表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七つの仮面  作者: 寧古
2/4

二話

 午前の授業を無事に終え昼食の時間が来たとたん、亮介は早々に学食に行ってしまった。真浩も誘ってくれたが、あいにく弁当をもっていたので断った。この弁当は真浩の叔父が家の料理人に言って作らせたものである。真浩がその弁当を開こうとしていると、周りに数人のクラスメイトが集まってきた。


「あの~奥村くんて、どこからきたの?」


 その中の一人の女子生徒が意を決したように真浩に話しかけてきた。真浩はその疑問に特に気にすることなく答える。


「え?ああ、梅園高校から」


 真浩が返事を返すと、その女子生徒はパッと笑って他のクラスメイトと顔を見合わせた。そして、それからがすごかった。クラスメイトが次々と質問を投げかけてくるのだ。一向に弁当を食べさせてくれる雰囲気にはならない。真浩は仕方なく職員室に呼ばれているからと、弁当をもって教室を出た。


「はあ~、転校生ってこんなに疲れるものなのか……」


 多少ふらつきながら、広い校舎の中を静かな場所を求めてさ迷い歩く。しかし、校舎内のことを全く知らない真浩が、ここに来た当初と同じように道を見失うのに時間はかからなかった。


「また迷った……」


 こんなことなら、亮介と一緒に学食に行って弁当を食べればよかった。今さらな後悔にさいなまれながら、真浩がたどり着いたのは中庭らしき場所だった。


「どこだ……ここ……」


 健康な男子高校生にとって、昼食を抜くことは拷問に近い。ふらつく真浩が歩いていると、中庭らしき場所の一角に温室のような建物が見えた。ここならばさすがに生徒はいないだろうと思い、空腹で痛いぐらいの胃を抱えながらその中に入っていく。少し進むと人の声らしきものが聞こえてきた。


「……ろう……めろ……なら」


 ここにも人がいたのか、と残念に思いながらそこを立ち去ろうとしたとき、ふとどこかで聞いたことのある声がしたような気がした。気になった真浩は温室のさらに奥に足を踏み入れた。温室に置かれた大きめの植物の陰から様子をうかがうと、そこにいたのは生徒会の面々だった。しかし、少し様子がおかしい。


「は、よくも飽きずにこうも毎度騒げるもんだ。下等な人間の行動は、理解しがたい」

「まあま、その彼らは彼らなりに、いじましく生きてるんだから。こっちとしては、彼らがこちらに心を向ければ向けるだけ、利用価値が増えるってものだよ」


 生徒会長は足を組んで人を見下したような笑みを浮かべており、副会長はその横で優雅にお茶を飲みながら信じられない言葉を返している。


「二年C組の一番前にいた生徒、あのリボンは派手すぎ!没収よ!」

「でたよ、ヒメリンの嫉妬癖~俺としては、リボンってエロくていいけど、なんてね~ヒャハハ」

「てめえら、いい加減黙れ。てめえも食うならあっちで食え」

「ん」

「どうでもいいけど、僕は疲れた。寝る……」


 朝の雰囲気とはうって変って、淀んだ雰囲気をもった生徒会のメンバーがそこにいた。文化委員長は中央委員長と何やら大声で言いあいをしており、となりで騒ぐ文化委員長と中央委員長を怒鳴りつけ、ひたすら菓子類らしきものを食べている書記を追いやったのは体育委員長だ。勤勉だと言われていた会計は、一人ソファーで寝始めた。


「ありえない……」


 思わずつぶやいてしまった自分の口を急いで押さえ、真浩はここでは何も見なかったと自分に言い聞かせ立ち去ろうとした。のだが。


「うわっ!」


 ゴンッという派手な音とともに、花の鉢につまずいた真浩は、危うく転びそうになるところを寸前でこらえた。ほっとしたのもつかの間。自分が重大なミスを犯したことに気づいた。先ほどまでしていた話声がいっさい聞こえないこの状況は、真浩の犯したミスがどれだけ重要なものだったのかを表わしている。


「誰だ」


 静かだが鋭い会長の声がとぶ。真浩はあまりの衝撃に声を出すこともできない。黙っている真浩にしびれを切らしたのか、足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。


「誰だと聞いている!」

「あ、あの」


 真浩が隠れていた植物の後ろまで来た会長は、真浩に鋭い視線を向けた。その視線に真浩は焦ってしまい上手く話すことができない。背中を冷たい汗が伝うのが分かった。


「なぜここにいる」

「あ、えっと、お昼を食べる場所を探してて」

「ここは、生徒会の役員のみが使える場所だと言ってあるはずだが?」

「俺、今日転校してきたばかりで……あの、朝お会いしました……よね?」


 真浩は祈るような気持ちで今朝のことを説明しようとした。今の会長は偽物で、朝の会長が本物であったと信じたい。


「下等な人間のことを、いちいち覚えてなどいない」


 真浩の願いはもろくも崩れ去った。真浩と会長が話していると、副会長が横から顔を覗かせた。


「重要なのはどこから聞いてたかだよ。君、いつからいたの?」

「つ、ついさっきです」

「ホントに? 言っとくけど、嘘ついても何の得にもならないからね?」


 終始笑顔で話しかけてきているはずの副会長を、真浩は本能的に危険だと察した。その灰色の瞳は全てを見透かせるような不思議な色合いをしている。副会長の言葉に真浩は何度もうなずいた。


「だって、どうしよっか?」

「どったの~」


 副会長が真浩のことを見ながら会長に問いかけた。その後ろから声をかけたのは中央委員長だ。文化委員長と体育委員長も、そのあとから近づいてきた。生徒会の大半に囲まれた真浩は、まさに絶体絶命である。


「どうやら、話は聞かれていたようだからな」

「あの、俺絶対言いませんから!」

「ふん、そんな言葉信用できるか」


 必死に否定する真浩を会長が軽くあしらった。少し考え込んでいた会長は、何かを思いついたように真浩を見た。そして、チラリと体育委員長の方を見てこういった。


「確か、来週から学園祭の準備が本格化するんだったな」

「ああ」


 話をふられた体育委員長は怪訝そうに答えた。そんな体育委員長を尻目に、会長は真浩をもう一度見て言った。


「よし、お前、今日から生徒会の犬になれ」

「え? ……えーーーー?」

「文句があるなら言って構わないが、このことを受け入れない場合にはこの学園にはいられないと思えよ」


 選択肢が存在しない。答えは是しかないのだ。これは、立派な脅迫だと真浩は泣きそうになった。


「いい考えだね。君も転校初日で学校を去りたくはないだろう?」


 真浩はこの人の笑顔は、なぜこうも恐ろしいのだろうと焦りを覚えた。副会長の言葉を聞いて、真浩は勢いよく首を縦に振る。


「よろしい」


 副会長がにっこり笑いながらうんうんとうなずいている。真浩はこの人に一生勝てる気がしないと感じた。


「名誉なことだ。喜べ。で、お前名前は?」

「奥村真浩です……」

「奥村? ……まあ、いい。そうと決まれば話は早い。さっそく明日までにお前の役職を生徒会に用意してやる」

「あ、はい、よろしく……おねがいします」


 はてしなく辞退したいが、真浩にとってそれを言うことは今のところ不可能だ。せっかく叔父が進めてくれた学校を、転校初日で退学になっては申し訳が立たない。しかし、真浩はどうしても納得できないことがあり、会長に問いかけた。


「あの、皆さんは、学校内ではかなり……その違った性格で見られている……というか……」

「俺たちはこの学園の下等な人間のために、今の俺たちを演じてやっているんだ。おかげで、皆は理想的な学園生活を送れている。感謝されても非難されるいわれはない」


 一体その自信はどこからくるのかというほどきっぱりと会長が言い放った。


「でも、学園の生徒を……その……だましてるってことですよね?」

「だます? は、いかにも低脳なやつの考えそうなことだな。俺たちは、ただ、それぞれの仮面をかぶって役を演じているだけだ。この学校は、いわば、俺たちの舞台なんだよ」


 会長は、真浩を見下すような視線で見た後、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。真浩は不覚にもその顔を、なぜか体育館で見たときの顔より会長らしいと思ってしまった。


「下等な生徒どもは、俺たちのことを七つの美徳になぞらえて呼んでいるらしいが。くく、それは見当違いだったということだ」

「どういう……ことですか?」

「真実の俺たちの姿は七つの美徳どころか、七つの大罪の性質に相当する。まあ、真実など往々にして残酷あものだ。俺の前では人の犯した償いきれぬ罪でさえも、いっそう魅力を引き立てるものにしかならないということだ」


 さもおかしいと言った様子で、会長は真浩を見ながら話している。その言葉を聞き、真浩はとんでもない集団に巻き込まれてしまったことを知ったのだった。だが、今さら後悔しても遅い。


「まあ、授業も始まることだしもう行きな? 明日の放課後、またここにおいで」


 副会長の笑顔が、明日逃げることは許されないということを語っていた。真浩は、生徒会のメンバーに頭を下げると、急いでその場を立ち去った。副会長と中央委員長が手を振っていたが、振り返す気もおきず逃げるように校舎に入った。



 なんとか自分のクラスに帰った真浩は、お昼を食べ損ねたことも忘れて急いで自分の席に座った。


「マッピどこ行ってたの~俺探したんだよ~」


 となりから、亮介が怒ったように真浩に話しかけた。


「ああ……ごめん」

「いや、まあ、いいんだけどね……マッピなんかあった?」


 素直に謝った真浩に、亮介が少し心配そうにしながら問いかけた。


「いや、別に……何も」

「ふ~ん、ま、マッピが言いたくないならいいけどね。なんかあったらなんでも俺に相談してよね」

「ありがとう」


 二カッと笑う亮介に、真浩も笑顔で返した。今しがた魔窟のような場所にいたせいか、その笑顔が妙に眩しく思える。


 その後午後の授業を受け、真浩は帰路についた。亮介とは帰る方向が違ったため、校門前で別れたので今は一人で帰り道を歩いている。思えば、今日はとても濃い一日であった。明日からの生活を考えると気が重い。どんよりとした気持ちで、叔父の家を目指して歩きながら、真浩は重たい溜息を一つつき、夕焼けに染まる空を見上げたのだった。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 すでに全て書きあがっているので随時手直ししてあげていこうと思います。

 よろしければもうしばらくお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ