砂漠の悲劇と赤の旅人
クルトがラクダに乗ってネズミと戻ると、遊牧民のテントは出てきたときと同じように立っていました。少しだけ、散らかっているように見えました。
遊牧民がいました。クルトが出ていった時とは、少しだけ違いました。
みんな血を流して砂の上に倒れていたのです。
誰も動いていませんでした。
クルトは驚いてネズミに尋ねました。ネズミにも、何が起きたのかわかりませんでした。
クルトを地中から引き揚げた人間が倒れていました。
クルトに食べ物をくれた人間が倒れていました。
クルトにラクダの世話を教えてくれた人間が倒れていました。
クルトに武器の使い方を教えてくれた人間が倒れていました。
顔に砂がかぶさり、息苦しくなっても、誰も動こうとしませんでした。
「死んでいるみたいですよ」
全員、死んでいるようでした。ネズミが砂漠に降りて、倒れている人間の顔に噛みつきました。
誰も動きませんでした。ネズミが何か食べているようでしたが、クルトはお腹が空いていませんでした。
クルトが一人で出発してから戻るまで、とても短い間でした。その間に、何が起きたのかわかりません。
クルトは山となった死体を、一つ一つゆすりました。
ひょっとして、まだ生きているかもしれないと思ったのです。
ひょっとして、生きている人がいるかもしれないと思ったのです。
ひょっとして、助けられるかもしれないと思ったのです。
ネズミも一緒に、一つ一つの死体をかじりました。かじった後、少しだけ口を動かしていたのは、ちょっと食べたのかもしれません。
クルトは山となった死体をかき分けました。まだ、試していない死体があるかもしれないと思ったのです。
死体の山が崩れ、乾いた砂の上に落ちました。
死体の山が崩れ、誰も生きていないことがわかりました。
クルトはとても悲しくなりました。
「赤の旅人がいれば、みんな助かったかもしれないのに」
ネズミは、死体の山を見ても悲しくないようでした。
ネズミは、食べ物の世話をしてくれた人間が死んでも、悲しくないようでした。
それでも、クルトはネズミに尋ねました。
赤の旅人はどんなことができるのか尋ねました。
赤の旅人はどこにいるのか尋ねました。
ネズミは答えず、じっと空を見上げていました。
曇っているようです。
クルトに降り注いでいた太陽の光が遮られていました。
赤の旅人を探しに行こうと、クルトはネズミにせかしました。
ネズミは首を振りました。
ネズミがずっと空を見上げていたので、クルトも空を見上げました。
赤い空かと思いました。
空ではありませんでした。
赤の旅人が、そこにいました。




