最初のイベは理不尽設定?
久しぶりの更新です。何してたのかといわれると仕事が忙しくて死んでました。
今後も多分気まぐれ更新になる可能性が高いです
匠が最初に感じたのは自分の唇に感じる柔らかな感触と、爽やかなそれでいて甘い香りだった。
次にすさまじい衝撃とともに体が後方に弾き飛ばされる。とっさに飛んできたものを抱きかかえるようにして受け止められたのは奇跡だろう。地面に押し倒され唇からその柔らかな感触が離れると目の前には怒気を大いに含んだ美女の顔が…
「この、変態!」
ビンタで人は飛ぶんですね。
「へぶぁ!」
あれー?このゲーム恋愛シミュレーション系だったっけー?
数メートルふっとばされた後に無様な体勢で地面に落下。思わずステータスを確認すると体力の表示が「56/61」と減っている。
ビンタ恐るべし。
ステータス表示を切ってから体をおこし、振り向きざまに文句の一つでも言ってやろうと体を起こしたところで匠の動きは止まった。
………は?
美女がいた。褐色美女です。銀髪ロングの。いやまぁゲームキャラだし?とは思ったがそれが目の前にいる破壊力は想像以上の物だった。唯一人と違うのはつんととがった耳。ダークエルフかな?いるかどうかわからんけど。いやきっといるよね!思わず頬が緩くなる。
そしてそのさらに後方。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
思わず叫んでしまったのも無理は無い。なにせそこにいるのはどう見てもガ〇ラだった。後ろ足で立っているその大きさは5.6メートル。そしてその牙に爪そして刺々しい甲羅はどう見てもガ〇ラにしか見えなかった。
「あ、そういやゲームの中だったなここ」
それならいてもおかしくは…。いや版権とか大丈夫なの?似てるだけだから問題ないとか?
「逃げろシトラ!」
そんなアホなことを考えていた匠の前で立ち上がった褐色美女が腰の剣を抜き放ちながら道をはずれ横転している馬車に向けて声を張り上げる。
みれば馬車のドアだろうか?から一人の少女が抜け出そうともがいている後姿が見えた。歳は12ぐらいだろうか。淡いピンクの見るからにお姫様風なドレスを着た長い金髪の髪が左右にふわふわと揺れている。そしてその奥で今まさにガ〇ラが馬車めがけて前足をたたきつけようとしていた。
…間違いない。これは最初のイベントだ。
「いやいや。最初のイベントで人が死ぬとかいくら何でもヘビーすぎ…」
タイミング的にはもうどうやっても間に合わない。シトラと呼ばれた少女はやっとドアから抜け出そうというところ。褐色美女も駆け出してはいるがどう考えても届かない。何やら重そうな鎧をまとった騎士のようなのが2人。ガ〇ラもどきに剣と槍で斬りかかってはいるがこちらはびくともしてないしな。
ふと馬車の少女が振り返った瞬間に彼女と目が合った。正直目から感情を読み取るなんて事はできないが、圧倒的な死に直面してなお少女は泣きわめくわけでもなくこちらをじっと見つめていた。
…気が付けば足が地面を思い切り蹴りつけていた。反動で匠の体は前へ飛ぶ。レベルが上がり上昇したステータスでの全力は予想をはるかに超えて匠の体を爪が振り下ろされる前に少女の元へと到達させた。
所詮はゲームのイベント。ストーリー上に出現する回避不可能なやられイベ。まともにやるのは馬鹿らしくアイテムの消費をおさえ最小限度の被害で通過してしまうのが正解であるのだが…。
「そこは何とか攻略するのがやりこみゲーマーだろ!」
少女の体を抱きかかえると馬車の上から再度跳躍。すんでのところでガ〇ラの剛腕のたたきつけを回避する。
たたきつけの衝撃波で体勢がくずれる。立て直しができないのをさとってとっさに背中を地面に向けて少女を守る。ぐへっと地面にたたきつけられた衝撃と少女の重さで肺の中の酸素が根こそぎ押し出され声が出る。体の力を抜いてそのまま地面に寝ていたい衝動にかられた匠の目に、ガ〇ラがすでにもう一方の腕を振りかぶりこちらに振り下ろそうとしている姿が映った。
「やべ…。ごめんな!」
「はい?あっ」
状況が読みこもていない少女に一言謝ってから、その体をお姫様抱っこで抱き上げると起き上がり、今度は多少の余裕をもってそのたたきつけを回避する。
着地したらそっと少女を下す。怖かったのだろうか匠の胸元部分を握りしめ力いっぱい目を閉じて体を小さく丸めている。
「ほら。ひとまず大丈夫だから目を開けて手を放してくれない?」
そう声を掛けられようやく状況を理解できたのだろうか。少女は目を開けるとその場にぺたりと座り込んでしまった。服からは手を放してくれたが、その手は再び匠の手を握りしめて離さない。と、
「おい貴様!シトラ様から手を放せ!」
顔を上げた目の前に剣先があった。そして今まさに匠に剣を突き付けているのは鋭い視線を向けてくる褐色美女だ。
とっさに立ち上がって両手を上げようとするが片手は少女にがっちりとにぎられている。おそらくこの少女がシトラ様なのだろう。
「おーい。シトラ様とやら?手を放してくれないと俺の命が危険なんだけど?」
え?っと名前を呼ばれた少女。もといシトラは匠を見て、それから褐色美女を見てからはっとして握りしめていた手を離した。
とそれを確認した褐色美女は、匠が両手を上げる前にシトラの体を抱きしめると一歩二歩と距離をとる。剣は相変わらず匠に向けたままである。
「シトラ様。お怪我はございませんか?この男に変なことをされては…」
「え、えぇ。大丈夫よレン。というか何が…。私は生きてるのよね…?」
可愛らしい少女と美女が抱き合ってる姿は絵になりますな。
うんうんとうなずいていると褐色美女。もといレンにきっとにらまれた。それは我々の業界ではご褒美でs…
Gyaaaaaaaaaaaaaaaa‼
などと余計なことを考えていたらガ〇ラの咆哮で現実に戻された。
「なあ。あれなによ?後なんで襲われてるんだ?」
「…貴様アースドラゴンを知らないのか?」とあきれ顔のレン
質問したら質問が帰ってきたよ。なるほどアースドラゴンね。
無言でうなづく匠に何を思ったのかシトラが説明してくれる。
「あれはアースドラゴン…のサイズ的にはまだ子ども、幼生体だと思われます。私たちは王都からメルド山脈を越えて、この先のアクリアに帰る途中突如として地中から這い出てきたアースドラゴンに襲われ逃げていたのです!」
知らない単語が出てきたな。と思うがそれを悠長に聞いている余裕はなさそうだ。アースドラゴンがその真っ赤な目でこちらを。というかシトラをにらみつけてまたも腕を振り上げている。
…倒すにしてもこの子たちが邪魔だな。
アースドラゴンがその腕を振り下ろす。直後匠は道中で倒したゴブリンから拝借してきたナイフを数本、アースドラゴンの顔面に向けて投擲した。
突如として飛来したナイフに驚いたのか顔をそむけたアースドラゴンの攻撃は的外れなところに爪痕を残す結果となった。
「状況は理解した!あっちのけが人と避難してろ!」
先ほど破壊された馬車の奥にいる3つの影を指さしてから匠はククリマチェットを抜きながらアースドラゴンへととびかかった。
あっ、とシトラが何かを言いかけていたのが見えてはいたがそれどころではない。なにせすでにアースドラゴンがもう一方の腕を振り下ろそうとしていたからだ。
振り下ろされた腕に横からククリマチェットをたたきつける。
ガキッ!
「かってぇぞ!」
刃は通らず。それでも腕の攻撃の軌道はずれてまたも地面に爪痕を残す結果となった。
それならばと体勢をやや崩しているアースドラゴンの右足の膝裏に刃を突き立てるが、先ほど同様に刃は通らずその鱗に覆われた体に傷つけることすらできていなかった。
…まじで?
思わず唖然とする匠に次はアースドラゴンの牙が迫る。
…というか牙になんか肉と鎧の欠片みたいなのが付いてるのが見えたんですけど?明らかに誰かたべられてますよねそれぇ!?
その牙が上下にとじられる前に後ろにステップしてかわす。
「アースドラゴンに通常の武器では傷つけられません!せめて風の上位魔法が付与された武器でないとだめです!」
回避した匠の耳にそう叫ぶシトラの声が聞こえた。まじ?と声した方を匠が振り返る。
さてどうしたものか。と思わず声が出る。
…これが最初のイベだと仮定して、そのイベントに専用武器が必要?いやそんなもん配布されてないし。完全なやられイベ?…にしてはそこまで理不尽な感じでもないし。クリア不可とかゲームとしてクソゲーどころかそもそも販売すんなってレベルだろ?流石に運営もそこまでバカじゃないだろ。
そんなことを考えながら、迫りくるアースドラゴンの腕や牙の攻撃をひょいひょいとかわしていく。
…うーん分からん。かわすだけなら全く問題ないしな。やっぱりやられイベじゃないのか?ってことはどこかに突破口があるはずなんだが。ってもそんな武器持ってないしなぁ。
「なぁ誰かそういう武器持ってないか?」
「い、いえ私たちは持っていません…」
回避しながらそんな質問をする匠に律儀に答えてくれるシトラ。
まぁそうよなぁとつぶやくと匠は腕の横なぎを回避すると同時に大きく跳躍する。
「こういうのってお決まりかと思うんだけどさ…」
ククリマチェットを両手で握りしめアースドラゴンの頭に振り下ろす
「実は目ん玉だけは攻撃通るとかじゃないよな?」
グサッ
あ、刺さった。
力任せに根元までつき刺さったククリマチェット。アースドラゴンは叫び声をあげると頭を大きく振るって匠を振り落としにかかる。しかし刃はがっちりと食い込んでおり刃の形状も相まってなかなか抜けない。その間匠はおおおおおおと声を上げながら振り回され続けた。
しばらくしてずぽっと音がしてククリマチェットが抜け匠も一緒に振り落とされる。振り回された影響か着地したものの地面が回る感覚が匠を襲い。思わずしりもちをつく。
頭を振り何とか体勢を立て直す。…ちょい酔った。
おえっといきそうになるのをこらえアースドラゴンを見る。
右目のあった場所は閉じられそこから真っ赤な血がとめどなくあふれている。そして残った左目は先ほどよりもさらに赤く怒気があふれ出さんばかりに匠を凝視していた。
二足歩行から前足を地面について四足状態になったアースドラゴンの顔が先ほどまでよりも近くなる。…と
GRrrraaaaaaaaaaa‼‼‼
目の前のアースドラゴンではない。どこからか叫び声が聞こえる。
なんだと全員が周囲を警戒するが何も起きない。…と。
目の前にいたアースドラゴンがくるりと向きを変えると森の中に消えていった。しばらくの間木々の揺れる音とアースドラゴンの足音だけが響いていた。
「…逃げてったのか?」
思わずそうつぶやくとその場にしゃがみ込む。ふーと大きく息を吐くと少し落ち着くことができた。
「やったやりました!アースドラゴンを撃退できるなんて!」
興奮した様子のシトラが駆け寄ってきて匠の肩をゆらす。今ゆらすな何か出てきそうだ。
はー。と大きく息を吐いてその場であおむけに大の字に寝転ぶ。大丈夫ですか?とのぞき込んでくるシトラの顔が見える。
流石に疲れたし酔ってしまった。ちょいと休憩するかな。
「ログアウト」
ゲーム終了のコマンドをつぶやいて匠は目を閉じた。