動かない者
立ち上がってうねうねと動く砂漠の民のなかに、倒れたまま動かない人が一人だけいました。
死体の山の下に居たので、クルトは気が付きませんでした。
死体がみんな立ち上がったので、見ることができるようになりました。
クルトより少しだけ長く生き、少しだけ体が大きく、少しだけ色々と知っている、女の子でした。
死体たちはゆらゆらと動きながら、散らかった荷物を片付けていました。
死体たちは女の子には近寄りませんでした。
きっと、赤の旅人が女の子に興味がないからなのだと、クルトは思いました。
クルトは知っていました。女の子は、この集団で一番小さく、クルトが参加するまでは一番小さく、クルトの世話をしていました。
クルトが命じると、言う通りにしてくれました。クルトが命じなくても、食べ物をくれました。
クルトは仕事をしている時間以外は、ずっと女の子と一緒にいました。
女の子に気づいたクルトは、走り出していました。
クルトが気づかないうちに、足が動いていました。
クルトは倒れたままの女の子に飛びつきました。
女の子は死んでいませんでした。
倒れたまま、眠っているようでした。
みんな死んでいました。
クルトは怖くなりました。
女の子も、このまま死んでしまうのではないかと思ったのです。
無理に起こそうとして、クルトが殺してしまうのではないかと思ったのです。
女の子の上で、クルトは湯気をもやもやさせました。女の子が死んでしまうのを恐れたのです。
しばらくクルトがもやもやさせていると、女の子がひくひくと動き、まぶたが持ち上がりました。クルトは嬉しかったのですが、動かないでじっとしていました。クルトが喜んで、女の子が死んでしまうのを恐れたのです。
女の子が頭を持ち上げました。
クルトは湯気をもやもやさせていました。
女の子が体を起こしました。
クルトは湯気をもやもやさせていました。
女の子が立ち上がりました。
クルトは湯気をもやもやさせていました。
女の子がクルトを見つけました。
クルトは湯気をもやもやさせていました。
女の子がクルトに抱き付きました。
クルトは湯気をもやもやさせることができずに、砂漠に少しだけ雨がふりました。




