勝手に冷蔵庫をあけてビールを数本だし、健吾に一本渡して

「別れた記念に乾杯だ!」と差し出した。


「つーか・・本気なの?まぁ・・ちょっと今回のは向田さんが

 悪いけどよぉ・・・ 」


「もういい。あの顔は好きだけど性格は大嫌い!

 やっぱり顔がいいのは性格が悪いんだ!よくわかった!」


「俺は前からワンマンだって知ってたけどなぁ〜

 だからあんまり好きじゃなかったけどさぁ・・・」


「健吾だって別れろって言ってたじゃない。

 本当にもういい。絶対別れる!はい!乾杯!」


無理矢理に乾杯をさせ、また一気に半分ほど飲んだ。


「つーか・・・この乾杯の意味がわかんねぇ・・・」


そう言いながら健吾も呆れた顔をしてビールを飲んだ。




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