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政略結婚のススメ  作者: プラスティック
夫が妻に惚れた時
31/76

そんなこんながあって30分後。

高級住宅街とは丁度正反対といってもいい娼館街に、徽章がつけられていない馬車が到着した。

そこから、豪奢な金髪と白磁の肌を持った傾城の美女が、

その身に似つかわしくないほど勇んでいるのか、肩をいからせ先陣を切って降りて行った。

「さあ行くわよ!」

「なんでそんなに張り切ってるんですか・・・」

ギルバートは多少げんなりしつつ後に続く。

カリナの指示で付きの者はおらず、ギルバートがただ一人彼女に付き従っているだけだった。

娼館街に二人して踏み入れたると、あちこちで火が灯されて煌煌と昼間のように明るい街の長いメインストリートが目に入った。

道の両側に所狭しと娼館が立ち並び、それがずっと奥のほうまで続いている。

そしていたるところに『この界隈、女人入るべからず』の立て看板がしてある。

治安が悪いのもあるが、ここにいる女性はすべからく身売りと見なされるため関係者以外の立ち入りは禁止されている。

一応カリナは関係者なので女性と言えどもここに踏み入れる資格はあるのだが、

いかんせん、目立ちすぎる容貌が災いしていた。

店の前をうろついている男どもや、店の前で客引きをしている露出の多い女たちが好奇の目を向けている。

ギルバートはすたすたと杖で器用に人込みをすり抜けていくカリナに耳打ちした。

「あのですね・・・姫、ものすごくじろじろ見られてませんか?」

「仕方ないじゃない、私みたいな夜のにおいのしない女がこんなとこにいたらこうなるに決まってるわよ。」

それも一理あるけど、あなたをスカウトしたがってる者も、今夜の慰みにしようと思ってる者も、

多かれ少なかれいるんですよ――とギルバートは口にしたくなったが、

その事実をカリナに伝えてしまうことは躊躇われた。

こんな世界とは縁もゆかりもない彼女には、耳にすらいれてはならないことのように思えたからだった。

そうこうしているうちに、娼館街の最奥の行き止まりに、それはあった。

煌煌と大量の光が注いでいる他の娼館とは違って、松明が入口に掲げられている他には、

館内部の照明がついているのみの、いたって普通の光量で、

その館自体は、高級住宅街にそびえているほうがよほど合っているような、壮麗さだった。

明らかに、花街特有の煌びやかな趣向とは一線を画する場所だった。

二人は、そのまま館の中に入って行った。中はいたって普通の内装で、

シンプルな靴脱ぎのための椅子だけが置かれた玄関から伸びている、

ところどころに家具がある以外に飾ったところのない長い廊下があるだけだった。

「ものすごく、普通な感じね。あれだけ稼いでるのに、華美さがないっていうか。」

「・・・多分中に入ればわかると思いますよ。」

幼い頃に兄弟の中でも一番母親と過ごす期間が多かったギルバートにとって、ここはなじみの場所である。

勝手知ったる様子のギルバートはずんずんとその廊下を進んでいくのでカリナもそれに続く。

廊下の一番奥に『待合室』という看板のかかった部屋があるのでギルバートはそこを開ける。

その部屋の中は、これまた仕切りで細分化されて、それぞれ空室使用中の看板がかかっている。

迷わずギルバートは空室の仕切りのドアを開けて、その中にカリナを通す。

中には小さなテーブルとソファが置いてあって、テーブルの上には何事かが書かれた紙が筆記用具と共に置いてあった。

「『リガーズ』は金持ちしか来ないから大概が指名制なんですけど、

好みの者をスケジュールの関係で指名がとれなかった場合にここで一旦待たせて他の者を見つくろうんです。

そのとき待ち時間が必要になるんでここに入るんですけど・・・だれか案内の者はいないのかな?」

「・・・よく娼館のルールなんてものを知ってるのね。」

ギルバートのうっかりした失言に対して棘を含んだような声音でカリナは言った。

ギルバートはチクチクと刺繍針で刺されるような思いを味わう。

「え、えっと・・・そりゃ、ここはうちの母の生まれ育ったところで、俺も小さい頃はよく預けられて・・・」

「でもそれって小さい頃でしょう?小さい子がよく花街のルールを知ってるものね。

そんなにあなたって賢かったのかしら?それとも、よっぽど助平な子だったのかしら、ね?」

腕を組み、意味深な笑顔を浮かべてカリナは上目づかいに見つめる。根負けしてギルバートはため息をついた。

「すいません・・・これ以上は勘弁してください」

ギルバートがしおらしく降参のポーズをとっているとき、ガチャリとドアが空いた。

「失礼いたします。ようこそ『リガーズ』におこしくださいました。」

そういって一人の女が入ってきた。カリナは娼婦が来るのだろうと予想していたが

彼女は胸元まできっちりとしまり、丈もくるぶしまであるようなきっちりとしたドレスを着つけていたので驚いていた。

一方、驚いているのはカリナだけではなく相手のほうもだったようだ。

「・・・せっかくいらして早々でこんなことを言えば大変失礼かと存じますが・・・

こちらの花街では女性の立ち入りは禁止となっております。

そちらのご婦人の方、大変申し訳ございませんが、こちらから退室して、

速やかにこの花街からも退去されたほうがよいかと。でなければ、あなたもこの街の女の一員として見られましょう。」

「あ、いいんだ、彼女はえっと、その・・・」

ギルバートがわたわたと慌てて補足をしようとしたとき、カリナがすっと前に歩み出てその言を遮った。

「支配人を呼んでちょうだい。あなたに話をされに来たわけじゃないわ。」

あまりにも上から目線の発言である。(とはいってもカリナは実質ここの経営トップなのだから当たり前だが)

それに気分を害したのか、不機嫌そうな顔で女は一礼して出て行った。

ギルバートは慌ててカリナに詰め寄った。

「なんで自分がここの運営者だって言わなかったんですか!」

「あら?私は現場の直接の経営状態を見るのも運営者の仕事の一つでしょう?

わざわざ『運営者が来ました』だなんて言ったら本当の現場なんて見せてくれないわ。抜き打ちでこそ値打ちがあるのよ。」

監査報告にサインだけという話がどんどん膨らんでいってなぜ経営状態の視察まで・・・とギルバートが焦っているところで

再びドアがあいた。

どうやら支配人のようで、

今度は身のこなしが軽そうで、おべっかしながらへこへこ上には諂うタイプだと思わせる男だった。

案の定カリナに向かって、今にも胸の前で両手をもむように、機嫌を取り始めた。

「ようこそいらっしゃいました。えっと、あなたが私を呼んだ方ですね?いや~大変お綺麗でいらっしゃいますね。

どうしてここにいらっしゃったのですか?」

「ええ、そうよ。ここを見させてもらいたいと思ってね。」

「失礼つかまつりますが、そちらのお連れの男性は?」

「ただ連れてきただけだからあなたは気にしないで。」

「そうでございますか。」

そういって男は二人をドアの外へ導いた。

「当店で売上1,2を争う美姫のもとへお連れいたしましょう。

いや、なに、お連れの男性が遊ばれても一向にかまいませんから。」

ギルバートはさすがにカリナの考えていた視察がまずい方向になってきていることに危惧を感じた。

思わずカリナに耳打ちする。

「ひ、姫、これはさすがにマズくないですか・・・・!?」

「多分向うは、私はここに就職希望のライバル店の高級娼婦だとでも思われてるのね。

それでここの娼婦の待遇の良さでもなんでも見せつけてこっちに是が非でも移ってこさせようっていう魂胆なのかもしれないわ。

でも、この支配人、私から夜のにおいがしないことに気付けないなんて・・・まったく。」

「い、いや、そんなことで腹立ててる場合じゃないですよ!も、もしかしてもしかしなくて俺は・・・」

「多分私のヒモだとでも思われてるんでしょ。」

ヒモというなんとも軟弱な単語にギルバートはへこんだ。

実際、二人にはそれくらいの格差があるのだから、

現実にヒモだといわれても大差ないだけに余計に気落ちする言葉である。

カリナに言われた一言にショックを受けていると、ようやく支配人が部屋の前で立ち止まる。

「ささ、お二人ともどうぞどうぞ。こちらです。」

そういって支配人がドアをノックすると中からはぁ~いというなんとも気抜けた返事があがった。

そして間もなくしてドアが空いた。

中から出てきたのは薄布をまとっただけの、体のラインがはっきりわかるどころか、

皮膚の色さえも透けて見えるような服を着た女だった。

隠れているのはかろうじて局部くらいといっても過言ではない。

女は赤茶色の長髪をつやっぽい動作で掻きあげて、にこりと人好きするような笑顔を浮かべた。

「あら、支配人、どうしたの~?」

「お客様を二人お連れした。接待をしてやってくれないか?

――女性のほうは、ここらでも飛びぬけてる上玉だ。くれぐれも粗相はするなよ?」

後半のほうは、耳打ちした小さな声だったが、情報部員のギルバートには小さな声量でも拾えるため

内容がわかった。本気でこの支配人はカリナを引き抜き要員だと思っているらしい。

「わかりましたー、オーナー。えっと、お二人とも、どうぞ中に。」

二人はそういって中に通される。

そしてカリナはギルバートがいった『中に入ればわかる』の意味がようやく理解できた。

「すごいわね・・・この部屋。」

「そう?ありがと。結構頑張ったのよ~。」

感嘆の声を上げたカリナに対して妓女はにこやかに返事する。

――部屋は、ぐるぐると巣をつくるように、薄布で取り巻かれていた。

そして中には、異国風の高級絨毯が敷かれ、上には色とりどりの細かい刺繍で絵が描かれているクッションが散らばっている。

木彫り細工が前面に施されたキャビンには、カリナでも名前を知っているような高級酒がずらりと並べられている。

上質な香りが香炉から立ち昇っていて、気分もいい。

そして何より、ドンと真ん中に聳えるベッドはキングサイズで、

パッチワークで作られている上掛けはカリナでさえ欲しいと思うほどの一品である。

なるほど、金をかけているのは『内部』のほうか、とカリナは合点がいっていた。

カリナがそうやって感心をしているとき、ギルバートはある意味の窮地に陥っていた。

「ねーえ、あなた近くで見ると、割と色男ね~。この街じゃ見ないタイプだわ。

・・・ちょっとぐらいつまみ食いしたって、あの子怒らないでしょう?」

「あ、えっと、あの、俺は彼女のヒモとかそんなんじゃなくて・・・!」

「そんなんじゃなかったら何なの~?ただの男友達だったらなおさら、いいじゃない。

ね?二人でいいことしない?」

そういいながら妓女はギルバートの腕に腕をからませてすり寄ってくる。

薄物一枚身につけているだけの彼女の身体の熱と質感がダイレクトに伝わってくる。

ギルバートは、男の直接刺激に弱い性もあって、ふつふつと誘惑が首をもたげてくるのを感じたが、

いかんせん、目の前には『妻』がいる。

どうあったってここで修羅場を迎えるわけにはいかなかった。

ギルバートは懸命に妓女の身体を両手で突っぱねるようにして、身をどかせようとした。

しかし。

「ああん、邪険にしないでよ~。」

妓女は喘ぐような声を出してますます身に縋りついてくる。

「や、やめてください・・・!」

懸命に懇願するが、妓女は女性にしてはすさまじい力でギルバートを引き摺るようにして無理矢理絨毯の上に座らせた。

用意のいいことに、フルーツ盛りが準備してあって、堅いかんきつ類の皮などが既にフルーツ用ナイフで剥かれていて、

手にとってすぐに食べられる状態だった。

「別にあなたに対して不愉快なことをしようって言ってるわけじゃないのよ?

ちょっと二人で楽しくなりましょうって誘ってるだけなのに・・・」

本気で寂しそうな顔をする。

しかし、絡み付いている腕の力は、怪力と言っても最早過言ではなかった。

とはいっても女性を全力で強引に引き剥がすわけにもいかず、成すすべもないこの状況に冷や汗タラタラである。

『ひ、姫・・・!これは罠なんだ!あなたが仕掛けた罠なんだ・・・!!』

ギルバートが不貞をはたらいた場合、ハイライド家に支払う慰謝料はおそらく考えもつかないような額になるであろうことは

明明白白のことだった。

ただ、もしカリナが一言鶴の一声で、このギルバートにとっては不可抗力の場面であったとしても

『ギルバートが他の女性と浮気しました』

と言ってしまえば、即離縁→慰謝料請求の流れになるのは確実である。

なんとしてもそれだけは避けなければならない。

ギルバートは、

「はい、ぶどうの皮剥いたから、あ~ん」

といってフルーツを食べさせようとする妓女から懸命に逃れようと顔を逸らそうとする。

そのとき、

視界の端に、ドア付近で立ったままこちらを見ながらも、凄絶な笑みを浮かべたカリナが映った。

「・・・えっ?」

今まで見たことがないようなカリナの表情にギルバートが戸惑いを浮かべた次の瞬間、

グサッという音がすぐ横から聞こえた。

「キャーーーーーーーーーーーー!!!!」

迸るような妓女の悲鳴が脇からあがる。

そしていとも簡単にさっきまでギルバートにしがみついていた場所から這う這う体で逃げていく。

ギルバートは何があったのか全く見当がつかないまま、

さきほどまで妓女が座っていたところを何気なく見た瞬間、一気に背筋が凍りついた。

『ク、クッションの真ん中に・・・なんでフルーツナイフが刺さってるんだ・・・!?』

床に座る時に妓女はクッションに腰をおろしていたが、

このナイフはどうやら身体とクッションのギリギリの位置を狙ったらしい。どうりで這う這う体で逃げていくわけである。

そしてこのナイフを投げた張本人はというと――

ギルバートらがいた位置から離れた位置にいたカリナは、すたすたと杖を使いながら妓女に歩み寄って行った。

未だ腰が抜けたままの妓女は上からカリナに覗きこまれる形にますますおびえていた。

「・・・ごめんなさいね、私ったら、手癖が悪いの。」

「て、て・・・てぐ・・・せ?」

確かに手癖が悪いの一言でこの場が収まるような事態ではない。

しかし、カリナは相変わらず浮かべたままの凄絶な笑みでそれには答えなかった。

「それとね、私、あなたが思ってるようなここで働くことを希望している人間じゃないわ。

ねえ、ここの地主の名前知ってる?・・・ハイライドの名は、存じてなくて?」

ハイライド、その5文字で妓女は極寒地に放り込まれたかのようにブルブルと震え上がった。

一方のカリナはそれに満足したようで、今度こそは嘘の笑みを消して真剣な顔で言った。

「あなたの商売根性は見上げたものだわ。この街で生きていくには必要なことね。

でも・・・なんでもかんでも、人のものにまで手を出すのはよくないわ。

まあ、ハイライドの名前はちゃんと知ってるようだから、今回のことは免じるけれど・・・

二度目はないわよ?」

それがダメ押しになったかのように妓女はブンブンとまるで振り子のようにブンブンと首を縦に振っていた。

ギルバートが女の恐ろしさを垣間見た瞬間だった。

カリナは言うことがなくなったらしく、クルッとクッションのところで腰を据えたまま固まっている

ギルバートのほうを振り返って、今度は人間らしい、少し不機嫌そうな顔で言った。

「行くわよ、ギルバート。」

ギルバートにとって、初めてカリナに名前を呼ばれた瞬間だった。


そのあと、支配人に正体をバラして再び震え上がらせてから、監査報告書を提出させて、

経営についての視察報告も付け加えて口上して、ようやく二人は帰路についていた。

日付が変わって、月の位置はこの街に入った時間からかなり動いていた。

猫の詰めあとのような細い月の下、相変わらずの煌びやかなこの不夜城は、

おそらく太陽が昇る頃まで喧騒は保たれたままだろう。

しかし、この二人は、この街とは正反対の、静寂に包まれていた。

待たせている馬車に戻るまでの間しばらくは、二人の間に一切会話がなく、ただ連れだって歩いているだけだったが、

ようやく、馬車が見え始めた頃、カリナは口を開いた。

「・・・一応ね、自分の夫が目の前で浮気してたら、怒るものよね?」

「怒り方にもよると思いますが・・・」

「でも、ああいう場面での妻の出方なんて、わかんないじゃない!」

こっちのほうが、あんな武力行使するなんてまるっきりの予想外だったんだ!とギルバートは喚きたくなったが

横で恥じらうように頬を染めるカリナを見ると出鼻をくじかれてしまった。

「・・・すいません、あんなあからさまな誘惑をきっぱり断れなかった俺が悪かったんです・・・」

「・・・うん。」

あくまでカリナは否定してくれなかったので、おそらく彼女の中で今回のことは浮気認定のようだ。

ああ、これじゃ慰謝料が・・・と嫌な想像が駆け巡ったギルバートに予想しなかった一言がカリナの口から告げられた。

「あの、ね。婚前に、別に、私はあなたが浮気してくれてもかまわないって・・・言ったけど、

・・・するなら、もっと、上手く私の目から隠して?

じゃないと、少し、不愉快になるのよ、ね・・・」

あくまで浮気は禁止する気はないらしいが、口調の歯切れの悪さは、

全面的に浮気を禁止したいらしいことがうかがえる。

しかし、ハイライド側が持ちかけた強引な、

そしてカリナ自身、二人の間には家族愛ですらいらないと思っていたらしい政略結婚だったためか、

それを言ってしまうわけにはいかないといった心情のようだった。

最初は浮気を認めると寛容なことを口にしていたが、今ギルバートに見せるのは少女らしい潔癖さである。

思ったよりも、カリナが生身の人間で、うちとけ始めていることを、ギルバートは感じていた。

「わかりました。あなたの仰せのままに。」

ギルバートはあの日誓った主従の契りのように、仰々しい芝居調のセリフを口にした。

ようやくうちとけてきたことをカリナも感じとったのか、この日初めての心からの笑みを見せた。

「・・・無理を言ってごめんなさい。」

いつも勝気なカリナの、照れをなんとか押し隠した、心底本心の言葉は

ギルバートの胸を穿つように、焼きついた。


「・・・そういえばそんなこともあったわね。」

しょりしょりと林檎の皮をむきながらカリナは言った。

ベッドでようやく半身を起したギルバートはため息をついていった。

「ほんとうにびっくりしたんですよ・・・まさかあなたがナイフなんて投げるとは思ってもみなかったんですから・・・」

「でも、一応は妻っていう私の前で他の女といちゃこらするあなたが悪いのよ?

慰謝料請求されても全く反論の余地がない状況なんだからいいじゃない。」

いやいや、よくないよくない、と思いながらも、やっぱり慰謝料請求する気も起こっていたのかと知らされて

急に背筋が寒くなった。

カリナはそんなギルバートに気付いたのか気付いていないのかわからないが、急に疑心の目を向けて言った。

「ねえ、あれから浮気なんてしてないでしょうね?」

「え?!えっと・・・あなたの見える範囲では、してません。」

「そう・・・見えない範囲ではしてるのね。」

そういって今の今まで林檎を剥いていたナイフをすっとギルバートの首の下に差し込んだ。

現役の軍人であるギルバートですら予測できないほど、見事な所作だった。

林檎のべたべたとした汁と、刃物の冷たさが首筋に広がる。

「えっと、俺、一応けが人ですよ?」

「知ってるわ。」

「う、浮気してないですよ・・・?」

「私の見える範囲では、でしょう?」

「み、見えない範囲でもしてませんよ・・・?」

「私、あなたに関しては疑わしきは罰する主義なの。」

どんな主義だよ、っていうか罰するってそんなおおごとじゃない、ちょっと可愛い店の女の子とお酒飲んだだけ・・・!

というギルバートの悲鳴はそのあとかき消されることとなった――


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