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第7章:最大のピンチ到来!

度重なる失言で妹の咲良の信用度、もとい、好感度は激下がり。

 このままでは十数年間、積み重ねてきた仲のいい兄妹関係が崩れてしまう。

 俺はその危機を回避すべく、彼女の部屋を手土産を持って訪れていた。

 

「咲良はそれが好きだろ?」

 

「まぁね。あむっ、美味しいっ」

 

 咲良の好物である有名お菓子店のバームクーヘン。

 ちまちまとハムスターのように愛らしく食べる妹。

 ご機嫌ななめでも、機嫌をなおしてくれる最終兵器。

 ただし、これがまたお値段、ちょっとお高め(税込1260円)。

 お小遣い制の俺にはちょいと厳しい値段設定だ。

 それは咲良も同じ、滅多に食べられないからこその切り札。

 

「ね?ね?これ、全部食べていいの?」

 

 目を輝かせてバームクーヘンを眺める咲良。

 

「もちろんだとも。それは咲良のために買ってきたんだからな」

 

「ありがとう、お兄ちゃん♪」

 

 満足しているのか、久々の笑顔だ。

 喜んでいる咲良の笑顔は可愛いから好きだ。

 ふぅ、危ういところで兄妹の絆は守れたらしい。

 

「……そういえば、お姉ちゃんに告白はできたの?」

 

「まだだ。何やらその話題を避けられている」

 

「そうなの?どうしてだろうね?」

 

 その辺の事情はよく分からんが、何かしらの事情があるんだろう。

 

「なぁ、咲良……ひとつ、聞いていいか?」

 

「なぁに?」

 

「――もしも、俺がいなくなると寂しいか?」

 

 咲良はこちらを見つめると、バームクーヘンを食べるのをやめた。

 

「……それ、もしかして、死亡フラグ?」

 

「なんで、俺に死亡フラグをたてるの!?」

 

 お兄ちゃん相手に妹が恋愛フラグじゃなくて、死亡フラグを立てるってどんな関係だよ。

 

「違うの?いきなり真面目な事を言うから」

 

「違います、例えばの話。もしもの話だって前置きしたでしょうが」

 

 死亡フラグって俺はこれからどこかに戦いにいくのか……それとも、俺は組織に消されるのか?

 

「違うの?んー。やっぱり、この甘さがいいんだよねぇ。白いシュガーがかかってる部分が好きなの」

 

 咲良は再び、美味しそうにバームクーヘンを食べ始める。

 

「あのぅ、俺を無視しないでください。結構、真面目な質問なのだ」

 

「ふーむ。お兄ちゃんがいなくなったらねぇ」

 

 咲良は少し考えてから俺に言う。

 

「お兄ちゃんがいなくなったら……宿題を教えてくれなくなるから嫌かも」

 

「え?リアルに俺ってその程度の存在?」

 

「でも、今はお姉ちゃんがいるから問題ないかな?」

 

「しかも、俺ってば既に用済み?いらない子状態?」

 

 さり気に咲良にとっての俺の存在位置が明らかにかなりショック。

 仲のいい兄妹だと思っていたのは俺だけだったのか。

 

「えっと、お兄ちゃんがいなかったら……少年漫画が読めなくなる。自分で買うのはちょっと勇気がいるんだよね。あとは、このバームクーヘン!ママはこれが私の好物だって知らないから買ってくれるのはお兄ちゃんだけだし」

 

「……お、俺の存在意義は……咲良にとって、それっぽっちなのか?」

 

「あれ?なんかショック受けてる?」

 

 当たり前だよ、めっちゃくちゃショックだっての。

 俺は身体を震わせながら、嘆くしかなかった。

 

「別に何でもないよ、あはは……どうせ、俺なんて咲良にとってはそのバームクーヘン以下の存在だったのね」

 

「それは認めるけど」

 

「あっさり、認めちゃうの!?」

 

 俺、瞬殺……勝負にすらならないの?

 咲良にとっての俺<<越えられない壁<<バームクーヘンらしい。

 

「ぐすっ。もういいです、お兄ちゃんは旅に出ます。人生という名の冒険にね!」

 

「ホントにショック受けてるの?」

 

 相当ショックで混乱しているのだよ。

 咲良に必要価値なしとされるのは俺にとって生きがいをなくすのと同義です。

 

「ええんや、俺なんて……バームクーヘン以下なんや……」

 

「あらら。お兄ちゃん、元気をだして。あ、あのね?」

 

「ふっ。気にするな、お兄ちゃんは目が覚めた。俺、次こそはバームクーヘン以上と咲良から思われるようなカッコいいお兄ちゃんになってみせるから」

 

「いや、バームクーヘンと比べられる事を悲しいとは思わないの?」

 

 お願いだから、素で突っ込むのはやめて。

 本気で泣きそうになるからさ。

 

「俺、生まれ変わったら、咲良の食べるバームクーヘンになるんだ」

 

 マジ凹みしてウジウジとしていると、さすがに咲良も気にした様子で、

 

「え、えっと……ほら、バームクーヘン。食べる?」

 

 咲良はフォークで一切れ、バームクーヘンを俺の口元に運ぶ。

 

「はい、あーん」

 

 口に広がるバームクーヘンの程よい甘い味。

 覚えておけ、俺はいずれお前を超えて見せる。

 

「美味しいでしょ?」

 

「うむ。これが我が宿敵の味か。悔しいが美味しいと認めざるを得ない」

 

「冗談だよ、冗談。……お兄ちゃんは私にとって……そ、その……大切なお兄ちゃんだから、いなくなるとすごく寂しい」

 

 照れくさそうに呟く、咲良の表情にグッとくる。

 咲良ってば可愛すぎだぞ……実妹でなければ、俺はもうっ。

 やっぱり、俺の妹はマジで天使だわ。

 

 

 

 

 ……。

 さて、ちょっと落ち着いて本題に入ろう。

 咲良もバームクーヘンを食べ終わり、ようやく真面目に俺の話を聞いてくれる。

 

「それで、お兄ちゃん。変な例え話をしてどうしたわけ?」

 

「那奈姉の事を考えていたんだけどさ。俺たちと離れていて、那奈姉も寂しかったのかなって……。那奈姉が婚約者の話題を最初にしただけで、詳しく話したがらないのも、俺がその約束を思い出さないからかなってさ」

 

 俺が思い出さないから、那奈姉も避けているんじゃないか。

 

「ありえる。こっちはすっかりその気なのに、相手は薄情にも約束を忘れてるなんて」

 

 ――グサッ。

 

「頑張って周囲も説得したのに、本人はその気なし?なんて態度を見せられたら……」

 

 ――グサ、グサッ。

 

「さすがの那奈姉もショックでちょっと臆病になっちゃうんじゃないかなぁ?」

 

 俺の心に咲良の言葉のひとつひとつが突き刺さる。

 

「グフッ。全部、俺のせいだと言うのか」

 

「まぁ、その可能性もあるってだけで、お姉ちゃんの思い込みもあると思うよ?」

 

「……俺はどうすればいいんだろう」

 

 那奈姉の気持ちがよく分からないよ。

 俺は彼女が好きなのに……。

 解決策が何かないかと模索していると、何気なく視線を動かした先、咲良のベッド付近である箱を発見する。

 横に描かれた「Am●zon」のロゴが目印の段ボール箱。

 あの箱は俺のコレクション(アレ系のDVDや雑誌)が入った箱ではないか?

 

「さ、咲良、話は変わるが、あの箱はもしや?」

 

「ふみゅ?どの箱?」

 

 俺が指をさそうとしたその時、運命の神様は俺に試練を与える。

 部屋をノックする音が響き渡り、俺の心臓はドキッと高鳴る。

 

「咲良ちゃん、ちょっといいかしら?」

 

「あっ。お姉ちゃんだ。いいよ、入って」

 

 タイミング悪すぎだよ、那奈姉!?

 

「入るわよ、咲良ちゃん。道明を知らないかしら……って、あら、ここにいたのね」

 

 咲良にしろ、那奈姉にしろ、俺のピンチを狙って部屋に入ってくるのがお好きですね。

 

「どうしたんだ、那奈姉?あれ、そう言えば、さっきは咲良の部屋に行くと……」

 

「え?あ、あれは、その……今、来たのよ」

 

 さきほど、下のリビングで話していた時に「咲良の宿題を見てあげる」とか言ってたのは逃げるための口実だってのは分かっていたけども……ここに来るのも予想外だった。

 

「俺を探してたんじゃ?」

 

「それは……こ、細かい事は気にしないのっ。男の子でしょ?」

 

 むに~っと、俺の頬を引っ張る那奈姉。

 焦る那奈姉って……普段よりも可愛さがあるな、ギャップがいい。

 

「痛くないけど、その行動がなんか可愛い……」

 

「お兄ちゃん、気持ち悪い考えが口から出てる」

 

「ハッ、いかん。こほんっ。で、那奈姉。どうしたんだ?」

 

 俺にできるのは今すぐにでもこの場を去る事だ。

 

「その、ね……明日のデートのことなんだけど」

 

「へ、へぇ、そうか。それじゃ、俺の部屋で話をしないか。うん、そうしよう。さぁ、行きましょう、那奈姉」

 

「……ジーっ。行動が怪しすぎるわ。道明、何か隠してない?」

 

「か、隠す!?何を隠すと言うんだ、妹の部屋に?やましいことは何もないよ。あははっ、ワケが分からないなぁ」

 

 う、疑われておりますよ、どうしよう……。

 咲良にフォローを頼もうにも状況を把握できずに不思議そうに見ているだけだ。

 那奈姉は俺をジト目で凝視してくる。

 

「あら、その箱は何かしら。……ねぇ、道明?」

 

 ――後ろの箱を気付かれた!?

 次に怪しい物が見つかると終わり、二度目がない俺に待ち受ける最大の試練。

 俺はこのピンチを乗り越えられるのだろうか。

 ……お願いだから何事もなく、乗り越えさせて神様!?

 

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