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ネガティブ満載・・・

いつまでも祐子さんに電話をできないでいた。

携帯を開いては閉じ・・・また開いては閉じ・・・

ため息交じりにボケ〜と携帯を見つめていた。



直樹はあれ以来、その話を一切しない。

あたしもできなかった。

したところで直樹の口には敵わないし・・・




日帰りの出張で朝から健吾と車で移動をしていた。


「誰に電話するのに、そんなに迷ってんだよ」

「ん?・・・・・うーん・・・」

「なになに〜男?」そう言ってニヤニヤとした。


「いいね。健吾は悩みが無くて」

「あるっつーの!俺にどうして彼女ができないのか不思議だよなぁ〜」


(やっぱりいいなぁ・・・能天気で・・・)


「ねぇ・・健吾。あたし達の仕事って簡単なポジションなの?」


「え?あ〜 まぁそうかもな。ほら、俺だってまゆとは半年しか

 違わない訳じゃない。俺達が一番下っ端と言えば下っ端だからなぁ。

 そりゃ〜貴女の大好きな直樹さんとの仕事内容と比べたら

 幼稚園児と大学生くらいの違いはあるわなぁ〜」


「そっかぁ・・・ あたし全然知らなかった。直樹もほとんど同じこと

 してるんだと思った・・・」


「扱う金額が違うって。俺達精々月に500万くらいの幅しかないのに、

 向田さんは何千万て範囲のデカいもの扱ってんだぞ?

 俺達が失敗しても、さほど怒られないけど、あの人の選んだ物が

 コケたら大変なことなんだぞ」


「そうなんだ・・・・あたし何も知らないで「休んで!」って言ってた・・・

 そんなことなにも教えてくれないから・・・」


「あ、、それで最近、向田さん日曜日は休んでるんだ。良いとこあるじゃん。

 まぁ〜俺も12も下の彼女に「休んで〜」って言われたら休むな。

 下手したら辞めるまであるな。もう朝から晩まで・・・・」


隣で下ネタを言う健吾を無視して、自分が直樹にわがままを

言っていたと思うと申し訳ない気持ちになった。

背負う大きさが全然違うのに、それを顔に出さないであたしの為に

無理をしてくれている・・・



その日、会社に戻り仕事をしている直樹の隣にコッソリ近づいた。


「今日、家に行っていい?遅くなっても文句言わないから・・・」


「あぁ。できるだけ早く帰るよ」


ニコッと笑ってくれた顔を見て、小さく頭を下げて側を離れた。

少しだけ目が充血していて疲れた顔をしているように思えた。


自分のデスクに戻り、残った仕事を始めると

その話を後ろを通りかかって聞いた健吾が、

「仲いいじゃん。珍しい〜」と冷やかしながら声をかけてきた。


「そう?いつもだよ」


「もっと言えばいいんだよ。残業が普通になってんだから、あの人は。

 定時は無理でも、もっと一緒にいれると思うぞ?その気になれば」


「ううん。迷惑にならない程度でいいの」


「本当にお前は都合のいい女だよな・・・

 まぁ、、少しは合わせてくれてるみたいだからいいけどさ」


健吾のほうを見て少し笑って仕事を続けた。

8時前に健吾と一緒に仕事を終え、直樹よりも先に会社を出た。


駐車場につくまでの間にふと健吾が


「俺もあと何年かしたらあんな風に仕事ばっかになるのかな〜」と呟いた。


「根が違うから大丈夫じゃないの?」


「いやだってさ、40歳くらいだとリストラ対象とかになるじゃん。

 あんな風に絶対必要な人にならないと残れないのかな〜ってさ」


必要な人・・・確かにそうだと思った。

もうすぐ部長になるくらいの人だし、今、直樹が会社を辞めたら

大変なんだろうな。


「やっぱ転職するなら早めがいいな。もっとコジンマリとした

 やりたい仕事ができる所がいいな〜俺は」


「えー転職するの?いつ?」


「いや、すぐじゃないけどさ。俺くらいの歳だとやっぱ考えるだろ。

 ヤスも仕事探してたしさ、カオルだってそんなこと言ってたし。

 30過ぎたら歳の響きからして、もう人生半ばすぎって感じだしな」


「カオルも仕事辞めるの?」


「うん。なんか言ってた。年内か、来年かわからないって言ってたけどな」



(カオル・・・実家に帰るんだ・・・ )



「結婚するのカオル?」


(聞きたいような聞きたくないような・・)


「いや?そんなことは言ってなかったなぁ・・女いるのかな?」


「ラビが見たって・・・女の子と一緒のとこ」


「へー。アイツそんなこと言わないからな〜。いたんだ?

 まぁ、ラビが見たって言うならいるんだろな。

 なんかチャラチャラしたアクセサリーとかつけてたし」


「ふーん・・・そうなんだ」


「お前・・・実はまだ好きなの?カオルのこと」


ニヤニヤしながら健吾は人の顔をジロジロ見た。


「そんなんじゃないよ!ただ結婚するなら実家に戻るって言ってたから、

 だからそれで転職すんのかなって・・・ それだけ!じゃーねバイバイ〜」


そう言って車に乗り直樹の家に向った。

もう別れて2年近くなる・・・そんな話があってもおかしくない時間が

経っているんだ。


なんとなく素直に「おめでとう」と祝えない自分が

(器ちいさっ!)と思った。


直樹が帰ってくるまでに簡単にお風呂に入り、ご飯の用意をして待っていた。

11時になっても12時になっても直樹は帰らず、

そのうちベットで横になっているうちに眠ってしまった。


暗闇の中、かすかに動いたベットに直樹が入ってきたのが分った。


「あ、、おかえり・・・今何時?」


「あ。起こしちゃったか〜 ごめん。今2時半すぎ」


「そんなに無理したら体壊すよ・・・」


「ん・・大丈夫。ごめんな。早く帰るって言ったのに」

そう言って隣に横になり大きく伸びをしてあくびをした。


そんな直樹を黙って見ていた。「疲れたよ〜」とほんの少しの弱音を

言ってくれないかと思いながら・・・


「どうした?目覚めちゃった?」


「直樹疲れてない?」


「いや?大丈夫だよ」


そう言って体を寄せ、軽く頭にキスをした。


「そうじゃなくて!どうして疲れたって言ってくれないの?疲れてない訳無い

 じゃない。「疲れた」とか「もう嫌だな〜」とかどうして言わないの?」


「言ってもなにも変わらないじゃない。これが現実だもの」


「直樹が本音を言ってくれたのって・・あたしが初めてここに泊まった

 時くらいだね・・・」


「初めて泊まったときは酔っ払って寝てただけじゃない」


(うっ・・・)


初めてここに泊まった時はまだ直樹の事を憧れていて

手の届かない存在だと思っていた時だった。

二人でいることに浮かれて飲みすぎて、ここに運ばれたんだっけ・・・



けど、あたしが言った「初めて」は、カオルと別れたほうがいいのか

散々悩み抜いて毎日眠れぬ夜を過ごし,そして直樹を選び、この部屋に来た。


「やっと来てくれたね」そう言った直樹の顔は今でも忘れない・・・

そしてきっと自分を選ぶことは無いと思っていたと、普段のクールな

感じとは違い、本当の気持ちを言ってくれた。

その時、「この人も普通の人だったんだな」と感じたのに・・・・



「そうじゃなくて!初めてここで・・その・・ちゃんと泊まった時に

 少しだけ言ってくれたことしか、あたし記憶にないなって」


「そんなこともあったね。あの日のまゆも可愛いかったよ」

そう言って腕枕をして、すぐに直樹は眠った。


なんだかあたしは直樹にとってなにも役にたっていないんだなと思った。


あたしがいてもいなくても・・・さほど直樹の毎日に変化が

無いんじゃないのかな・・・・




なんとなく次の日は浮かない顔をしていた。

朝から延々と続くデスクワークに嫌気がさしていたのもあったけど。


「昨日と打って変わって暗い顔だな?」


同じく朝からのデスクワークにアクビをしながら健吾が言った。


「ん?別に〜」そう言いながら、貰いアクビをして言った。


「昨日、いつまでも起きてたんじゃないの〜 うわ。やらし〜」


「健吾の顔のほうがいやらしいよ・・・なにもしてません!

 直樹帰ってきたの夜中の2時すぎだもん・・・」


「うはー すごいなぁ。やっぱりお前より仕事が好きって感じだな〜」


健吾は軽い冗談で言ったようだが、その言葉に思わず手が止まった。


そうだなぁ・・・ 

そうかもしれないなぁ・・・



「健吾・・今日さ、夜時間ある?」

「あ?まぁ・・・あるかな。なんで?」

「ちょっと相談があるの。いいかな?」



その日の夜、健吾と近くの居酒屋に行った。


「で。なに?相談て?」

「うん・・・ あのね・・・」


ちょっと言いにくい所もあったが、祐子さんの話をした。

そしてそれに対しての直樹の意見も少しだけ教えた。


「ふ〜ん・・・で。まゆはどうしたいの?」


「迷ってる・・・ 行って助けてあげたい気もするけど、でも役不足とも

 思うし、それにきっと行くってことになったら直樹と別れることに

 なるような気がするし・・・」


「そうじゃなくて、お前はやりたいのか、やりたく無いのかってこと。

 助けるとかじゃなくて、向田さんと別れるじゃなくて、

 お前が本当にやりたいのかってこと」


「う〜ん・・・・」


「お前がやりたいなら、本気でやればいいじゃないか。

 役不足なんてやってみなきゃわかんないだろ?

 それに本当にお前、いまのまま仕事辞めて黙って家にいろって

 言う向田さんに従うのか?それは大事にするとは違うと思うな」


健吾と直樹の意見は見事に逆だった。

きっと健吾はそう言うと思っていた。

でも、経験と実績から物事を言う直樹の意見に対して、

勢いで物事を言う健吾の意見を信じていいのか迷った。


「つーかさ、それいつまでに返事しなきゃならないの?」


「さぁ?それは聞いてない・・・・」


「でも・・・きっとお前は向田さんに何も言えないんだろうなぁ・・・」


「やっぱそう思う?あたしもなんかそんな気がする」


「上手くいってそうで、いってないもんな〜 なんか同等じゃ

 ないんだよなぁ・・・ 結婚してもお前寂しいぞ?」


「いや、すぐにはしないけどさ・・・・」


「だってお前も、もう26だろ?なんだかんだで1年くらいすぐじゃん?

 女も27・8って言ったら、結構残り物っぽい歳じゃね?」


「わ!ひどー でも、だんだん周りの友達も片付いてるしな〜」


「結婚だけが幸せじゃないけどな。今はみんな遅くなってきてるし、

 気にすることでも無いけど、これから向田さんと別れて

 次って言ったら大変かもな〜 ラストチャンスだったりして」

そう言ってゲラゲラ笑った。


そうだよなぁ・・・きっと東京に行くなんて言ったら直樹と別れることになるし、

あっちに行ったからってすぐに相手が見つかる保障はないし・・・

祐子さんは望月さんいるし・・・

一人で寂しく仕事以外なにをすればいいんだろ・・・・


そんな不安もあり、だんだんと祐子さんの話は夢に思えてきた。

後悔するかもしれないけれど、行って失敗したらあたしには

もう何も残らない。


今の仕事も、直樹も、すべて捨てて行く覚悟がどうしてもできなかった。

家に戻り、決意が鈍る前に祐子さんに電話をした。


「あの、まゆです」

「あ!まゆちゃーん!どう?彼氏なんて?」

「あ・・・う〜ん。やっぱりダメって。きっとあたしじゃ無理だって・・・」

「随分な理由ねぇ・・・ やっぱり私、一度彼に会っていい?」

「いや、、やめておいた方がいいですよ。淡々と痛いこと言われますよ?」


きっと直樹は祐子さんに会えば、いつもの愛想のいい顔をすると思った。

けど、本題に入れば結構ハッキリとあたしに言ったように

「それは無理です」とか「まゆにはできません」とか言うんだろうな・・・


「そんなのは覚悟の上よ!」

「いや、、、でも〜」

「じゃあ来月にでも行くわね!彼氏に言っておいて!一度話聞いてって」

「あ・・いや、、その」

「まだそんなに急ぐ訳じゃないの。私も会社にもまだ言ってないしね。

 一応、来年の決算までは辞めることできないし。どっちにしろ」


「新しい会社はいつくらいって考えてるんですか?」


「望月のほうも引き抜きに難航しててね。だから来年の秋くらい?

 そんな感じだからまゆちゃんもゆっくり考えてくれていいわ。

 焦るといいこと無いから、私達も慎重に話進めてるから。

 でも、スタッフが早めに決まると安心じゃない?だから。ね?」


「あ・・・いや、そのゆっくりもなにも・・・」


「日曜は休みよね?じゃあ、日帰りでもいいわ。日にちを

 決めたら連絡するわね。今ちょっと忙しいから。じゃーね」


一方的に電話を切られた。


あたしはいったい本当はどうしたいんだろう・・・

なぜいつもハッキリと言えないのだろう。


もう誰にも相談できなかった。

自分の気持ちが固まっていないのに、誰かにどんな助言を貰っても

それを行動にうつせない。


その日、いつまでも考えた。


けど、やっぱり失敗して今の状況がすべて無くなることが怖かった。

あたしはどこまでも保守的な人間なんだと感じた。


きっと、このまましばらく仕事を続け、数年以内に直樹と結婚をして

子供を産んで暮らす・・・

たぶんそんなとこだろうと思った。


それを少し不満と思うのはたぶん贅沢なのかもしれない。

きっと直樹はこれからも会社で頑張り、どんどん認められ上にいく。

たまの休みには、いつものように優しいのだと思う。


ただ・・・その休みがあればのことだけど・・・


どんどん考えはネガティブになっていった。

子育てとかも全部協力が無いまま、全部あたしなんだろうな。とか、

毎日帰りが遅くて一人ぼっちなんだろうな。とか。


あまりに悪いことばかりを考えてどんどん気持ちが不安になった。


「これ以上考えたら、眠れなくなるから、もう寝ようっと・・・」

そう呟いて布団をかぶった。



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