健吾の出張
5月に入り、祐子さんが朝から出勤をするようになり安心した。
4月の末に来てから、毎日午前中は気まずく、
望月さんもかなり二人の間を気づかいこっちが
申し訳なくなるほどだったので、
祐子さんがいるといないのとでは、場の雰囲気が違った。
まだカオルとはほとんどまともに話をしていなく、
お互い朝、出勤しても軽く目だけで挨拶をする程度だった。
それでも仕事にはあまり支障が無く、ヤリずらい所はあったが、
それもこれも自分のせいだと思い、あまり気にしていないフリをして仕事を進めた。
何件かのメーカーは最初から、好感触で商品を入れてもらうことになり
気持ち良く話は進んだ。
けれど、何件かは
「新しい会社だと・・ちょっとね・・・ もうちょっと実績があると
うちも問題無くだせるんだけど〜 ごめんね。吉本さんは
信用してるんだけど、上がOKださないんだ・・・」
そう言われて断られることも多かった。
「あ。いえ、気にしないでください。けど、そこそこ信用がついたら、
その時はよろしくお願いします」
内心(買ってやるって言ってんのに!)とムカつきながらも笑顔で電話を切った。
小さくため息をつき、今になって直樹が言った言葉が正しかったと暗い気持ちになった。
GWになのに、みんな黙って仕事をしているのを見て、
「祐子さん?せっかく連休なのにどこも行かないんですか?」と、
デスクでご飯を食べながら聞いた。
「だってどこも混んでいるでしょ?たいした行きたい所も無いし。
それより仕事してるほうが気楽なのよ。
まゆちゃんどこか行きたいの?なら休んでいいわよ」
「あ・・いえ。あたしも人混み嫌いだから。
それに、まだサンプルとかチェックしてないし、メーカーが休みでも
やらなきゃならないことは山ほどあるから・・・」
「そう?休みたい時言ってね。まだ本格的に開始じゃないし、
そのうち開始したら、ちゃんと休みは日曜って決めるから。
7月までは自己申告ね。 ね?矢吹君もそれでお願いね」
そう言ってついでにカオルのほうも見た。
「あ・・・はい。俺もいいですよ。別にたいした用事無いし。
サッカーも辞めちゃったし。まぁ、、もう年齢的に無理だけど」
そう言って祐子さんに笑った。
内心、(彼女に会わないのかなぁ・・・)そんなことを少し思った。
けど、今の雰囲気は気軽に休みたいと言える感じでは
ない空気が会社の中に漂っていた。
少しだけ入荷した商品をチェックしに下の倉庫に行った。
少し値は張るが、そこそこ満足できる品を買いつけできて
(ん〜 なかなかいいじゃん)と思いながら見ていた。
後ろからガサガサと音がして、カオルがいるのがわかった。
けど、なんとなく話かける雰囲気ではなかったので、
黙ってそのままサンプルチェックなどをしていた。
「あのさ・・・」
急に話し掛けられ、商品を見ながら
「なーに?」と聞いた。
「連休なのに帰らないの?いいのかよ彼氏」
カオルも商品をデジカメに撮影しながら聞いてきた。
(いいも・・・悪いも・・・無いんだよなぁ〜)
と思いながらも、「うん。いいの」と答えた。
「もしかして上手く行ってないとか?」
「ん?別に〜 そっちは?いいの連休なのに彼女放っといて」
「え?あぁ・・・まぁな」相変わらず素っ気無い言い方をした。
「上手くいってないの?」ちょっと期待をして言った。
「ん?別に〜」
それきりお互いなにも話さず、黙々と仕事をした。
(別に・・・ってなんだろう?もう別れるんだろか?それとも・・・
仕事に理解のある彼女なんだろうか・・・)
そんなことを考えながら黙っていた。
そんな気まずい雰囲気も5月末には少しづつ解消された。
仕事もそれなりに問題はあったが、なんとか進み毎日が忙しく過ぎた。
そんな中、健吾の出張の日がきた。
アイツ・・・会ったらガッチリ文句を言ってやる!
そう思っていたが、今回は会える日が一日しか無く、
きっとカオルと会うと思い、次の回に溜めておこうと思った。
その連絡の電話の時も、健吾は結構忙しくただ日程だけを
言って電話が切れたので、文句のひとつも言えなかった。
その日の夕方。
「あのさ、健吾に会うんだけど行かない?一緒に」
と、カオルが話し掛けてきた。
「あ・・・でも。二人で話があるでしょ?いいよ。行ってきて」
「いや、健吾にも連れてきてって言われたし・・・
その、、彼氏が怒らないならどうかなって・・・」
「あ・・・うん。じゃあ行く」
そんな会話を祐子さんと望月さんが耳を大きくして聞いていた。
なにげに視線を感じ、二人でそっちを見ると慌てて仕事をしているフリをした。
(けど、今日健吾に会ってもカオルの目の前じゃあまり本腰入れて
怒れないな・・・・)
そう思ったが、久しぶりに健吾の顔も見たいと思い、
その日の夕方は祐子さん達より早めにカオルと二人で
健吾との待ち合わせ場所に向った。
隣で歩くカオルを見ながら、
(こうして二人でゆっくり街を歩くのも久しぶりだなぁ・・・)
そう思いながら、昔なら手を繋いでいたのに、今は離れている
お互いの手の距離をなんとなく見ていた。
人で賑わう街中を歩いていると、路上でアクセサリーを売っている露天が目についた。
そこに、今カオルがつけているのと同じようなデザインのチョーカーがあった。
カオルにあげたのは赤だったが、それはターコイズの石がついた青だった。
ふと立ち止まりソレを手にとり見た。
そんなあたしを隣でカオルは黙ってみていた。
「それ可愛いでしょ?インド製でね・・・」
店の人が簡単に説明をはじめた。
(あ・・・やっぱり同じような物なんだなぁ・・・)
そう思いながら、その話を聞き笑顔で「そうですか」と返した。
カオルにあげた物は、自分でもとても気に入り昔から
大事にしていた物でいままで付き合った人達にも
「それくれない?」と言われては、絶対「いや!」と断り続けた。
健吾になんか即答で断ったくらいだった。
けど、カオルにだけは「よかったら貰ってくれる?」と自分から首にかけた・・・
それをカオルはとても喜んでくれた・・・元々男性用だったこともあり、
それはカオルのほうが似合うと思った・・・
「じゃあ特別安くしてあげるよ!」
その声で我に帰り、「あ・・・いいです。ちょっと見ただけだから」
そう言って頭を下げてその場を離れた。
お互い話をすることも無く、黙って歩いていると、
「色違いだったね・・・」隣で前を見ながらカオルがポツリと言った。
「うん。ほとんど同じだったね。色以外は」
「欲しかったんじゃないの?気に入ってたじゃん。これ・・・」
そう言って自分の首にしたチョーカーをシャツの中から軽く触った。
「ううん。ただ見ただけ。似てるな〜ってさ」
「買ってやろうか?」
そう言ったカオルの顔は昔と同じ優しい顔だった。
その顔を見て、昔のあたしなら「うん!」と笑顔で返しただろう。
けど、今はそんなことしてもらう立場じゃない・・・
「いいよー。そんなお揃いみたいな物してたら、彼女に悪いし。
あ!なんなら彼女に買ってあげたら?さっきのもすごく
可愛いかったじゃない。いいんじゃない?ペアなんて」
自分で言っていて、それが本心じゃないことはわかっていた。
本当はあのチョーカーを今でもしてくれていることが嬉しいのに、
それをペアでつけられることなんか、嫌だった・・・
「それもそうだな・・・じゃ、ちょっと待ってて、買ってくるわ」
そう言ってカオルは今来た道を引き返していった。
その後ろ姿を見て、自分が馬鹿すぎて嫌になった。
つい勢いで言ってしまったとしても、あれほど自分が大事に
していた物なのに・・・値段こそ、そう高価では無かったが、
デザインや雰囲気はいままで買ったアクセサリーの中で
一番お気に入りだったのに・・・
(カオルもカオルだよ。あんなにあたしが気に入ってるの
知ってたのに・・・・ 言ったのは自分だけど)
そのままビルの壁に寄りかかりカオルが戻ってくるのを
惨めな気持ちで待っていた・・・
「ごめん。ごめん。タッチの差で売れたってさ。
俺も健吾の間の悪いのが移ったかなぁ?じゃ、行こうか」
そう言って歩き出した。
「残念だったね・・・」思ってもいない言葉が口から出た。
(先に買ってくれた人・・・ありがとぅ!)
そう先に買ってくれた知らない人に感謝しながら、
カオルの後ろを歩いた。
そんな風に思うなんて自分はなんて性格が悪いんだろう・・・
自分が先に裏切ったくせに、今になってカオルに彼女が出来たことに
内心、つまらないと思っている・・・
(こんな器の小さい所がなにをやってもダメなんだろうなぁ・・・)
ブツブツとそんなことを口にしながら歩いた。
「お前・・・ちょっと変な人に見えるぞ・・・」
「え?あ、、いや、、、なんでもない」
慌てて横に並び、なにも無かった顔をして歩いた。
それでも、彼女になにかプレゼントをしようとしたカオルが、
(結構上手くいってるんだな・・・ )
そう思いながら、今度は口に出さずに黙って歩いた。
店に着くと健吾がニヤニヤしながら手を振っていた。
「よ!似た者同士が来たな。元気だったか?」
相変わらず憎らしい顔をして笑っていた。
「お前なぁ・・・俺が転職のこと言った時点で知ってたんだろ?」
そう言ってカオルが健吾に少し怒った顔をして言った。
「本当だよ!あたしなんか去年から言ってたのに!」
同じく怒って言った。
そんな二人の顔を見ながら、
「そう怒るなって〜 だって会いたかったんだろ?二人して」
ビールを飲みニヤニヤしながら言った。
その言葉に動揺しながら
「なに言ってんのよ。いまさら会ってもなにも変わらないでしょ?」
そう言って慌てているのを隠した。
「そうだよ。もう昔のことじゃん。それに、、あっちではまゆの彼氏が
待ってんだし。」
そうカオルも健吾に向かって言った。
(うわぁ・・・また<昔のこと>だって・・・何度も言うなよへこむじゃん)
内心グサッときながらも普通の顔をした。
そんな二人を見ながら「ふ〜ん」と言い、また健吾はビールを飲んだ。
「ま・・・いいか。じゃ、俺もビール」そう言ってカオルは注文をした。
あたしは隣でまだグサッときた衝撃が強く動揺しながら黙っていた。
「あと、ウーロン茶とね」
それがいつものことのようにカオルがあたしの分を注文をした。
もう昔のことと言い切るならば、あたしがいつまでも
カオルのことをウジウジと思っていては、これからの仕事に
支障が出るな・・・そんなことを思いながら、なんとか普通の顔をした。
久しぶりに会った健吾はぶつぶつと会社の愚痴を言っていた。
少し懐かしい気持ちで昔の会社のことを聞いていた。
「でさ。部長がさ、あ、向田さんな。前にも増してキツイんだよ。
統括になると嫌だねぇ〜 人の仕事にも口出すしさ。
あの人どっかネジが外れてるな。疲れ知らずってくらい
毎日残業してるしさ。俺にはついていけねーよ」
直樹の悪口を言いながらブーブー文句を言っていた。
「俺、ちょっと煙草買ってくるわ」そう言ってカオルが席を立ち、
「おう。じゃあ俺のも頼むわ」そう言って健吾がカオルを見送った。
「直樹、頑張ってるんだね。相変わらず遅いんだ」
なんとなく頭の中に難しい顔をした直樹の顔が浮んだ。
「でさ。まだ言ってないの?部長と別れたって」
いきなり話を変え健吾が聞いてきた。
「え?うん。だって別にわざわざ言うことでも無いでしょ」
「ふ〜ん・・・」
「だって・・・ほら。カオルだって彼女いるみたいだし・・・
いまさら言ってもね」
「ふ〜ん・・・」
「なによ?その「ふ〜ん」て馬鹿にした言い方!
どーせまた「こいつ馬鹿だよな〜」とか思ってるんでしょ!
まぁ、、いいけどさ。どーせ馬鹿だし・・・」
「カオル、彼女のことそんなにお前に言うの?」
「え?うーん・・・聞けばそんな話はちょっとするけど、詳しくは
言わないかなぁ・・・ でも聞きたくないから、あんまりあたしも
その話しないけど・・・あたし器小さいから嫌な顔すると思うし」
「ふ〜ん・・・」またニヤニヤとした顔をして
「好きなんだねぇ〜ん」と馬鹿にした言い方をした。
「うるさいなぁ〜 違うわよ!だから健吾も言わないでよ!
祐子さんにも口止めしたんだから!わかった?」
「はいはい。わかりました〜」
なんとなく信用が無い言い方に
何度も念を押している所にカオルが戻ってきた。
それから最近のこっちの仕事の状況の話になり、
健吾は「なんかいいな〜」と羨ましそうな顔をして言った。
いっそ健吾もこっちに来ればいいのに・・・・そんなことを少し思った。
「あ!そう言えばさっき由美ちゃんに会ったぞ」
いきなり思い出したかのように健吾がカオルに言った。
一瞬、胃がギュッとなった。そんな話にいきなりなるとは思って
いなかったので驚いた。
その問いに答えるカオルを見たくなくて、
「ちょっと、、化粧直してくる!」と慌てて席を立った。
「別に直しても、たいした変わらんぞ?」と笑いながら健吾が
言っていたが、その声を無視して席を立った。
慌ててトイレに駆け込み、
(あの馬鹿・・・わざわざ目の前で言わなくてもいいのに!)
やっぱり自分の器の小さいことが身に染みた。
笑顔で「どんな子?」と余裕で聞けるほど、デキた人間では無かった・・・
それから5分ほどその場で時間を潰し席に戻ると、
もう話はいつものサッカーの話になっていて安心して座った。
さっきの健吾の言葉をなんとなく思い出しながら、
いまいち入れない二人の会話を聞いていた。
「俺もこっち来ようかな〜 」なにかの話のキッカケで健吾が言った。
「あ・・・ でも祐子さんバイヤーもう一人探すって言ってたよ?
どう?うちの会社。健吾なら問題無いよね」そうカオルに言った。
「あ・・・うん。いいんじゃない?でも今より給料安いぞ。
まぁ、、俺としては遊ぶ相手が出来ていいけどさ」
「うん。あたしも健吾なら仕事しやすいし!来ちゃえば?」
それが現実になれば、今よりも仕事が進みメーカーの幅も
広がると思いそう薦めた。
「そうだな〜 本気で考えようかな〜。じゃあ社長に聞いてみて?」
「え、まじで?」驚いてカオルが言った。
「う〜ん。だって今の所はギスギスしてるしさ、同じような仕事する
ならお前等と一緒ってのも悪くないかな〜って。
無職でこっち来るのはマズいけど、仕事で・・・って言うなら
そんなに問題無いかなってさ」
なんだか知り合いの寄せ集めになってきたなぁ・・・
そんなことを思いながら、それが現実になればちょっと楽しいかなと思った。
「う〜ん・・・じゃあ近いうちにでも社長に会うか?
まぁ、、どっちにしろすぐには来れないだろ?辞めるのにも
すぐって訳にいかないし。こっちに来るにしても家とか決めたり
引越しとかなんとかあるし。まずは話聞いてからにしたら?」
ちょっと健吾の勢いに不安そうな顔をしてカオルが言った。
「まぁな。でも転職したいって思ってたし、東京もいいかなってさ。
すぐには来れないけど、家はこっち来てから決めるよ。
それまでカオルの家に世話になればいいし」
そう言ってカオルに「な〜」と言った。
「なんで俺の家なんだよ。嫌だって。男二人で暮らすなんて〜」
気持ち悪〜っと言う顔をしてカオルが健吾に苦笑いをした。
「ほぅ・・・ 俺の頼みをきけないと?ふ〜ん・・・・
そう。ならいいや。あのな、まゆ。俺まゆに教えてあげたいことがあっ・・・」
「わかった!わかったから。いい!来い!けど、決まったらだろ?
まだわかんねーじゃん。断られるかもしれないし」
慌ててそう言ったカオルを見て、
(カオルもなにか弱みを握られてるんだなぁ・・・)と思った。
「断られるかなぁ? じゃあ、それはまゆが社長に売り込んで。
自分より俺のほうが優秀だってさ。俺がいないと仕事できない〜
とか言ってくれよ?な?」
「なに言ってんのぉ?なにがあたしより仕事が出来るって?
まぁ・・確かに仕事面では真面目だとは思うけど、
そこまで持ち上げては言えないなぁ〜
あたしよりちょっと落ちるって言うならいいけど〜」
「ほぅ・・・お前も俺に逆らう訳だ?いいんだ?へ〜
あのな、カオル、実はまゆな・・・こっちに来るにあたって・・・」
「わ!わかった!言う!言うから!あたしより出来るって言う!」
あの顔は直樹のことを言おうとしている顔だと咄嗟に思った。
ちきしょう・・・コイツに弱みを握られているのは問題だな・・・・
そんな慌てるあたしを見て、カオルが不審そうな顔をした。
「そっか。悪いなぁ〜 俺はいい友達を持ったな〜。本当に!
これで家も仕事も問題無いな?
じゃあ次の出張の時にでも時間作るよ。明日はちょっと遅いから。
たしか〜 2週間後にもう一回あるんだ。その時よろしくな。
そっちの会社ちょっと見てみようかな?いろいろ話も聞いてみたいし」
「わかった・・・」腑に落ちない顔をしてカオルが言い、
「うん・・・・・・」と同じような顔をしてあたしも言った。
その日は平日ということもあり、先に帰ろうとして席を立つと二人も一緒に店を出た。
「じゃ、あたし帰るね。この後二人で飲むんでしょ?じゃ、また明日ね」
健吾とカオルにそう言って帰ろうとした。
「あ。俺も帰るから。この辺物騒だし、途中まで一緒に帰るよ」
そう言って健吾に「じゃ、またな」と言ってカオルは歩き出した。
「いいの?どこか行くんじゃないの?」
そう健吾に聞いたが、
「ま、2週間後も会うしな。とりあえず送ってもらえ。じゃーな」
そう言って手を振ってホテルのほうに歩き出した。
「そうなんだ・・・じゃ、また今度ね〜」
小走りにカオルの隣に行き、
「よかったの?もしなんなら・・あたしタクシーで帰ろうか?そんなことしなくても
きっと大丈夫だと思うけど」なんとなく自分のせいかと思い、顔を覗き込んで聞いてみた。
「いや、最近毎日遅いし。眠いな〜ってさ。
ま、襲われはしないだろな〜 どーせ襲うならもっと若い子にするだろ?
誰かさんも、もう歳だし」そう言ってニヤニヤと笑った。
「ちょっとぉ・・・・自分だってもう来年は三十路でしょ!そんなこと言えるの?」
「俺も30かぁ・・もっと昔は30歳ってすごくオヤジと思ったけど、
いざそうなると思うと実感沸かないな」
煙草を吸いながら少し笑ってカオルが言った。
「そうだね・・・あ!そういえばさ、なにか健吾に弱みでも
握られてるの?さっきあんなに慌てて」ふと思い出した。
「えっ・・・いや。そんなたいしたことじゃないけど。
あの、えーと・・・そっちだって弱みあるんじゃないの?さっき慌ててたじゃん」
(そう来るか・・・)
「え?いや、あたしはその、あたしもたいしたことじゃないよ?
別に・・うん。ぜ〜んぜん」そう言って笑って誤魔化した。
「でもほら、もし健吾が住むことになったら、彼女が家に
来れないじゃない?いいの」
(いくら誤魔化すにしろ・・・・もっと他になにかあるだろ!)
自分でそんな聞きたく無い話を振ってしまい、自分の言葉に動揺した。
「あ〜・・・それはそうだけど・・・ でもほら。困った時はお互い様だし。
社長なんて言うと思う?いいって言うかな」
「どうかなぁ?でも健吾は仕事に対しては真面目だよ?
普段はあんな感じだけどね。まぁ・・売り込んであげるさ!」
そう言って笑うと「そうだな」と言ってカオルも笑っていた。
内心・・・・
(このまま健吾がず〜とカオルの家に住み着いて彼女が来れなく
なればいいや・・・・)そんなことを考えた。
そのうちもっと自分が意地悪になるんじゃないかと思った・・・・