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七つの仮面  作者: 寧古
1/4

一話

 今回はあらすじでも述べたように、連載の前進となった話です。

 連載のみをお読みになりたい方はご注意ください。


 内容としましては、四龍会(連載の方に登場する言葉です)のメンバーの性格がなぜあのように設定されているのかがなんとなくわかるものになっています。

 また、同じメンバーでも違う容姿になっていたりします。

 違うところと比較していただくのも良いかもしれません。


 このまま投稿しようと考えてもいましたので、もちろん初めての方でも読んでいただけると思います。

 

 長々と失礼しましたが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。



 まだまだ暑さの残る気候の中、通学路をまっすぐ学校に向かって歩く。叔父が車で送ると言ってくれたが、真浩は学校に車で行くなどめっそうもないと丁重に断った。金持ちは考えることが違うらしい、とさっそく価値観の違いに、くじけそうになる自分を励まして進む。


「えっと、ここかな。ってデカッ!」


 渡された地図に描かれた場所を、もう一度確認してみるがやはり間違いないようだ。真浩が視線を向けた先には、城と言っても過言ではないような建物が建っていた。


「なんだ……これ……」


 数分固まっていた真浩は、その建物から聞こえてくる鐘の音で我に返った。


「ヤバッ!」


 転校初日から遅刻はまずい。真浩は急いでその学校らしき建物に入って行ったのであった。



 校舎に入って五分後。


「ま、迷った……」


 真浩は完全に道を見失っていた。なぜなら、この学校の校舎は学校というのに気が引けるほどの大きさだったからだである。まさに城だった。


「困ったな~」


 真浩がきょろきょろとしながら歩いていると、階段から降りてきた誰かとぶつかった。


「痛っ!」

「っ!」


 はずみで倒れてしまった真浩が前を見ると、すらりと背の高い男子生徒が目の前に立っていた。涼しげな切れ長の瞳にサイドで切りそろえられた黒髪がよく似合うものすごい美男子だ。その男子生徒が真浩を一度鋭い視線で睨む。その視線に固まっていると、男子生徒は瞬時に表情を和らげて手を差しのべた。


「大丈夫か?」


 最初の鋭い視線からは想像できない優しい言葉に、真浩はとまどいながら差し出された手をとった。


「見慣れない顔だな」

「あ、はい。今日からこの学校に転校してきました」

「そうか」


 真浩の言葉を聞いて男子生徒は穏やかに微笑んだ。雰囲気からして上級生だろうか。


「見たところ、どこかに行くようだが?」

「はい。校長室に行こうと思っていたんですが……迷ってしまって……」


 かなり恥ずかしい状況ではあったが、嘘をついても何もならないと思い正直に今の状況を伝える。


「ああ、この学校は広いからな。初めての人間は大概が迷う」

「そうだったんですか……」


 確かに、こんなに広ければ迷わない方がおかしいかもしれないと真浩は思う。


「よければ、校長室まで俺が案内しよう」

「え! そんな……いいんですか?」

「ああ。こっちだ」


 なおも穏やかな表情を崩さないその男子生徒が、真浩には天使に見えた。しばらく歩くと校長室と書かれた部屋の前に着いた。


「ここだ」

「あ、あの、ありがとうございました」

「たいしたことじゃない。じゃあな」


 勢いよく頭を下げる真浩に笑顔で軽く右手をあげた後、男子生徒は去って行った。


「あ、名前聞くの忘れてた」


 その男子生徒が見えなくなった後、はっと気づいてそう呟いたがもう遅い。今さら気づいた事実に自分のふがいなさから一つ溜息をつき、真浩は校長室のドアと叩いたのだった。



 校長先生へのあいさつを終え、担任の先生に連れられて真浩は自分のクラスに向かった。


「ここが、今日から君の教室よ」


 一年B組と書かれた教室の前で、担任の滝本千恵子先生が立ち止まってそう言った。滝本先生は二十代後半くらいの黒髪美人だ。


「あ、はい」

「ふふふ、ま、そんなに緊張しないしない」


 明るく真浩を励ました後、先生が教室のドアを開けた。


「みんなおはよう! 今日は転校生が来てるわよ」


 先生の言葉に教室の中が一気にざわついた。


「どうぞ、入ってきて」


 真浩は一度大きく深呼吸をしてから教室に入る。そして、黒板に自分の名前を書いたあとクラスメイトに向き合った。


「はじめまして、奥村真浩と言います」


 真浩があいさつすると、教室は一度静まりかえりそこかしこでまたひそひそ声がおこった。


「うわ! イケメンじゃん」

「女子じゃね~のかよ~」

「でも、ちょっと不良っぽくない?」


 ざわつく教室を滝本先生が静めた。


「はーい、みんな静かにー。じゃあ、奥村くんは一番後ろのあいてる席に座ってくれる?」

「あ、はい」

「となりは……篠原くんね。篠原くん、奥村くんに色々教えてあげてね」


 先生がそう言うと、現在あいている席のとなりに座っていた男子が元気よく返事をした。


「は~い! 了解で~す!」


 真浩が席に着くと、さっそくその男子生徒が真浩に話しかけてきた。


「ども、はじめまして! 篠原亮介です!」

 

 右手を軽くあげてにっこり笑いながら亮介が言った。亮介はワックスで髪を立て、淡い茶色の髪色をした今時の高校生といった感じだ。


「あ、うん、はじめまして奥村です」

「はは、それさっき聞いたよ~! 奥村真浩だっけ?」

「うん」

「真浩か~、んじゃ、マッピでどう?」

「え?」

「あだなだよ、あだな~それとも何か呼ばれたいのとかある?」


 興味深々で真浩を見てくる亮介に、多少気押されながら首を横に振った。


「よっしゃ、じゃ、マッピで決まりな! ちなみに、俺のことは亮介って呼んでくれたらいいから!」


 ニカッと笑いながら亮介がそう言った。その笑顔に真浩も笑い返しながら、朝のホームルームを過ごしたのだった。



 ホームルームが終わると、始業式があるとのことで真浩たちは教室の外に整列し体育館に向かった。


「転校初日に全校集会だなんて、大変だねマッピ」


 ニヤリと笑いながら、真浩の後ろを歩いていた亮介が肩を掴んできた。


「え? いや、別に、集会なんて珍しくないだろ?」

「それが違うんだな~うちの学校は」

「どういうことだ?」

「ま、見ればわかるよ」


 亮介の意味深な言葉に疑問を感じつつ、体育館に着いた真浩は集会が始まるのを待った。開始の鐘がなると、体育館内はにわかにざわめき始めた。そのざわめきはそのうち絶叫と呼べるくらいの騒ぎに変わっていった。


「なにがおきてるんだ?」


 その場の熱狂ぶりに真浩が目を白黒させながら問うと、亮介がニヤリとして言った。


「生徒会だよ」

「生徒会?」

「うちの学校の生徒会は、そこらの学校の生徒会とは違う。現生徒会長の御門聖司を筆頭に、ある意味この学校の象徴的な存在なんだよ。ま、アイドル集団って言ってもいいかもね~」

「アイドル集団……」


 確かに、それならこの体育館の熱狂ぶりもうなずける。そう思い体育館の入り口を見ていると、噂の生徒会らしき集団が入ってきた。その堂々とした姿に、体育館のざわめきはいっそう激しくなる。


「あ!」


 その先頭に立つ人物には見覚えがあった。


「あの人……」

「ああ、あの人こそ我らが生徒会長、御門聖司様だよ。なに、マッピ知り合い?」

「いや、さっき校長室行くのに迷ってたときに案内してもらったんだ」

「それ、めっちゃレアじゃん! 生徒会長と話すなんてここの生徒でも簡単にはできないことだよ!」


 となりで、すげーすげーと一人盛り上がっている亮介に苦笑いをむけ、真浩はまた生徒会の集団に目を向けた。視線を向けた先には会長である御門聖司を筆頭に、美男美女という言葉がふさわしい七人の生徒がいた。七人は二つに分かれた生徒の集団の間を優雅に歩いている。周りの生徒たちに微笑んだり、手を振りながら歩いているため、とてもゆっくりとした足取りで体育館のステージに向かっていた。


「なんか、チカチカしてないか?」

「マッピ、それを言うならキラキラでしょ」

「ああ、うん、そっか」

「え? マッピってもしかして天然?」


 後ろでぼそぼそと何か言っている亮介を尻目に、真浩は生徒会長以外の六人を目で追った。そんな真浩に気づいた亮介が、横から同じようにメンバーを見ながら解説を始めた。妙なところで気の利くやつである。


「会長の斜め後ろを歩いてるのが、近衛亜門副会長。通称救恤(きゅうじゅつ)の君」

「救恤の君?」

「救恤っていうのは、人びとを救ったり、恵みを与えるって意味。副会長は、いっつも優しい笑顔で、人当たりも良くて、困っている人間を決してほおっておかない人らしいよ~」


 亮介が、色素の薄い長めの髪に灰色の瞳をした男子生徒を指してそう言った。凛として歩く生徒会長の後ろで、穏やかに微笑み、周りの生徒に手を振りながら歩いている。


「で、その後ろにいるのが書記の大徳寺紅さん。あの人の声を聞いたことのある奴はいないって噂だ。通称節制の君」

「なんで節制?」

「え~っと、確か、幼さの残る憂いを含んだ瞳の持ち主。それでいて、何も語らない姿は自らを厳しく律しているかのよう、だったかな」

「……なんか、うん、説明ありがとう」


 書記だと説明された生徒は、生徒会メンバーの中で最も身長の低い女子生徒であった。亜麻色の髪が風になびいて輝いている。


「そんで、その右隣が会計の一条雅さん。ストイックな雰囲気が謎めいてるって人気を集めてる。通称勤勉の君」

「……勤勉の君?」

「うん、仕事命で少しのミスも許さない冷徹仕事人間だから、その勤勉さに敬意を称してそう呼ばれてるんだって~」

「ふ~ん……」


 会計だと説明された生徒は、眼鏡の奥から神経質そうな瞳を覗かせた男子生徒である。周りの喧騒が煩わしいといった感じで眉間にしわを寄せ前だけを見て歩いていた。さらに目を引くのは、その生徒のふわふわと癖のついた金色の髪である。光を受けて輝くさまは、さながら天使のようである。


「その後ろにいる二人が、体育委員長の鷹司祥一郎さんと、文化委員長の鳳ヒメリさん。体育委員と文化委員は学園祭を取り仕切るだけじゃなくて部活の統括もしてるんだよ。運動部は体育委員が、文化部は文化委員が取り仕切ってる。あと、体育委員は保健委員を、文化委員は風紀委員を兼任してるんだよ」

「へ~そうなんだ」

「二人は、それぞれ通称慈悲の君と忍耐の君」

「なんかそういうの多いな……」


 体育委員長は、屈託のない笑顔の眩しい長身の男子生徒。文化委員長は、ウェーブかかった赤髪に、光の加減で青く見える瞳を持つの女子生徒であった。


「最後の一人は、中央委員長の京華院拓海さん。中央委員ってのは、各専門委員会を統括する立場にいる人のことなんだよ~。あの人は、通称純潔の君」

「ああ、そんな感じだろうと思ったけど」

「え? なんでわかったの!」

「いや、雰囲気で……」

「なに、マッピってエスパーなわけ?」


 なぜか間違った方向に解釈している亮介に適当な返事を返してから、真浩は純潔の君と呼ばれた男子生徒を見た。その生徒はオレンジ色の柔らかそうな癖のある髪に、少しタレ目の男子生徒だった。


「けど、あだ名がどれも小難しいというか、臭いというか」

「マッピ、それ禁句だよ! 熱狂的なファンもいるからそういうことは言わない方がいいよ」

「あ、そうなんだ……気をつける」

「うん、ま、この学校の生徒は優秀でプライドの高い人間で構成されてるからね。ちょっと難しい言葉を使ってみようって雰囲気は否定できないけど。それぞれの役員についてるあだ名は、七つの美徳っていう考えに由来してるらしいよ~」


 真浩の言葉に亮介はいたずらっぽく笑いながら答えた。金持ちはあだ名一つとっても考え方が庶民とは違うらしい。この学校に馴染めるか不安を感じ始めた真浩と、特に気にした様子もない亮介がそんな話をしているうちに生徒会役員は全員ステージに上がったようだった。今までのざわめきが嘘のように、生徒は一心にステージ上を見ている。ステージ上では教卓を前にして、生徒会長が全校生徒に向き合っていた。


「充実した夏休みを過ごせただろうか。今日から二学期が始まるが、皆気持ちを新たにし、学校生活に臨んでほしい。君たちの努力を、俺は期待している」


 それだけを言うと生徒会長は自らの席に戻って行った。体育館にはしばらくの間鳴りやまない拍手が響いていた。その後校長先生の話などがあったが、生徒の関心は生徒会に向いているようだった。始業式が終わり、生徒会が退場する時も最初と同じ騒ぎが起きていたのは言うまでもない。


「なんか……ここの生徒会ってホントにすごいんだな」

「だ~から、言ったじゃん」

「ここまですごいとは思わなかった」

「まあ、美男美女ぞろいな上に、全員模範生徒、家柄も申し分なしとくれば当然でしょ」

「そういうものなのか」


 始業式が終わり体育館から教室に戻る道すがら、真浩と亮介は生徒会について話していた。


「そういえば、生徒会長にさっきの小難しい呼び名はないのか?」

「ああ、会長は、謙譲の君だよ」

「謙譲……ね……」

「そ、あんなに人気のある集団のそれもトップにいて、おごらず、常に謙虚な姿勢でいるってことでそう呼ばれてるんだよ」

「へ~」

「あの集団のトップなら、この学校をどうにかするくらい訳ないはずだからね~」


 真浩の質問に答えながら亮介は腕組みをし、なにやら感慨深げに話している。そんな話しながら、真浩たちは並んで教室まで歩いたのだった。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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