赤の旅人と供に
魔法使いのクルトと赤の旅人の旅が始まりました。
赤の旅人は動く死体でした。
赤の旅人を動かしているのは、たくさんの虫でした。
赤の旅人にも、人の体はありました。
赤の旅人の体は、ひからびていました。
赤の旅人の体は、死んでいました。
赤の旅人は砂漠を旅していました。
クルトは赤の旅人に話しかけました。
赤の旅人は答えませんでした。
赤の旅人は言葉を必要としないのだと、ネズミが言いました。
クルトは誰と話しているのかと、エルザが尋ねました。
エルザにはクルトの声が聞こえていました。
ネズミと話すクルトの声が聞こえていました。
クルトと話すネズミの声が聞こえていました。
クルトと話すネズミが見えていました。
ネズミが話していることは解りませんでした。
クルトはエルザに、赤の旅人は体と口を別に持っているのだと言いました。
ネズミは大きくうなずきました。エルザはなんとなくわかったようでした。
砂漠は熱く、赤の旅人は休むことなく旅を続けました。
クルトは湯気をもやもやさせていました。
エルザはただラクダの上で揺れていました。
長い間、休憩もしなかったので、クルトとエルザはお腹が空きました。
死んでしまった砂漠の民の集落から持ってきた保存食を、ラクダの上で食べました。
ネズミも何かを食べていました。
赤の旅人の真っ赤な体から、時々こぼれるものを食べていました。
クルトは何を食べているのかネズミに尋ねました。
ネズミは、赤の旅人の体から落ちたものを見せてくれました。
ネズミの小さな手には、小さな虫の死骸が握られていました。
「赤の旅人はたくさんの虫が動かしています。虫は力が強くどこでも生きられますけど、命は短いのです。その代わり成長も早いですから、こうして終わった命を分けてもらいます」
ネズミはクルトに『終わった命』を差し出しました。
きっと、食べてもいいと言うつもりなのだと思いました。
クルトはエルザを見ました。
エルザは嫌そうに首を振りました。
クルトは『終わった命』を受け取り、ネズミにお礼を言いました。
ネズミは満足そうでした。
クルトは受け取った小さなものを口に入れずに、いつまでも持っていました。
「食べ物がなくなる前に、どこかにつけるかな?」
エルザは不安そうに言いました。
クルトは心配していませんでした。
赤の旅人を動かしている虫たちが食べるものがなくなれば、赤の旅人も困るはずだからです。
クルトの予想は当たっていました。




