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第2章:最初の危機

 どうやら、俺と那奈姉は婚約者らしい。

 婚約者、読んで字のごとく婚約した者同士。

 夢じゃないんだよな?

 いまいち、信じられない現実に戸惑い気味だ。

 

「……あのさぁ、咲良」

 

「ん?なぁに、お兄ちゃん?」

 

 自室に入って、いろいろと荷物の整理をしている那奈姉。

 その間に俺と咲良はリビングで作戦会議をしていた。

 とはいっても、咲良は漫画雑誌をソファーに寝転がり読んでいるだけだ。

 こっちは早急に相談したいことがある。

 

「あっ、私のオレンジジュースをとって」

 

「こぼすなよ。相変わらず、オレンジジュースが好きなのかよ……って、だから、話を聞いてくれ」

 

 俺はペットボトルのジュースを彼女に渡す。

 

「私に相談?しょうがないなぁ、聞いてあげるから話してみなさい」

 

 彼女はジュースを飲みながら適当に相槌を打つ。

 俺は咲良に先ほど起きた出来事を話すことにした。

 

「実は……俺と那奈姉、キスしちゃった」

 

「きす……キスって、えーっ!?」

 

 思わずジュースを噴き出しそうになる妹は両手で口を押さえる。

 さすがに女の子として似合わない絵図なのでよく我慢してくれた。

 

「け、けほっ。な、なんて言ったの!?」

 

「だからキスだってば」

 

「えー!?接吻と書いてキスって読ませるアレ?」

 

「そんな古風な読ませ方は普通はしないが……アレです」

 

 俺もまだ動揺しているのだが、俺と那奈姉はキスをした。

 キスの余韻は、そのあとの怖さで忘れかけたが。

 

「KISSって、チュー?ま、まさか……お姉ちゃんを襲ったの?なんて、ひどい」

 

「違う。そんなわけないだろ」

 

「だよね。お兄ちゃんってばそんな勇気はないもん」

 

「妹にヘタレ扱いされるのは兄としてどうかと思うのだが」

 

 だが、それで俺が襲ったという事はないと理解してもらえた。

 男として悲しいが、それもまた信頼されていると思い込む。

 

「そうじゃなくて。那奈姉からされたんだってば」

 

「ホントに?よかったじゃない、相思相愛?運命が時を超えてやってきた?」

 

「時を超えて、か。それだけじゃなくて。さらに言うとだな」

 

「さらに言うと……?」

 

 俺は未だに自分でも信じられない言葉を咲良に告げる。

 

「どうやら、俺と那奈姉は親公認の婚約者らしい」

 

「はい?婚約者って……マジで?」

 

「俺の記憶にはないのだが、そんな約束をしたそうだ。俺と那奈姉が……こんにゃく……」

 

「婚約でしょ。お兄ちゃん、呆けすぎ」

 

 そりゃ、呆けもするさ。

 現実を受け止めろと言う方が難しい。

 

「親公認ってママ達も認めたの?お兄ちゃんとお姉ちゃんが婚約者ってホント?」

 

「母さんに聞いたら、本当だってさ。俺の高校卒業後をめどに、どうだって話になってるそうだ。なぜだ、なぜにそんな大事なことを本人が知らない。そもそも、これは現実なのか。俺の夢じゃないのか?」

 

「お兄ちゃんが都合のいい夢を見てる、と私も思っちゃうけど」

 

 咲良が不思議がるのは無理もない。

 俺だって夢だとしか思えないのだから。

 

「よし、咲良。俺の頬をひねってみてくれ」

 

「いいの?痛いけど?」

 

「思いっきりやってくれ。これが現実だと信じたいのだ」

 

「分かった。痛くても仕返しちゃダメだからね?」

 

 咲良は俺の頬をひねる……が、元々、力が弱い方なので全然痛くない。

 

「咲良、全然弱いぞ。もっと、強くっ」

 

「え?こんな感じ?ていっ、えいっ」

 

「もっと強くだ、もっと強く!……って俺はどこぞの変態か!?」

 

「自分でさせといて、言わないでよ。妹に何をさせるつもりなの」

 

 俺の頬を引っ張っていた咲良が呆れた顔で嘆く。

 危ない、思わず兄妹でプチSMプレイをするところだったぜ。

 

「こほんっ。どうやら、夢ではないようだ」

 

「……そーですね」

 

 超投げやりな言葉の妹は既に興味を失ったらしい。

 再び、マンガ雑誌を眺め始める彼女。

 

「お兄ちゃんの夢がかなってよかったね。これでお話はお終い、と」

 

 俺と那奈姉は無事に婚約して、幸せにくらしましたとさ。

 めでたし、めでたし―完―。

 

「――って、ここで話が終わったら、これからどうする!?残り何話続けると思ってるんだ!?」

 

「ひっ、び、びっくりするなぁ。いきなり叫ばないでよ。そんなの、私は知らないし。お話って何が?そんなに今後の展開に波乱が欲しければ自分で事件を起こせばいいじゃん。お姉ちゃんの下着を盗むとか」

 

「本当の事件で俺が捕まるわ」

 

 そこまで変態に落ちてません。

 那奈姉の下着に興味がないとは言いませんが……俺も男の子だし。

 

「大体、婚約ってどういうことなの?」

 

「俺も分からないんだが、小さな頃に約束したらしいぞ」

 

「そんなの……私とだってしてるじゃん」

 

「……はい?」

 

 妹は特に気にすることもなく、さらっと爆弾発言。

 

「私もお兄ちゃんのお嫁さんになる、とか小さい頃、よく言ってたよ?」

 

「……そうだったっけ」

 

「まぁ、私達って小さい頃から仲が良かったからね。そのくらい、していてもおかしくないでしょ」

 

 咲良も素直な子なので、今まで喧嘩という喧嘩もしていない。

 兄妹仲も世間の兄妹と比べると、かなり仲がいい方だともいえる。

 

「もちろん、今となっては本気なワケがないんだけどね。私はもっと男の子の理想が高いです」

 

「それを理由に断られるのはアレだが。兄妹だし、咲良は可愛いけど、恋愛対象なわけがない」

 

「俺の可愛い妹が恋愛対象なわけがない。なんか同人誌にありそうなタイトルだね。妹萌えの本を持ってない?」

 

「そうやって、さり気に兄は変態だと言う印象を与えるのはやめなさい」

 

 ちなみに俺のコレクションに妹モノはないとだけ断言しておこう……ホントだよ?

 

「そんな程度の約束を律儀に守ると言う事はお姉ちゃんにとってはよほど大事な約束だったということじゃないの?お兄ちゃんは覚えてないみたいだけど、ホントに覚えてないの?」

 

「覚えてないんだけどなぁ。俺はどこでフラグをたてたのやら」

 

 そもそも、咲良とした約束すら覚えてない。

 幼い頃の俺よ、誰かれかまわず、プロポーズしすぎだ。

 

 

  

 

 俺はいったん、部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。

 ちょうど部屋から那奈姉が出てくる。

 

「道明、ちょっといい?」

 

「……那奈姉?いいけど、何?」

 

「貴方の部屋を見せてくれない?変な本とか、あるのかな?」

 

 にっこりとほほ笑む彼女がどこか怖いのは気のせいではないはず。

 ……何だか最初の危機が俺に訪れていた。

 

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