赤の旅人と砂漠の民エルザ
旅を続けているうちに、赤の旅人が縮んでいることにクルトは気づいていました。
二つのこぶがあるラクダの、一つ目のこぶに赤の旅人はいました。二つ目のこぶに、クルトとエルザがいました。こぶとこぶの間に、ネズミがいました。ネズミは、ずっと何かを食べていました。ネズミの前には、虫の死骸がありました。ネズミは、ずっと虫の死骸を食べていました。
ネズミの前の死骸が少しずつ大きくなりました。ネズミが食べきれなくなってきたのです。ネズミは、クルトとエルザにも勧めました。クルトは少しだけ食べましたが、エルザは食べませんでした。エルザはずっと集落から持ってきた保存食を食べていました。
虫の死骸が増えるのに従って、赤の旅人は縮んでいました。
赤の旅人が半分ぐらいになったとき、赤の旅人はラクダを止めました。ラクダには手綱がありません。ただし、時々耳から、細長い幼虫が見えることがありました。
砂漠の風が、赤く染まっていました。
砂漠の砂が、赤く染まっていました。
熱い砂が、人間の肉を焼いていました。
動いている者はいませんでした。
「何があったの?」
エルザは尋ねました。クルトには解りませんでした。
「あなたに起きたのと、同じことですよ」
ネズミが答えました。エルザは正体のわからない声におびえ、同時に目の前にした光景におびえました。
ラクダが膝を折ります。
エルザはクルトにしがみ付きました。
赤の旅人が、倒れている人たちに近づきました。
ネズミは虫の死骸を食べ続けました。
赤の旅人は、赤いじゅうたんのように広がりました。赤の旅人の中身たちが、中身の虫たちが、地面に倒れる肉の塊に向かったのです。人間の死体に向かったのです。
砂漠の熱い地面に倒れていた、人間だった肉の塊は、すぐに虫たちに覆い尽くされてしまいました。
エルザは目をそらしました。
虫たちに覆い尽くされた人間だった肉の塊は、すぐに小さくなっていきました。
エルザは悲鳴をあげました。
虫たちに食べつくされ、骨も皮も残りませんでした。
エルザは泣きました。
産れてから、ずっと一緒に生活していた砂漠の民が、エルザの父や母が、どこにいったのかわかったのです。
この時は、誰も残りませんでした。
生きていた人間がいなかったのだと、クルトは思いました。
虫たちが食べにくい、保存食が残りました。乾燥させた肉や、缶詰が残りました。残った保存食は、虫たちがクルトとエリザの前に運んでくれました。
エリザはずっと泣いていました。
クルトは、エルザに干し肉を見せました。
エリザは泣き続けました。
クルトは、エルザに缶詰を見せました。
エリザは泣き続けました。
赤の旅人が、食事を終えて元の姿に戻りました。
クルトは、赤の旅人と話をしたいと思いました。
「赤の旅人は、お兄さんの話を聞くことはできます。でも、話すことはできません」
話すことのできない赤の旅人に代わって、ネズミが言いました。
「わたしの仲間を食べたの?」
エルザが尋ねました。答えたのはネズミでした。
「もちろんです。でも、死んでいましたよ」
エルザは泣き続けました。
赤の旅人がラクダに乗りました。
クルトは、エルザをラクダに乗せようとしました。
エルザはクルトの手を振り払いました。
赤の旅人の旅が再開しました。
エルザの旅は再開しませんでした。
クルトは、ずっと湯気をもやもやさせていました。
エルザのそばで、赤の旅人の背中を見続けました。




