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ゲームのせか…異世界転移とかマジ?

寝落ち。それはゲーマーなら誰しもが経験したことがあるものだろう。布団で携帯ゲーム機をいじってて気が付いたら朝だったとか、作業ゲーを黙々とやって気が付いたらキーボードの跡がべったりとついていたとか。


匠ももちろんそれは経験済みであるのだが、彼の場合はそれなりの確率でゲームをやりきった後の満足感でそのまま寝入ってしまう。とはいえ大抵椅子の上なので寝心地が悪く途中で目が覚めるのだが…。


意識がやや覚醒した匠はそういや寝落ちしたんだっけと思い出す。いまだ半ば寝ぼけた状態でいつものようにVRセットを外すために顔に手をやる。


…ん?


だがいつもならあるはずの物の感触が手に来ない。


…そういや今回のVRは専用のフルフェイスタイプだったっけ


そう思い返し頭頂部に手を回すがそこにあるのは自分の髪の毛の感触。


…寝てる間に外したのかな?まぁそれならそれでいいか。


腕から力を抜くと柔らかいものに当たる感触が伝わってくる。それどころかいい匂いが鼻腔をくすぐる。どこか安心するようなそんな香りだ。それに心なしか後頭部がフニフニと柔らかいものにつつまれているようでこれまたグッド。


「あ、あの~。気が付かれましたか?」


………うん?


現在親元を離れ一人暮らし中の彼の部屋に同居人はいない。それどころか遊びに来る友人だっていn…。コホン


薄目を開けるとそこには逆さまにこちらをのぞき込んでくる見知らぬ少女の心配そうな顔があった。いやよく見れば知っている。さっきゲーム内で匠がわりと全力で救助したシトラだった。


「ありゃ?俺ログアウトしなかったっけ?」


「?」


匠のつぶやきにシトラはますます困惑の表情だ。と


「シトラ様。お待たせしました。残念ながら馬車は使い物にならないためここからは徒歩でアクリアまでの移動となります。」


レンと呼ばれていた褐色美女がこちらに駆け寄ってくる。改めて見るとその姿は女騎士そのものである。全身を覆うようなフルプレートの鎧ではないが首元と肩、胸元からへそのあたりまでと両腕を純白の鎧で覆い、同じ色のブーツが足先から太ももまでを守っている。やや短めのスカートとの間に見える褐色の肌がなんとも素晴らしい。



それを見て匠はログアウトし忘れただけかと改めて結論を出す。こんなものは現実にはいない。…けっして見惚れていたわけではない。


よっと勢いをつけて上半身を起こす。どうやらシトラに膝枕してもらっていたらしく振り返ると地べたに座っているシトラと目があう。


「あの、もうお体は大丈夫なのですか?」


「…あ、はい。もう大丈夫です。」


「…(ジロリ)」


一瞬自分に言われたのだと気付かずにいるとレンににらまれたでの慌てて返事をする。


「…それで?」


「はい?」


「貴様はどこの誰だと聞いている。」


初対面にその物言いはないんじゃないだろうかとも思うが、どう見てもお姫様とそれに付き従う女騎士のような風貌の2人と、方や村人Aでは仕方ないというものである。


「あ~、おれ、いや私は…」

そこまで言ってどもってしまう。


…ゲームのプレイヤーです。とは言えないし、かといってこの世界の土地名なんかまったく知らないからな。てかNPCに名乗るとかどういう場面だよ。


「…ただのしがない旅人ですよ。特にどこかの国や組織に所属してるというわけではないですけど、手持ちの食糧が尽きてしまったのでその補充にアクリアまで行く途中でした。」


とりあえずさっき聞いた地名を使いごまかす。


するとレンは「そうか」となぜか少しうれしそうに返してきた。


どこに彼女の喜ぶ要素があったのか知らないが、場の空気が少しばかり和んだ。匠は改めて2人を見る。

シトラ。いやシトラ様と呼ばれていたからには身分は高いのだろう。は、なるほど旅人さんでしたかと笑顔を浮かべている。綺麗な金の瞳、やや長めの金髪を左右にツインテールにしてまとめ淡いピンクのドレスに流している姿は幼さも相まって可憐の一言に尽きる。守ってあげたくなるそれが匠の彼女に抱いた第一印象だ。


そしてレン。見るからにシトラの護衛といった感じだ。肌は褐色そして銀髪の長い髪を後ろで一本の三つ編みにして束ねている。そして綺麗に揃ったまつ毛。淡いブルーの瞳は先ほどまでの警戒が少し取れて顔立ちも鮮明となった。紛れもなく美人と称される部類だろう。そしてつんととがった耳。エルフという単語が脳裏をよぎる。


今は二人何やら楽しそうに話し込んでいる。なんとも絵になる光景だ。


…そりゃそうだ。ゲームキャラなんだし可愛くして売れないと話にならんしな。…後で絵師の名前調べとこ。


ふうと一つ息をつくと改めて声に出して今度はしっかりコマンドを入力する。


「ログアウト」


ゲーム終了の一言を。

するとやってくるのだ、すぅっと意識が持ち上げられ地面から離れるログアウト時独特の感覚が…


来なかった


…うん?今俺ちゃんと言ったよな?


何が起きたか分からない。そんな表情をしているであろう匠をシトラとレンの2人が見ている。いや、正しくはその2人の姿が目の前にまだ見えている。


「あ、あれ?ちょっと待ってくれ?」


慌てて頭にさわる。


一般にVRゲーム内で不具合が起きた際の対処方法としてあるのは、VR機器の電源を落とすためにヘッドセットの電源を引っこ抜く方法と、ヘッドセットに内蔵された緊急通報システムを使用して外部から強引に機器を外す方法だ。


頭部をさわる匠の手は残念ながらコードの類をつかむことはできなかった。それはそうだフルダイブ型の今回のゲームでは体を動かす神経の命令信号をヘッドギアでキャンセルしているのだから現実世界の体が動くはずもない。


「き、緊急通報システム起動。」


今まで一度として使う事の無かった通報システムを起動させる。が、反応はなく本来なら表示されるウィンドウすら出ない。


ログアウトができない。


そのことが脳裏をよぎる。


「いやいやいや、ちょっと待てって」


一体誰に何を待てというのか。


「ログアウト!…ログアウトって言ってんだろが!くそ!仕事しろ運営!」


幾度となく叫ぶ。だが目の前の景色が変わることはなく、必死に叫ぶ匠のその姿をあざ笑うかのように風が木々の間をすり抜けていく音に溶けていく。


と、そんな匠の姿にビックリしたレンとシトラの2人はしばらくしてハッとして互いに見つめあいそれから何か確信めいたものを匠に問いかけた。


「あ、あの…」どこかまだ目の前で奇声を発している匠におびえたような声で話しかけたのはシトラだ。しかしその声は匠には届かず少女の声はしりすぼみしてしまう。


「あ、あの!」


「何ですか!?」


勇気を出して声を上げるシトラの声にやっと匠が気づく。声が届いたことにほっとしたシトラは再度声をかける。


「旅人。とおっしゃってましたけど…。もしかして異世界からの転移者…なのですか?」


…はぁ?


                        ★

シトラの話はこうだった。

なんでも3年ほど前からこの世界「ワグノワール」に異世界からの来訪者が各地で確認されているそうだ。時期・年齢・性別に統一性はなく、なぜそんなことになっているのかもよくわかっていないらしい。

現在この大陸を支配しているグランガル王国によると5人の異世界人が確認されているらしい。

そして、シトラが匠を異世界人じゃないかと思ったのはその5人全員がログアウトという言葉を叫んでいた。ということを知っていたからだそうだ。


ちなみに5人の異世界人は国の保護…という名の監視のもと各地でそれぞれの生活を送っており、最後に見つかったのは約1年程前なのだという。


そんなわけで使い物にならなくなった馬車を放置してアクリアへ向けて徒歩での移動となった。幸い馬は馬車の押しつぶされることもなく無事なのと騎士と思われる全身甲冑を着た人が乗っていたのを合わせてが4頭いたため、シトラと先ほどの戦闘でけがをしたメイドの一人と執事の爺さん、もう1頭にはいろいろ荷物が積まれている。匠も乗っていいと言われたがさすがに馬なんぞ乗れないので素直に歩いている。聞けば徒歩で1時間もかからないそうだ。


…しっかし異世界転生か。いやこの場合は転移になるんかね?自分がする羽目になるとはなぁ。いやゲームの中だからゲーム転移?


ついさっきまで死が近くにあったことなど忘れたのか、馬上でニコニコと楽しそうにこれから行くアクリアのことを話すシトラの話を聞きながらそんなことを考えていた。


シトラの話は尽きることがなく、また道中の襲撃もなく目の前にかがり火の明かりとこじんまりとした門とやぐらのようなものが見えてきた。


何やら門番の名前を大きな声で叫びながら手をぶんぶん振り回し馬を急に走らせるシトラとそれを追いかけるレンの姿を見ながら、まぁなるようになるだろとまるで他人事のように考えていた。


「そういや消化してない積みゲーまだいっぱいあったんだけどなぁ…」


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