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七つの仮面  作者: 寧古
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三話

 悪夢のような昨日から一夜明けた今日の放課後、真浩は副会長近衛亜門のいいつけに従い中庭の温室にきていた。


「七つの大罪とは、傲慢、強欲、暴食、怠惰、憤怒、嫉妬、色欲のことを指す。キリスト教の用語のひとつで、七つの罪源とも呼ぶ。「罪」そのものというよりは、人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指す」

「まあ、いいだろう」


 そして、現在、渡された一枚の紙に書かれていた文章を暗唱させられていた。泣く子も黙るというか、泣いて喜ぶ者多数と思われる、桜ケ丘学園高等部の生徒会長御門聖司の前で。


「あの~なんでこれが必要なんですか?」


 真浩は、おずおずと聖司に問いかけた。


「これから生徒会に入ろうという者が、無知では困るからな。あとは、そうだな、簡単な記憶力のテストだ」

「そう……ですか」


 生徒会に入るためにこの知識が必要なのかは甚だ疑問だが、生徒会長がいうことに逆らうわけにはいかない。ここでは生徒会長こそが絶対の法なのだから。早くも疲れきっている真浩を、亜門と拓海とヒメリは興味深そうに見ている。祥一郎は興味がないのか読書をし、紅は菓子類と思われるものを一生懸命に食べている。雅に関しては昨日と変わらずソファーの上で眠っているようだ。


「ねえねえ、かいちょ~、ひろちゃんの役職は決まったの~」

「あ、それは俺も気になるな」


 真浩と聖司のやりとりが一段落ついたのを見計らって拓海が手をあげ、ニマニマと笑いながら質問した。横にいた亜門も、軽く手をあげながら同意する。


「それなら、もう決めてある」

「なになに~」

「生徒会補佐だ」

「ほさ~?」

「こいつには特に役職を決めず、多方面で俺たちのサポートをしてもらうことにした」

「ふ~ん」


 聖司の言葉を聞いて、拓海は理解したのかしていないのか曖昧な返事を返した。聖司はと言えば、真浩の方を見て意味ありげな微笑みを浮かべている。


「つまり、体のいい雑用ってことだね」

「まあ、そういうことだな」

「な! ……はあ」


 亜門が穏やかに微笑みながら、恐ろしい言葉を口にした。そして、とどめは聖司がそれに同意したことである。真浩は、自分の不運を強く呪うしかなかった。


「あと、お前にはもう一つ仕事をやる」

「はい……なんでしょう」


 いっそ投げやりな気持ちで真浩が聞くと、聖司は雅のところに歩み寄りこういった。


「こいつの世話も頼む」

「え?」

「こいつは、ほおっておくといつまでも寝たままだ。適当に起こして仕事をさせろ」

「あの……」

「ちなみに、起こし方は自分で考えろ。終わらなかった会計の仕事は、連帯責任として、お前にもやらせるつもりだからせいぜいがんばれよ」

「な! そんな!」

「わかったな」

「……はい」


 自分に従うことは当然だという様子の聖司と、今にも魂の抜け落ちそうな真浩のやりとりは、はたから見ていて飽きないものである。そのやりとりを見ていた亜門は、これから楽しくなりそうだと心の中でつぶやいた。


「確認しときたいんだけど、奥村くんも一応生徒会のメンバーなんだよね?」

「ああ、一応な」

「だったら、彼にも生徒会として、生徒を引き付けてもらわないと。雑用っていう利用価値だけじゃ、生徒会としての価値が付加されないよ?」

「ふん、そうだな。いい案だ」


 真浩は一応という言葉を強調するなら、生徒会としての価値は必要ないのではという言葉を必死に呑み込んだ。なぜなら、聖司と亜門がさも楽しそうに話を進めていたからだ。二人がこういう笑顔をしているときは、自分にとって悪いことが起きることを真浩は少しずつ学習していた。余計なことを言って、傷を深めるわけにはいかない。


「さて、どうしようか」

「京華院、なにかいい案はないか?」


 聖司と亜門は、二人で首をひねった後、拓海に話を振った。


「ん? おれ~? そうだな~。じゃあ、まず容姿から変えたら?」

「え……容姿……ですか?」


 拓海は、真浩の全身を一度見て一つの案を出した。まさか、容姿にダメ出しをされるとは思っていなかった真浩は、いやな予感に一歩退く。


「なんかさ~ひろちゃんって、花がないんだよね~。個性とも言うかな~」

「花? 個性? それはどういう……」

「はっきしいって、今のままじゃ、ひろちゃん完全に俺らの中に埋もれるね!」


 キャハハと笑いながら、拓海がおかしそうに真浩を見ながらそう言った。真浩がこんな人並み外れて整った容姿の持ち主たちの中にいたら、自分じゃなくても埋もれてしまうだろうと言いたかったのは言うまでもない。


「もっとインパクトがほしいよね~」

「はあ」

ビシッと真浩を指して、拓海が宣言した。

「う~ん。どんなのがいいかな」

「俺のように、にじみ出るオーラのないやつは不憫だな」

「ホントのこと言ったら、奥村くんがかわいそうだよ」

「あの、泣いていいですか?」


 うんうんと悩む拓海の横で、聖司が哀れなものを見るように真浩を見た。亜門に関してはフォローする気もないようだ。


「ねえ、金髪とかどうかしら?」


 真浩の容姿について四人が話していると、思いがけないところから声が上がった。


「金髪に、青いカラコンなんてどう?」


 発言したのは、ずっとやりとりを見ているだけだったヒメリだ。


「うひゃ~、ヒメリンそれ、めいあ~ん。爪も黒く塗っちゃおうよ!」

「インパクトとしては、申し分ないね」

「あの、それ完全にインパクトだけ重視してますよね」

「まあ、こいつならそのぐらいのインパクトあってもいいだろ」

「ちょっと!やっぱり、インパクトだけしか考えてないじゃないですか!」


 真浩は悪い方向に話が進んでいることを察知し、急いで拒否した。だが、真浩の意見を聞くような生徒会メンバーではない。


「いいじゃん、いいじゃん! 帰国子女っぽい感じで~」

「いや、俺純日本人なんですが!」

「キャラはどうする?」

「今の、奥村くんのままでいいんじゃないかな?今さら変えるのも難しいでしょ」

「お願いですから、俺の話を聞いてください!」


 完全に自分の存在が忘れられていると感じた真浩だったがどうしようもない。


「よし、まずは髪を染めるところから始めるぞ」

「らじゃ~、いい暇つぶしになりそ~」

「ふふ。これで利用価値が上がってくれることを願うよ」


 なぜかやる気満々の聖司と、本音が隠せていない拓海、本音を隠そうともしない亜門がそろって立ち上がった。


「鷹司、大徳寺! お前たちも手伝え!」

「ん……」

「チッ……めんどくせ」


 聖司が声をかけると、紅と祥一郎がこちらにやってきた。祥一郎は、ライラを隠さず、紅は手にたくさんの菓子類を抱えてやってきた。


「鳳、お前もだ」

「な~んか、雑用くんに、み~んなかまってばっかりでおもしろくな~い」

「あの、雑用くんって……俺ですか?」

「他に誰がいるのよ~」

「ヒメリ、今回は君の案なんだし、風紀委員の仕事として、生徒の容姿に関しては把握しとかないと。みんな君の案で動いてるんだから、君のために動いてるようなものだよ」

「まあ、亜門くんがそう言うんだったら手伝ってもいいけど」

「ふふ、そう言ってくれると助かるよ」


 不機嫌そうに腰かけたまま、ヒメリがプイッとそっぽを向いた。そこに、すかさず亜門がフォローを入れる。


「よし、それでは分担を決める。京華院はこいつの髪を染めてやれ。ついでに爪もな」

「おっけ~」

「鳳は、制服に個性を出してやれ」

「は~い」

「亜門は京華院と鳳の手伝い」

「了解したよ」

「鷹司は、カラコンの手配」

「チッ」

「大徳寺は……まあ、いい」

「……」

「そして、俺は、お前の生徒会への参加を正式に申請してくる」


 てきぱきと指示を出した聖司が、ニヤリと笑いながら申請書をひらつかせ真浩を見た。


「ちょっ、ちょっと待ってください! いまからですか?」

「何か問題でもあるのか?」

「急すぎますよ!」

「善は急げだ。それとも、今からではだめな理由でも?」

「いや、今日はもう遅いですし!」


 必死に時計を指しながら、真浩は聖司の説得を試みた。温室に置かれた高級そうな柱時計は十八時半を指している。


「うん、確かに。そろそろ、学校が閉まるころだ」

「で、ですよね! だから、このことはまた次回に…」


 時計を見た亜門が、真浩に同意した。真浩は、ここぞとばかりに聖司の説得を試みる。


「学校では無理……か」

「そうですよ! だから……」


 聖司の言葉に、あと一歩というところまで説得できていると感じた真浩は、言葉を重ねる、が。


「じゃあ、僕の家に来るかい?」

「……え?」

「やったー! 亜門くん家行きた~い」

「俺も~」

「え……あの……」


 先ほど真浩の意見に同意していた亜門が新しい提案をした。真浩は思わずまじまじと亜門の顔を見た。亜門の表情からは、真浩が目を白黒させているのを楽しんでいる様子がうかがえる。そして、なぜか、ヒメリと拓海は楽しげである。


「大丈夫なのか?」

「うん、今日は、邸に俺以外誰も家族がいないからね。この人数で来ても問題ないよ」


 聖司が亜門に近づき少し硬い表情で問いかける。それに、亜門はいつもと変わらない様子で返す。


「そうか……よし、では、近衛邸に行くとしよう」

「じゃあ、うちの車をまわさせるよ」


 ニコニコと微笑みながら亜門が電話をかけ始めた。聖司は真浩の申請書を提出するためにさっさと温室をでていき、他のメンバーも帰り支度を始めた。


「俺、やっぱり、行かないとだめ……ですよね?」

「そりゃ、主役が欠席しちゃまずいっしょ~」

「……そうですよね~」


 なにやら、置いていかれたような気持ちになっていた真浩は、隣にいた拓海に救いを求めた。だが、ヘットフォンを首にかけながらニッコリと答える拓海のようすに、無駄だったことを知る。そんな現状に、一つ溜息をついて、真浩は帰り支度を進めたのだった。窓の外では夕日がゆっくりと沈み始めていた。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 龍徳学園生徒会誌との違いを感じながら読んでいただけるとありがたいです。

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