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HAPPY HOLIDAY -tail- (1)

「LOST COIN」と「LAST DANCE」の間に入るお話です。

いつか書こうと思っていた買い物話。

 暖かな風がカーテンを揺らしていた。その流れにつられる様にベッドから起き上がって窓に寄る。

 絵の具を全面に塗りたくったような青空を白い雲が染め抜いていた。夏が近づいた晴天、出かけるには絶好の日和だ。

 先日負った傷は、完治とはいかないまでもかなり回復している。とはいえ、深さからいって激しい運動をすればまた開いてしまうかもしれない。

 胸から腕にかけて巻かれた包帯に手を当ててみたが、痛む気配はなかった。

 左手首に巻いたチェーンのトップ、鈍く黄金の煌きを放つ2つのコイン。

 それを軽く右手で撫でてから外出の準備を整えることにした。


 服を着て準備を終えた頃、執事のクリストファー=マーロウがやってきた。既に齢60を越したというのに、背筋もしゃんとした有能な執事だ。

「ぼっちゃま、ミス・グリフィスが到着されました。玄関ホールでお待ちです」

「すぐ行く」

 最後にいつものマントを羽織って、部屋を後にした。


 純白のリュシフェル像が正面に安置されている玄関ホールに着くと、肩までの黒髪を揺らした少女が出迎えてくれた。

「おはよう、アレイさん!」

「朝からうるさいな。もう少し大人しくできんのか、このくそガキ」

 ため息をつきながら言うと、少女はぷっと頬を膨らませた。

「だって楽しみにしてたもん。いいじゃん」

 20歳近いだろうに、年相応でない顔をした少女は軽い足取りでこちらに向かってきた。

 大きな漆黒の瞳が目を惹く、誰に言わせても美少女と呼ぶであろう容姿をしたこのくそガキは稀代の天文学者ゲーティア=グリフィスの唯一の子孫だった。

 ここグリモワール王国では悪魔崇拝が基本だ。そのため、王国に仕える天文学者は魔界から悪魔を召還して使役する。その契約の証が、450年以上も前にゲーティア=グリフィスと初代ダビデ王が創った72個のコインだ。

 コインそれぞれが72人の悪魔との契約の証。一つ一つに悪魔紋章が刻まれたそれは国家天文学者、俗にレメゲトンと呼ばれる者の印だった。

 自分も王国に仕え、悪魔を使役する天文学者だ。左手首のコインはその印だった。

「行こ、アレイさん! ねえちゃんが馬車貸してくれたよ!」

 大きな瞳がにこりと微笑む。

 仕方がない。約束だ。

 嬉しそうに駆け出した少女を追って、屋敷を後にした。


 屋敷の前に止まっていた小さな馬車に乗り込んだ。

 4人がけだというのにわざわざ隣に座ったガキの漆黒の瞳が嬉しそうに微笑う。

「楽しみだね! おれあんな大きな街歩くのは初めてだよ!」

「そうか」

 走り出すとき特有の圧迫感で軽く押さえられた後、馬車は屋敷から出発した。

 王都ユダ=イスコキュートス。

 王族の住むジュデッカ城を中心として、パラディソ外郭、プルガトリオ外郭、2重のインフェルノ外郭の計4枚が取り囲む城塞都市である。ジュデッカ城は一段小高い丘の上にあり、このくそガキいわく『モンブラン』のような形状をしているのがこの都市の特徴だった。

 自分達が住むのは2枚目のプルガトリオ外郭内、貴族達が屋敷を構える場所だ。

 加えて今日なぜかくそガキと2人で向かう事になったのはプルガトリオ外郭の外、平民が軒を連ねる王都のメインストリートに広がる市場だった。

 このくそガキがどうしても行きたいと主張して、どういうわけか自分が保護者として連れ添う事になってしまったのだが……年に似合わない阿呆の鳥頭、よく言えば天真爛漫さを持つこのくそガキに丸一日振り回されるのは目に見えたようなものだ。

「迷子になるなよ」

「はあい」

 3歳児のように素直な返事をした少女を見て、もう一度大きくため息をついたのだった。

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