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久しぶりのヤス

一週間後。


「今日早く終わるだろ?ヤスと飯食いにいこうぜ。

 お前運転な。俺飲むから帰り送ってくれよ」

もう話が決まっていたかのように、健吾が言った。


「でも・・・まだ直樹、、、じゃない向田さんに言ってないから・・・」

「ダメなんて言う訳ないだろ?じゃ、聞いてこいよ、あそこにいるだろ」


健吾の視線の先に、書類に書き込みをしている直樹の姿があった。

周りに人がいないのを確かめて側に行った。


「あの・・・向田課長、、ちょっといいですか?」

「ん?あぁ。まゆか、どうした?」


呼び捨てにされ、慌てて周りに人がいないか見た。


「誰もいないよ。今日はみんな出張だから。どうした?

 なにかわからない所でもあった?」

レンズだけの眼鏡を外し、目を軽く押さえながら言った。


「大丈夫?なんか疲れてるみたいだけど」


「ん・・・ちょっと量が多くてね。なかなか思った通りには進まないよ・・

 週末は休もうかなぁ〜。たまにはまゆと一緒にいたいしね」


「うん・・・・」


「で?なにか聞きたいことあったんじゃないの」


「あ・・健吾がね、共通の友達に会うんだけど、一緒に行かないかって。

 その、男の人なんだけど全然そんなんじゃなくて、、、

 でも、ダメって言うなら、、、行かないけど、、、どうかなって」


モゴモゴと言うあたしを見て直樹はちょっと笑いながら答えた。


「行っておいで。ちょっと忙しくて今日は一緒にいてあげられないし、

 マツも一緒なんでしょ?なら安心だよ。それにもう、まゆのことは

 信用してるから。そんなに気を使わなくていいよ」


(今日<は>じゃなくて、今日<も>だろ!)


「うん。わかった。じゃ、あまり遅くならない程度に帰ってくる・・・」


「ん。気をつけてね。楽しんでおいで」

そう言ってまた眼鏡をかけて仕事を始めた。


本当は

「え〜。男でしょ?ダメだな」と言ってほしかった。

けど、いつもの余裕な感じで「行っておいで」と言われると、

それ以上なにも言えずに自分のデスクに戻った。


そんなあたしを見て、健吾は

「なんて?」と聞いた。

「「行っておいで」って・・・・」そうしょんぼりした顔をした。

「なんだよ・・・行くの嫌ならいいよ。OKもらってその顔って・・・・」

「ううん。行く・・・暇だから」


「暇だからって!まぁ、、いいや。俺も帰り困るしな。じゃ、今日は6時で

 帰ろうぜ。それまでに仕事終わらせておけよ」


そう言って自分もデスクに向った。

なんとなくガッカリした気持ちのまま仕事を始めた。

本当に信用をしてるだけなんだろうか・・・

もう飽きられてしまったんじゃないかと少し心配になった。


少しだけ重い気持ちのまま時間は過ぎていき、

定時を少し過ぎた頃、健吾が帰り支度を始めていた。


「じゃ、そろそろ行くぞ。用意いいか?」


健吾に言われ、パタパタと書類を閉まっていると、ちょうど後ろを直樹が通った。


「マツ、まゆのこと頼むな。飲むと寝ちゃうからアルコールは飲ませないでな。

 俺の彼女はレンタル料高いからな。今度オゴってくれよ」

そう言って健吾に笑いかけ、どこかに歩いていった。


「は〜ん・・・俺の彼女ねぇ・・・・ 都合のいい時しか会わないくせに〜」

そう小声で呟き「行くぞ」と言って歩きだした。


直樹の言葉にちょっと嬉しくなったのに、健吾の言葉に

スタート地点より気分が落ち込んだ。


車を運転しながら、

「ねぇ・・・あたしって都合のいい女なのかなぁ?」と健吾に聞いた。


「いや、その言葉に本当に当てはまるような都合のいい女とは

 ちょっと違うけどさぁ・・・けどまぁ、、向田さんにしては都合いいと

 思わないでも無いな」


「そっか・・・ 」


「まぁ・・・なんだ・・・ 別に他に女がいる訳じゃなし、そうへこむなって」


8時過ぎにヤスとの待ち合わせの場所に着き、店に入ると窓際の席にヤスがいた。

2年ぶりに逢ったヤスはさほど変化は無かった。


「よ!久しぶりだな。リオ!」


懐かしいチャットをしていた頃のハンドルネームで呼ばれ恥ずかしくなった。


「リオだったんだよな。ハンドルネーム・・・プッ・・」

そう言って健吾が隣で笑った。


「いいじゃない。ネットの世界はそんなもんなんだから!」

そう言って席についた。


「で。どうよ〜 最近は!彼氏いるんだろ?ヤッってる?」

いきなりそんな話題から入る所がやっぱりヤスだと思った。


「これがヤッてないのよ。彼が仕事忙しくって〜」

あたしより先に健吾がヤスに言った。


「うるさい!馬鹿じゃないのあんた達!」


メニューを見て話をそらした。

食事をしながら、ヤスと健吾は仕事の話をしていた。

仕事の話なら入れると思い、3人で話を続けた。


「しかしなぁ・・・リオがバリバリに仕事するとはな〜」

ヤスが思っていなかった!という顔をして言った。


「昔から、センスはあると俺は思ってたよ。なんでも最後まで

 キッチリやるとこあったしな」

なにげない健吾のフォローは嬉しかった。


「仕事も男も上手くいってんだ。よかったな」


「うん。そうだね」


仕事は上手くいってるが、はたして男が上手くいってるのかは

かなり微妙だと思いながらも頷いた。


「この前の葬式でさ、カオルの妹可愛いのな。でも俺には紹介しないって

 言いやがってよ。あの野郎!まったく友達甲斐の無いやつだよ」

健吾に不満そうに言うヤスの言葉に顔をあげた。


「葬式って?なんでカオルの妹に逢ったの?」


「カオルの母さんの葬式だよ。まぁ・・リオには言わないだろな。

 元カノに言っても仕方無いだろ?」


「いつ?最近?」


「もう一ヶ月くらい前かな?俺、焼香とかわからなくてさ〜」


まだヤスはペラペラとしゃべっていたが、頭の中には怖いカオルの

お母さんの顔が浮んだ。

一度しか逢ったことは無かったが、仕事が異動になったばかりのあたしに

「そんな仕事ばかりしてるのは困るから辞めてカオルの側に来なさい!

 将来結婚したら同居なんだから」と怒った顔が浮んだ。


いまどき同居なんて・・そんな理由でもカオルとの別れが

早まったのは事実だった。


「あの・・・カオル大丈夫だった?」

ヤスの話を止め、言った。


「あぁ。まぁ、自分の親だからな、そりゃ落ち込むけど、俺達の歳じゃ

 そろそろそんなのがあってもおかしくは無いだろ?病弱だったって

 言ってたしな。癌だってさ」


「そうなんだ・・・・」


もう関係無いとは思ってもなんとなく悲しい気持ちにはなった。

やっぱり人が死ぬということは嫌なものだ・・・


「会ったことあるんだっけ?」健吾がそんなあたしを見て言った。

「あ・・一度だけね。ほんの少しだけど・・・・」


「親にも紹介したのに、別れたんだもんな〜

 あれは驚いたよな。あんなに「体の相性がいい!」ってお互い

 言ってたのにな〜 いろいろ教えてもらったしぃ〜」そう言ってヤスが笑った。


「そんなに?よかったんだ・・」健吾が笑ってこっちを見た。


「あたしは言ってない!お互いとか言わないでよ!」


カオルと今でも連絡を取っていると言うことを思い出し健吾の顔を見た。


「健吾、知ってたの?カオルのお母さんが亡くなったこと?」


「あぁ・・ でも、まゆに言うことじゃないだろ?いまさら」

不思議な顔をしながら言った。

確かにそうだけど・・・ 


目の前で健吾とヤスはワイワイと話をしていたが、あたしの頭の中には

カオルのお母さんのことでいっぱいだった。


「・・・・なんだよな?」

なにか聞かれたと感じ、「え?」と健吾を見た。


「なに?ボーとして。向田さんが歳より若く見えてカッコイイって話」

「あぁ・・・うん。そう・・・」そう言って頷いた。

「あいかわらずシレッと惚気るな」ヤスがニヤニヤして笑った。


「でも、俺は認めない」また健吾がこの前の話しを蒸し返しムッとした顔をしていた。


「もぅ・・・その話はいいじゃない。あたし直樹のこと大好きよ?」


「ふ〜ん。そんなに年上ならさぞ素敵なテクニックもあるんだろなぁ・・」


ヤスの顔が一段とニヤニヤとし、健吾までその顔は伝染した。


「あぁ・・・そういうことか!だからお前、向田さんの言いなりなんだ?」

呆れた顔をして二人を見て、話を無視した。


「ねぇ。ヤスはもうみんなと連絡してないの?チャットしてた時の」

「俺?してねーなぁ〜 カオルと健吾くらいか?カオルはヒデとも

 連絡とってるみたいだけどな」


「そっか・・・ 今度ラビに電話してみようかな?全然連絡してないしな〜」

「そうだな。今度東京に行った時でも会ってみたら?」そう健吾に言われ

「うん。そうしてみる」と答えた。


ちょうど話が切れた所に携帯にメールが入った。


それを見て、健吾が

「男と会ってるって思うと、連絡してくるんだな。そんなに心配なら

 もっと普段から大事にすりゃいいのに」と見てもいないのに直樹のメールだと決め付けた。


メールを開くと祐子さんだった。


祐子さんはカオルの上司で付き合っていた頃に2〜3度会ったことがあり、

なんとなく気が合うなと思った。

竹を割ったような性格と言うのがピッタリの人で、

カオルと別れてから、東京に出張で行くことがあり、

そこで偶然再会し、それからカオルには内緒で今でも連絡をとっていた。


<今度東京にいつ来る?ちょっと話があるんだけど時間あるかな?>



「直樹じゃないよ。友達からだった。ねぇ?今度の東京行きっていつだっけ?

まだスケジュール貰ってないけど。ちょっと会いたい人いるんだ、日にちわかるかな?」


「そうだなぁ・・・一ヶ月以内にはあると思うぞ?まだハッキリしてないけど。

 て、誰?男?」


「ううん。女」

「可愛い?」すぐさまヤスが聞いた。

「うん。綺麗だよ?40過ぎだけど」

「おっと、それは無理!」と速攻断った。

「ごめん。ちょっと電話してみるね」そう言って返信を打たずに電話をかけた。






「もしもし?まゆです。今いいですか?」

「あ。ごめんねー ちょっと、まゆちゃんの仕事のことで聞きたくてさー」

「祐子さんがあたしの仕事を?」

「うん。雑貨とかのことで。まゆちゃんの専門でしょ?」

「あぁ・・・・まぁ。そうですけど」

「いろいろメーカーとか知ってるよね?」

「えぇ・・それが仕事ですから」

「ちょっと助けて欲しいの。今度来た時ゆっくり話すわ!」

「はい。じゃあ・・・一ヶ月以内には行くけど間に合います?」

「うん。わかったー。じゃあ決まったら教えて。電話ありがとねー」


相変わらず忙しそうな感じで電話は切れた。

なんだろぅ?祐子さんがなにか雑貨が欲しいのかとその時は思った。


「仕事の話?」健吾が不思議そうに言った。

「うーん?なんだろ?まぁ・・いいや。次の時ちょっと逢って聞いてくる」


ヤスと健吾はかなりの飲みっぷりで騒いでいた。

結構な時間になり、ヤスもホテルに戻っていき、私は酔っ払いを助手席に乗せ、

元来た道を走った。健吾はお酒好きなくせに弱く、いつも泥酔いだった。


「あ〜 なんだかムカつく」ブツブツと健吾が文句言いながら

隣で騒いでいたが、酔ってる人になにを言っても無駄なので

「はいはい」と軽くかわしそのまま走った。


健吾の家に着き、ヨロヨロしている健吾をベットに放り投げ、

布団をかけて家に戻ってきた。


自分の家の電気はやはり消えていた。

ちょっとだけ直樹が家に来てくれていたらいいなと思ったのに、

それは期待はずれだったようだ。

電気をつけ家に入り、

(倦怠期かぁ〜)と思いながらシャワーに入った。


彼氏がいるだけいいのかな・・・そんなことを思いながら

髪を乾かした。

時計を見ると12時だった。


ふと思い出し、ラビの電話番号を押した。


「もしもし?」

「どちらさまですか・・・・」かなり怪しんだ声が聞こえた。

ラビと最後に電話をしてから、もう1年半くらいは裕に経っていた。

携帯を新しくしてから始めてだったので、こんな遅くに知らない番号からの

電話に出てくれただけありがたかった。


「あの、まゆだけど・・・ラビ?」


「えぇー!まゆぅー!どうしたの?携帯変えちゃってー

 私何回も電話したんだよー でも誰も番号知らなくてー」


「ごめんごめん。いろいろあってさ。ほら、カオルと別れた時に

 携帯変えちゃったの。ごめんね。連絡しなくてー」


「うんうん。いいよー やっと連絡とれたしー」


そんなに感激してくれて嬉しかった。

それからお互いの近況や、カオルとの別れ、直樹のこと、ヒデとの話、

延々と3時間ほどしゃべっていた。

途中でバッテリーが切れそうになり、二人で慌てて充電のコードを繋いだ。


「そっかぁ・・・やっぱり向田さんに行っちゃったかー。でも幸せなんでしょ?今は」


素直にそう答えることができなかった。

そして今の状態ちょっとだけ伝えた。


「でも、一緒の会社だしさ。顔が見れる訳なんだからさ。

 あまり贅沢言わないの!」そう言ってラビは笑った。


「でね。次の出張の時にラビに会いたいなって思って電話したの」


「うん!いいよ!じゃあうちに泊まりにおいでよ!

 私もサクラとはもう連絡とってないんだけど・・・連絡したほうがいい?」


「ううん。いいよ。元々サクラは普通の彼氏いたんだし、

 今となっては連絡もらっても迷惑かもしれないし」


「普通の彼氏って・・・・」そう言ってラビが笑った。


お互いネットで知り合った彼氏のことを笑いながら、

「でも人に言う時困ったよね」と言った。


ラビに新しい携帯のメールアドレスを教え、出張が決まったら電話すると

伝え電話を切った。

久しぶりにいろいろ話せて、満足した。


次の出張は忙しいな!仕事以外のことが!

そう思いながらベットに入った。



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