ある日の朝
主人公の登場
2016/02/27大幅に追加しました
桜が散り、始業式・入学式も終わった4月の半ば。西神宮市にある、桜の銅像に寄り掛かるように、中高一貫の制服を身に付けた人がいた。その人の名は、川音涼海。
肌は、透き通るほど白く、前髪は顔にかかり、後ろ髪はセミロングぐらいの長さ。茶色がかかった黒髪だが、今は朝日に照らされ黄金色に輝いている。目は、伏せられた長い睫で見えないが、こげ茶色をしている。鼻筋が通っており、瓜実顔だ。涼海が、どんな人が説明するのに、適切な言葉がある。それは、『和風人形』。
しかし、涼海は『男』だ。詰襟の学生服に身に付け、ローファーを履き、学生鞄を下に置き、腕を組み、銅像に寄り掛かる。映画のワンシーンのようで、横を歩いている人達から見れば、男に見えず、男装の麗人が居る様にしか見えない。
涼海は、寄り掛かったまま、目を開ける。そして、少ししたら目を閉じる。周りには微笑に見える表情を見て、顔を真っ赤にしているのに、涼海は自覚がないらしい。涼海は、呆れるほど周りの反応が、見えていないのだ。そこには、ある理由があるのだが、それは追々、説明するとする。
閑話休題、涼海が、銅像に寄り掛かっている理由を話すとしよう。簡単に言うならば、親友を待っているのである。その親友の名は、天川彩輝。家が近く、親の仕事が同じだったため、家族ぐるみの付き合いだ。そのため、生まれたときから幼なじみであり、小学校を一緒に登校し、『中高でも一緒に』という、両方の家の意見が合致し、一緒に登校している。のだが、彼がまだ来ないのだ。いつもより20分も、集合時間が早いため、別に遅刻することは無い。
しかし、彩輝は、遅刻するような性格ではないのだ。必ず、約束の時間の10分前に、集合場所に居る。そのため、20分前には居る涼海と約束すると、必ず時間が早くなると言う『お約束』の流れなのだが、今回はそうではない。
その為、彼の家に行くべきか、ここで待っているべきか、涼海は葛藤していた。
「お~い、涼海~!」
いたが、ついにそれも終わりを告げた。声が聞こえた方を見ると、そこには、黒がかかった茶色の髪を持った人物が、大きく手を振っていた。人物は、涼海が反応したのが見えたのか、物凄いスピードで走って来た。
涼海は、脱力して、銅像に凭れ掛かった。走るなら、最初から走って来い。そんな事を考えている内に、彩輝は、いつの間にか涼味の横に居た。流石は、陸上部から、勧誘を受けるだけの運動神経はある。
「じゃあ、行くか」
涼海達は、学校の方へ歩き出した。
「なぁなぁ、また何か頼まれたのか?」
彩輝は、ビクッと肩を震わせ、おそるおそる涼海の顔色を窺う。その反応を見て、涼海は笑う。別にそこまで気にしている訳でも無いのに。そう思いつつ、彩輝に話を促す。
「ああ。お弁当を作ってくれって」
「…お弁当?あぁ、望佳さんか。と言う事は、流星さんも呼び出しくらったんだな」
「優志さんと風夏さんもか。それは、別にいいんだが、『ごっめ~ん。お弁当わすれたから作ってぇ~』という、てめぇは何歳だ!って言いたくなる、電話がかかってきた」
お互いの両親の名前を、さん付けで呼び合う。彩輝は口調が荒れている所から、それなりに機嫌が悪い。
「……風夏さんのテンションと、彩輝の似ている物真似のどっちに反応したらいいか、判らないので流します。兎も角、お疲れ」
「それのわりには、お弁当の具材になりそうなのが、一切ないって言う!」
「そんな、貴方に朗報です!!」
「どこぞの通販番組だ!」
物凄く綺麗なツッコミだ。流石は、幼いころから仲が良かった事はある。その為、涼海は綺麗に受け流す。
「三人分のお弁当です」
「えっ!?風夏さん、thank you!」
「その、無駄に綺麗な英語に腹が立つ。それと、俺が三人分作ったんだぞ!」
「あっ!涼海も」
「そんな後付けの、感謝の言葉は要らんわ!」
「受け取ってくれよ!」
会話に花が咲き、盛り上がっている。その為、後ろから忍び寄る少女には気付かない。少女は、静かに後ろに立つと、彼らの手にあるお弁当袋に、首を傾げた。
そして、問いかける。
「今日、お弁当要らないはずだけど?」
「「うわぁ!」」
忍び寄っていた事を忘れて。
因みに、彼らは気付いていなかったが、二人が揃った時、誰もが注目していたのだ。涼海は、和風人形と言われる美人。彩輝は、ショートヘア位の長さの黒がかかった茶色の髪に、漆黒の目。顔立ちが整っている。こちらは、何歳でも美少年と言われる容姿。つまり、注目されやすい二人が一緒に居たと言う事。まぁ、そんな事を彼らは一切気にしてないのだが。
次回に二重に初恋の鍵を握る少女の名前を出したいです。