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七つの仮面  作者: 寧古
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四話

 聖司が戻り帰り支度を終えた一行は、亜門が呼んだのであろう車に乗り込んだ。いまだ寝たままの雅は祥一郎が抱えて乗り込む。人数が多いので二台の車に別れて乗ることになり、現在、真浩、聖司、亜門、拓海が同じ車に乗っている。その他のメンバーは別の車だ。


「あの~、俺、家に連絡しないと……」

「それなら、さっきしておいた」

「は?」

「全く、頭の弱いやつだな。お前の自宅には、先ほど俺が連絡をしておいたと言っている」


 その行動の速さに、真浩は感心するやら末恐ろしいやらで呆気にとられて聖司を見た。


「じゃあ、せっかくだから、泊って行きなよ。今日は金曜日だから、明日、明後日と休日だし、ちょうどいいじゃない」

「やった~! モンちゃんの家にお泊り~」

「え、いいんですか?」

「せっかく可愛い後輩が入ったんだ、家に招待するくらいはしないとね」


 亜門が自分に気を使うなど信じられない真浩は、この招待の裏に何か意図があるのではないかと勘ぐってしまう。


「お前がそう言うなら、泊らせてもらおう」


 そう言うと、聖司は電話をかけ始めた。話の内容から、別の車に乗っているメンバーに宿泊の件を説明しているようだ。


「あの、副会長の家ってどんな……」

「ん? ああ、そろそろ見えてくるころだよ。ほら、あそこ」


 亜門が指さした先を真浩が見ると、正に豪邸と言うにふさわしい建物が建っていた。叔父の家も大きいが、ここはまた格が違うといった感じを受ける。


「なにこれ、デカ……」

「ふふ、僕の家なんか小さい方だよ。大きさで言ったら、祥一郎の家の方が大きいんじゃないかな? まあ、一番大きいのは聖司の家だけどね」


 邸の大きさに驚いていた真浩は亜門の言葉でさらに驚いた。


「これより大きいっていったい……」

「お前のような、下々の人間には一生縁のない場所だな。まあ、お前の頑張り次第では、いつか連れていってやらんでもない」

「……はい……ぜひ……お願いします」


 聖司が腕組みをしながら人の悪い笑みを真浩に向ける。その笑顔に真浩が逆らえるはずがなかった。


 真浩たちがそんな話をしていると、車は近衛邸に着いたようだった。


「ようこそ、僕の家に」


 生徒会のメンバーが全員そろったところで、亜門が帽子をとるようなしぐさをしながら改まって挨拶をした。


「いいな~あたしもこんな家にすみた~い」


 邸の中に入ると、ヒメリが邸をきょろきょろと見ながら少しふてくされたようにに言った。


「でた、ヒメリンのいいな~攻撃」

「なによ! 大きい家がうらやましいのは、当たり前でしょ!」


 そのヒメリの様子を拓海がからかう。


「テメエら、うるせえ!」

「「は~い」」


 二人がギャアギャアと騒いでいると、祥一郎が一喝しその場に静寂が訪れた。


「ふふ、じゃあ入って。ひとまず、ゲストルームで作業をしよう」


 一行が亜門に案内されたのは、大きめの部屋であるゲストルームだった。


「ひゃっほ~ヒロちゃん大改造計画開始~!」

「ええっと……やっぱりするんですか?」

「何のために来たと思っているんだ?」


ここに来ることですっかり忘れていたが、自分の今後がかかっていたことに気がついた真浩は焦りを覚えた。


「あわわ……で、でも、校則が……」

「校則? 誰にものを言っている?」

「そうでした……」


 学園の頂点にいる聖司に校則について説くなど無意味なことである。


「こっちには、風紀委員のトップもいるわけだしね」

「でも、髪を染めるだけならまだしも、カラコンとか……」

「う~ん、奥村くんはこの学校に来たばっかりだからね、軽く説明してあげよう」

「……なんですか?」

「つまりね、この学園では、成績さえよくて家柄もそこそこあれば、特に容姿を注意されることはないんだよ。それが生徒会の人間なら、なおさらね。だから、髪染めてる子とかたくさんいるでしょ?」

「確かに……」


 一般的な学校に比べて、桜ケ丘学園の生徒には髪の色を変えたり装飾品をつけている生徒が多い。


「それが、比較的放任主義な学園の姿勢であり、その容姿を取り締まることができる唯一の存在である風紀委員には、絶大な権力が集まることになるんだよ。だから、風紀委員がなにも言わなければ、いいってことなんだよ」

「風紀委員……」


 真浩は部屋の中を興味深そうに見ているヒメリに視線を向けた。真浩の容姿に関する提案をしたのはヒメリである。ならば、それはすなわち風紀委員公認と言うことである。


「おい、つべこべ言ってないではじめるぞ」

「あ、ちょちょっと!」

「ひ~ろちゃ~んこっちこっち~」


 亜門と真浩が話していると、聖司は真浩に近づくと腕をつかんで置かれている椅子のほうに連れていった。椅子の横では拓海が楽しそうに手招きしている。真浩にはその椅子がさながら処刑台のように感じられた。


「じゃ、いっきま~す」


 拓海の元気な声を合図に、真浩の改造計画がはじまったのであった。



 近衛邸についてから約一時間がたった。


「よ~し、かんせ~い」

「うん、なかなかいいんじゃない?」

「悪くはない。俺には劣るが」

「ちょっとちょっと! 雑用くんをかまいすぎ~! あたしのデザインした制服もみてよ~!」


 満足げに笑う拓海の両隣りから、聖司と亜門が真浩を見て微笑んだ。その後ろでは、ヒメリが制服のデザイン案が書かれた紙をもって不機嫌そうに四人を見ていた。


「カラコン、青でよかったんだろ」

「せんきゅ~、んじゃ、ヒロちゃん、コンタクトつけるから、目をおっきく開いて~」

「え? もうできたんですか?」

「なんだ。文句があるのか」


 姿の見えなかった祥一郎が、青のカラーコンタクトを片手にやってきた。準備の速さに真浩が驚くと、祥一郎は鋭い視線で真浩をにらんだ。どうやら、祥一郎にとって今回の計画を手伝うことはあまり気乗りのすることではないらしい。


「よ~し、カラコンも入ったし、今日の作業はいったん終わり~。ヒロちゃんも自分の姿見たい~?」

「はい……」

「んじゃ、はい」


 拓海から渡された鏡をもち真浩は、恐る恐る自分の姿を見た。


「うわー……」

「どうどう? ヒロちゃん」

「いや、これ……俺ですか?」


 真浩は鏡に映った姿に言葉をなくした。髪は金色になり、右サイドだけヘアピンでとめられている。耳には、最初からあいていた左耳のピアスに加え、右にもピアスがつけられていた。瞳は、カラーコンタクトによって青く変わっている。


「よく似合ってるよ」

「そ、そうですか?」

「奥村くん、元が悪くないし、それなら俺たちの中にいても十分やっていけるよ」


 後ろから真浩のもっている鏡を覗きこみ、亜門が言った。褒められるとは思っていなかった真浩は、少し照れながらそれにこたえる。そんな真浩の近くに、今まで様子を遠巻きに見ていた紅が近寄ってきた。


「……人を引き付ける……そっちの方が素敵……」

「えっと……ありがとうございます」


 真浩がお礼を言うと紅はかすかに微笑んだ後、また菓子をほおばり始めた。


「紅が褒めることなんてなかなかないよ。よかったね」

「そうなんですか?」

「うん、まず彼女は話さない」


 真浩は昨日亮介に聞いた誰も声を聞いたことがないという言葉を思い出した。その部分は噂通りなのだと納得する。


「あとは、制服だね」

「鳳のデザインを見たが、なかなかよさそうだ」

「でっしょ~」


 聖司に褒められてヒメリはご満悦だ。


「じゃあ、ひと段落したところで、みんな、食事にしよう」


 亜門の一声で全員で食堂に向かうこととなった。しかし、真浩が一歩踏み出そうとすると、聖司の腕が伸びてきて後ろから真浩の制服の襟をつかんだ。


「ぐっ!」

「お前には仕事があるだろ」

「ゲホッゲホッ、な、なんですか?」


 真浩と聖司の様子に、食堂に行こうとしていた生徒会のメンバーが振り返る。


「雅のこと、お前に任せるって言ったよな?」

「雅? あ、会計の……」


 真浩は思い出し、ソファーの上に寝かされている雅を見た。


「あいつは、お前が連れてこい」

「え!」

「俺たちは先に行っているからな」

「ちょっと、待ってください!」

「雅と一緒でないとお前の食事は抜きだ。わかったな」


 聖司はそれだけ言い残すと、さっさと部屋を出ていってしまった。


「じゃあ、奥村くんがんばってね。あ、そうだ、これ雅の眼鏡だからよろしくね」

「え? はあ」


亜門は真浩に雅の眼鏡を手渡し、手をひらひらと振って出ていった。


「ヒロちゃんがこれなかったら、俺がヒロちゃんの分も食べてあげるからね~」

「は! くだらん」

「……」

「さっそく雑用くんね」


 他のメンバーも、それだけを言い残し去って行った。

 一人部屋に残された真浩は、途方にくれ、ひとまず雅を起こすことを試みた。


「あの~おきてくださ~い」

「……」

「あの~すみませ~ん」

「……」


 何度声をかけても反応のない雅に、真浩は泣きたい気持ちになった。


「ええい、こうなったら強硬手段!」


 真浩は腕まくりをし、雅を盛大にゆすった。


「起きてください!」

「う、う~ん、なに~」


 やっと雅が薄く目を開いた。


「あの、食事なんで起きてください」

「だれ?」

「あ、えっと……新しく生徒会に入った奥村です」


 正しくは強制的に入れられたのだという言葉を、今は必至で呑み込む。


「めがね……」

「ああ、はい」


 差し出された雅の手に、真浩は亜門から預かった眼鏡を急いで手渡した。


「どうも」


 軽く礼を言うと、雅はうっとおしそうに眼鏡をかけて真浩を見た。そして、数秒真浩を見た後、目を見開いた。


「な……」

「な?」


 雅の様子に疑問を感じた真浩は首をひねった。すると、雅の表情が満面の笑みに変わり、いきなりガバッと真浩に抱きついた。


「ぐえっ」

「なにこれ、かわいい!なにこの生き物!」

「く、苦しい」


 雅は、真浩をギュウギュウと抱きしめたまま頬ずりを始めた。


「ちょ、ちょっと! はーなーしーてーください」


 真浩はなんとか腕の中から抜け出そうとするが、いっこうに離れる気配がない。今まで寝ているだけであったとは思えない力強さだ。


「あ、あの、食事! 食事に行かないと!」


 真浩がそう言うと、雅はピタリと動きを止めた。そのすきに、真浩はようやく雅の腕から逃れた。


「食事?」

「はい、皆さんはもう行かれました」

「そういえば、ここ、うちじゃない」


 部屋の中をきょろきょろと見回し始めた雅に、げんなりしながら真浩は立ちあがった。


「ここは、副会長の家です」

「近衛くんち?」

「はい」

「へーそうなんだ」


 このままではらちがあかないと思い、真浩はニコニコと屈託なく笑う雅をソファーから立ちあがらせた。


「じゃあ、食堂に行きましょう」

「うん」

「な、ちょっと、なんで抱きつくんですか!」

「えーなんでって……かわいいから」


 ニコニコと嬉しそうに腰に抱きつく雅をつれて、使用人に案内されながら真浩は近衛邸の食堂に向かった。

 食堂に着くと、先に着いたメンバーは既に席についていた。真浩と雅が入ってくると、皆が一斉に視線を向けた。テーブルの様子からまだ食事をはじめてはいなかったようだ。


「意外と速かったな」

「ヒロちゃん優秀~」


 聖司が真浩と雅の方を見てニヤリと笑った。拓海に関しては、大きく手を振っている。真浩はそんな二人の様子に溜息をついた。


「はあ~、あの、そう言うことはいいんで、この人なんとかしてください」


 真浩の腰には雅がいまだ抱きついて離れない。


「一条、そのくらいにしておけ」

「はーい」


 やっと離れた雅に、真浩がホッと肩をなでおろす。全員が席に着くと、料理が運ばれてきた。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 この話については、ここで終了です。

 ほぼ同じ設定で連載の方で話を進めていますので、よかったらそちらを見ていただけると今後の展開がわかるかと思います。


 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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