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直樹の逆襲

翌日、会社で顔を合わせた直樹はいつものようにクールな感じで軽く微笑み

「おはよ」と隣をすり抜けていった。


その後姿を見ながら、昨日の言葉の返事を考えていた。



(「待っててもいいよ」って言ったらどうする)



難しい顔をして書類に目を落としていたが、全然書類の文字なんか理解していなく、

どう返事をするのが一番ベストなんだろうと、そればかりが頭の中にあった。


「眉間にシワ寄ってるぞ」

「え?」

「明日の休み、また引越しの手伝いしてやろうか。昼飯つきで」


メーカーに商談に行く途中の車の中、またあたしは難しい顔をしていたらしく

隣で健吾が指摘してきた。


「あ、、、うん。そうだね。頼もうかな・・」

「なんだか今日は随分ボ〜としているな。夜更かしでもしたのか?」

「えっ、、、いや、、そんなこと無いけど」


「まぁな。男もいない今、夜遅くまで起きてる意味もねーか」

「う、、うん」



健吾ならこの話をどう思うのかな。

でも、あまり直樹のことを良く思っていないから、きっと反対するかもしれないけど。


「そういや。昨日、向田さんと一緒だったんだって?」

「えっ!ど、、どうして知ってんの?」


「朝、誰かと向田さんが話してた。昨日、誕生日だったから彼女にお祝いしてもらったってニコニコしてたよ。どーりで昨日俺より早く帰った訳だ・・・」


「ちょっと・・・ご飯行っただけだよ」

「別にいいけどよ。つーかお前また良いように利用されてんの?」

「利用なんかされてないよ!」


「だってあんだけ怒ってたくせに誕生日に仲良くお食事ってか?」

「違うってば!ちょっと、、、話をしただけだってば!」

「ふ〜ん・・・。復縁話ぃ?」


っ!!!


「いや、、、それは、、、」

「図星だろ」


少しバカにしたような顔でチラッとこっちを見て、また前を向いた。


「あのさ、、、直樹が遠距離でもいいって・・・」

「へぇ〜。で?」

「「で?」って・・・」

「俺はこの機会に別れたほうがいいと思うな。どーせ今だけだろ、あの人がそう言うの。

 きっとお前があっちに行っても、理由つけてすぐ戻されるぞ」


「やっぱり、、そうかな」

「だろうな。お前まだ分からねーの?あんだけ独りにされてたくせに」

「う〜ん・・・・」


健吾はやっぱり反対なんだろうな。自分も昔そうだったくせに、

スッカリ棚にあげているみたいだけれど。


「人はそう簡単には変われないぞ」

「うん・・・」


昼休みの少し前に会社に戻り、書類の整理をしていると隣にスッ・・・と立つ

人影を感じ顔をあげた。


「まゆ、昼飯行こう」


直樹がニコニコしてお昼を誘ってくるなんて・・・

ちょっとビックリした顔をして、直樹を見ていた。

あたしの周囲の人達もそんな直樹をチラッと見て、視線を外していたが

明らかにあたしと直樹を視界に入れているのが分かった。


目の前の健吾すら、ちょっと驚いた顔をしてこっちを見ていた。


「あ、、、その、、、まだ書類の整理終わってないの。もうちょっとかかるから、、、

 お先にどーぞ・・・」

「どこ?見せてみなよ」


空いた隣の席の椅子を引っ張り、あたしのデスクで一緒に書類を見出し

そんな行動がもっと驚いた。


いままで一度だってそんなことしたこと無いのに。


「これはOK。こっちは、、、もう一度価格の訂正だな。あと、、、これは後から電話して

 納期を確認してからな。って、、、これくらいか?じゃ、行こうか」


「あ、、、うん」


あたしはやれば軽く30分はかかってしまうような確認業務を

チラッと見ただけで手際よく終わらせてしまう直樹に正直驚いた。


(やっぱり、、、凄いんだなぁ・・・)


仕事が終わってしまった今・・・・もう断ることもできず二人で社食にいく他なかった。

後ろに刺さるくらいのみんなの視線を感じながら・・・・


食堂に入っていくと、噂好きな女子社員は二人を見てすぐにコソコソと口元を隠しチラチラ見ながら嬉しそうに話をしていた。


「直樹・・・どうしたの?」

「なにが?」

「こんなこと、、一度もしたこと無いじゃない」

「改心したの。もうまゆに寂しい思いさせないよ。できる範囲で頑張るからさ」


小さくウインクをしてニッコリを微笑んだ。

ちょうどそのウインクを見られ、後ろの女子社員が小さく「キャー!」と言っていた。


「おっ!随分と仲がいいな〜」

二人の席に部長が通りかかり、普通の顔をして空いている席に座った。


(わっ!部長とご飯とか、、、超緊張するんだけどー)


直樹は普通に「いつも仲はいいですよ」と否定することなく微笑んだ。

しばらく部長と直樹は仕事の話をしながら食事をしていたが、あたしは目の前の二人に

どんな顔をしていいのか分からず、黙々と食事だけに集中していた。

まるで腹ペコの高校生並みに・・・


「確か君達結構、付き合って長いんじゃないのか?」

「もう2年くらいですかね」

「そうなのか。じゃあそろそろだな」


部長の口角が上がるのを見て、あたしも一応は話を合わせたように笑った。


「その時、仲人は部長にって思ってますけど、いいですか?」


直樹の言葉に目が大きくなった。


「あぁ、喜んで。そうか〜向田君も落ち着くか!楽しみだな」



(直樹・・・何言ってくれちゃってんの!!)


ジロッと睨んだけれど、直樹は涼しい顔をして部長と会話をしているだけで、あたしの視線なんかまったく気にする素振りも無かった。


「じゃ、お邪魔して悪かったな。吉本君の白無垢姿、楽しみにしてるよ」

「いえいえ、、、」

「ぜひ楽しみにしていてください。きっと似合いますから」


笑顔で見送る直樹にテーブルの下で思い切り足を踏みつけた。


「いてっ!まゆ、、俺の足踏んでるよ」

「わざとよ!何言ってんの!」

「なにが?」

「どうして結婚なんて話になってるのよ。それもすぐみたいな言い方して!」


「社交辞令じゃない。そんなに怒らなくても」

「どんな社交辞令よ!あんなこと言ったら期待するじゃない」

「別に現実になれば問題無いだろ。何を怒ってるんだよ」


(もぅ・・・)また眉間にシワを寄せてアイスコーヒーを飲んでいると、直樹がクスクスと

笑っているのが目に入った。


「笑い事じゃないよ。もう・・・どうするのよ」

「最近、素のまゆが見れて嬉しいよ。な、俺達これからも上手くやっていけると思わない?」






昼休みを終えてデスクに戻ると、なんとなく健吾は不機嫌な顔をしていた。

ポコン!とパソコンの中から音が聞こえ、見てみると目の前の健吾からメッセージが届いた。


Kengo<また上手い具合に流されてんな>


チラッと目の前を見ると大袈裟に掌を上に上げ(やれやれ・・・)というアメリカン的な仕草をした。



Mayu<その仕草、古臭い・・・>


Kengo<そうやってお前はいつの間にか向田夫人になっていくんだな。バーカ>


Mayu<バカってなによ!>


Kengo<バカにバカって言って何が悪いんだよ。少しは自分で物事考えろ>


Mayu<仕方無いじゃない!社内でいきなりあんなことされたら、無視できる訳無いじゃない!>


お互い眉間にシワが入ったままで、凄い勢いでキーボードを叩いていた。


Kengo<はいはい。結局、お前の「別れる」は口だけだな。もう別れる気もねーのにくっだらねー相談してくるなよな。時間の無駄だから。バーカ>



「ちょっとぉ!いい加減バカバカ言うの止めてよ!あったまくる!」


カッとなりメッセを打つよりも先に口が動いてしまい、目の前の健吾に食ってかかった。


「俺は間違ったこと言ってないけどぉ〜」

その語尾を伸ばした言い方に更にカチン!ときた。


「なによ!偉そうに。自分だって同じことしたくせに!」

「けど俺の時は電話も出なかっただろ!」

「それとこれとは全然違うもん!」

「何が違うんだよ!」


デスクを挟みお互いにらみ合いながら文句を言い合っていると、横から直樹が入ってきた。


「おぃ・・・。全部丸聞こえだけど・・・」

「えっ、、、あ、、、ごめんなさい」


周囲の人が全員こっちを見て、唖然とした顔をしていた。


「マツ。何か問題あった?」


微笑みながら健吾に話かける直樹を見ていたが、健吾はあからさまにムスッとした

顔をして直樹を睨んでいた。


「向田さん、、、チョットいいですか」

「あぁ。どうした?」

「ちょっと、、あっちで」


人のいない場所を指差し、移動しようとする健吾にまた文句を言った。


「ちょっと!文句があるならあたしに言えばいいじゃない!」

「お前じゃ話になんねーよ。バカだから」

「こんのぉ!ちょっと待ちなさいよ」


健吾の側に行こうとするあたしを直樹は半笑いで(まぁまぁ・・・)とヤンワリと止め、


「俺が聞いてくるから。仕事してな」と健吾とフロアの外に出て行った。


一気にみんなの視線を改めて感じ、急に恥ずかしくなり黙って席についた。

けれど、、怒りがおさまらない。


パソコンに残ったさっきのメッセの残骸が更にイラッときたが、すぐにそのウィンドウを消していつもの仕事に戻った。


30分ほどして戻ってきた健吾の姿を見て、さっきのイラッ・・・がまた復活してきた。

後ろを通り過ぎた直樹は目が合うとニコッと笑い、自分の席に戻っていった。


「ちょっと・・・何話したの」

「別に〜」

「教えなさいよ。あたしのことでしょ」

「大事な直樹さんに聞けばぁ〜」


(コイツ・・・本当にムカつく・・・)


「おぃ。打ち合わせ行くぞ」

澄ました顔をして外出用のボードに予定時間を書き込む健吾の後ろを着いていったが、

背中を見てムカムカしていた。


車で移動中も、お互い口もきかずに無言でいたが、しばらくするとポツリと健吾が話をしだした。


「お前さ〜」

「なによ!」

「きっと、このままいけば東京行き無くなるぞ」


「どうしてよ。直樹は行ってもいいって言ってるんだし、あたしもそのつもりだもの」

「お前は甘いよな〜。本当に甘い。相手は向田さんだぞ」

「どういう意味よ」


「あの人、お前を行かせる気ねーぞ」

「なによ、、、それ」

「あの言い方は無いな。このままお前が別れるの止めたら、またアレコレ上手いこと言って、

 お前をこっちに残すつもりだな。そんな感じしたな・・・俺は」


二人でどんな話をしたのだろう。悔しいけど、ここは健吾に聞くべきなんだろうなぁ・・・


「何を話したの?」


「う〜ん・・・。向田さんから聞けよ。そのほうがお前にはいいと思うから」

「教えてくれたっていいじゃない。そこまで言って言わないの感じ悪いよ」


「でも、本人から聞いたほうがいいな。俺が間に入ると言った、言わないって話になるし。

 それに自分で決めろ。自分で納得して決めたほうがいい。後々後悔しないように。

 さっき相談するなって言ったけど、本気の相談なら乗るから。口だけならするな」



健吾の言い方に、きっとこれ以上食い下がっても口を割ることは無いと感じた。

昔からそんな所がある人だから。


人の噂話はしない人だったし、自分が思ったことは絶対の人だし。


「分かった。じゃあ直樹に聞く」

「ん。そうすれ。でも、、、、」

「ん?」


「俺はお前がいつも笑っていられるようになって欲しい。無理して我慢する姿は

 見たくないから。歯向かえないオーラがあるのは認めるけど、お前はお前らしくしていろ」


「うん・・・」


健吾の言い方に、きっとさっきの二人の話はあまり良い話では無かったのだろうと感じた。


その夜。あたしは直樹の家で帰りを待つことにした。



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