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HAPPY HOLIDAY -tail- (2)

 プルガトリオゲートを出ていくらか城下町に近づいたところで馬車を降りた。

 帰りの迎え時間を確認してからガキと2人、メインストリートの市場へ向かった。

「ねえ、アレイさん! すごいよ! ヒトがいっぱいだよ!」

 まだ中心街でもないというのに、ガキは興奮して叫んでいる。通行人が奇異なものを見るように過ぎていくが、そんな事お構いなしだ。

 いつもと変わらないデニムのショートパンツに淡緑の短衣、腰のベルトには短剣を提げていた。丈夫なブーツから形のいい脚が伸びているのが周囲の視線を惹きつける。田舎町ならともかく、この王都で妙齢の女性がする格好ではない。

 遠くから早く早くと大声で呼ぶくそガキの声にもう一度大きくため息をついた。


 メインストリートの端に到着すると、くそガキはぽかりと口をあけて呆けてしまった。

「広い……」

 かろうじて桃色の唇からそんな言葉が滑り落ちたようだ。

 立ち止まってしまったくそガキは明らかに通行の邪魔だった。行き交う人々にぶつかり、人ごみにもまれて流されていく。足をもつれさせ、よろけながら遠ざかっていく。

 本当に仕方がない奴だ。

 届かなくなる前にぱっと手を掴んだ。小さな手が離れまいと一生懸命握り返してくる。

 そのままぐい、と引きつけて隣に引き戻した。

「ありがとう、アレイさん」

 にこりと笑って見上げてきた。その素直な言葉が気恥ずかしくてすぐに手を振りほどく。

「次は知らん。離れるな」

「はあい」

 気の抜けるような返事をしたくそガキは、代わりにマントの裾を握った。

 お前は3つのガキか!!

 突っ込もうとしたがいかんせん人が多い。とにかく流れに乗らなければ。

 そのままの状態でメインストリートを進んでいった。



 メインストリートは主に食料品の露店が多い。それも、ユダ川の水運が発達しているおかげで種類は非常に豊富だ。海から運ばれてくる魚介類、山からもたらされる果物類、ひどく奇抜な色をした鳥が逆さに吊ってあるのも見える。少し横道に入れば遠い異国から運ばれてきた装飾品を売る異国人の露店多い。

 特に最近は北の大国ケルトから流入する美しい宝石類の行商が増えている。広大な土地を有するケルトでは輝光石ダイヤモンドをはじめとして虹灯玉アレキサンドライトなどの珍しい鉱石も産出している。寒冷な気候で、グリモワールや周辺各国と比べると農作が発達していないケルトにとって、宝石での利益は通貨獲得の大部分を担っていた。

 マントの裾を握ったまま、きょろきょろとあたりを見渡しているくそガキは、何か見つけてぱっと駆けだした。

 ちょっと待て!

 慌てて人ごみの中を追いかける。

「見て見てアレイさん!」

 この人波の中で見えるか!

「これ欲しいよ!」

 だからどれだ?!

 自分でも頬が引きつっているのが分かる。

 何とか追いついて襟首を掴み上げた。

「勝手に行くな。迷子になっても知らんぞ」

「えーだって」

「だってじゃない」

 本当に、何故こんなことになったんだ?

 くそガキは目の前に並んだ色とりどりのフルーツを物色し、その中から一つを手にしている。

 鮮やかなオレンジの楕円形をしたその果物は、そこかしこから鋭いとげが飛び出しており、両手に余る大きさで一目見ただけで中身が詰まっているのが分かった。

 この店では他にも鮮やかな果物が多い。

「それは南方で採れる果物だ。中身は緑色で食感がいいと一時期、騎士団内で流行ったことがある」

「ねえ、買ってー」

 案の定おねだりを始めたくそガキを見て、さらに頬が引きつる。

 ねえさんからこのガキの小遣いは受け取っているのだが、最初からこの調子ではすぐに無くなってしまうだろう。

「荷物を持ってこの人ごみを歩く気か? 後にしろ」

 そう言って無理やり店から引き剥がした。

「ねえお兄さん、そんなこと言わずに。今日届いたばかりだからどれも新鮮ですよ!」

 売り子の女性がにっこりと笑う。

「ほんと、二人ともお綺麗ですね。ご兄弟ですか?」

「いや、赤の他人だ」

「じゃあ、恋人同士ですか? 仲がいいですねー」

「違う。どうしてそうなる?」

 と、思って見ると、目の前で果物の匂いを嗅いでいたはずのくそガキがいない。

「おまけしますよ!」

「だから……」

 こんな問答をしている場合ではない。

 あいつはどこへ行った?

「おい、くそガキっ!」

 最初から懸念していたことが当たってしまったようだ。

 案の定、いつの間にかくそガキの姿が見えなくなっていた。

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