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第19章:危ない兄妹

【SIDE:望月那奈】


 私には大きすぎる悩みがある。

 

『はっきりと認めるよ。俺はシスコンだ』

 

 シスコン宣言を堂々とした兄、道明。

 

『くすっ、私はブラコンだけど、それが何か?』

 

 同じくブラコン宣言をしちゃう妹、咲良ちゃん。

 ……この危ない兄妹の愛の絆にお姉ちゃん、めげそうです。

 

「よく考えてみると私もお兄ちゃんの事、好きだもん」

 

 私に不敵な微笑みを浮かべてる咲良ちゃん。

 

「咲良……ちゃん?」

 

「ブラコンって、認めてみると、案外すっきりするかも?私、お兄ちゃんっ子だもん」

 

 認めちゃダメだよ、咲良ちゃん!?

 ブラコンなんてシスコンと同等の世間一般では危険な存在。

 これ以上、変な世界に目覚めさせてはいけない。

 咲良ちゃんまでブラコンとかなったら、私はどうすればいいの。

 妹が好きな道明、兄が好きな咲良ちゃん。

 相思相愛、ラブラブ。

 つまりは……私の居場所がなくなっちゃう!?

 

「な、仲のいい兄妹なんてこの世界にはいくらでもいるんだよ?普通じゃないかなぁ?うん、そうだよ。咲良ちゃんはブラコンじゃない。ごく普通のお兄ちゃん想いの妹、ブラコンまではいってないと思うんだけどなぁ?」

 

「でも、お兄ちゃんはシスコンだし。自分で宣言したんだって?」

 

「ち、違うのよ。あれも……あの子の勘違いなのよ。シスコンをなめるな、あの程度がシスコンであるはずがないの」

 

 私にできること、それは何としても2人が思いあってる事実を認めないことだ。

 私もよく分からないけど、互いの好意を認め合う2人は危険な気がする。

 

「道明も勘違いしてるだけなのよ。自分はシスコンだって言い張って。お姉ちゃんとして困ってるの」

 

「……ふーん。それじゃ、お兄ちゃんはシスコンじゃないんだ?」

 

「そうよ。彼もシスコンじゃないわ。姉妹想いなだけよ」

 

 なんで、私は道明のフォローをしてるのかしら。

 でも、ここで否定しておかないと、とんでもないことになる気がするの。

 

「お姉ちゃんは兄妹の仲がいいと何が心配なの?」

 

「え……?それは、ほら、えっと……」

 

「ふふっ。私とお兄ちゃんが恋愛関係になる事が心配なの?」

 

 思わずビクッとしてしまう。

 いつもの咲良ちゃんのはずなのに、今日の彼女はどこか雰囲気が違うもの。

 

「や、やだなぁ。咲良ちゃん。兄妹で恋愛関係なんてありえないわ」

 

 ブラコンだと認められると、私として非常に困る。

 だって、道明は私の婚約者なのよ?

 それなのに……下手なところで兄妹愛ENDのフラグが立つと困るもの。

 ここは何としてもそのフラグをぶち折る、もとい、兄妹愛の関係を健全に戻してあげないとダメだわ。

 

「咲良ちゃんはまだ中学生だものね。お兄ちゃんが好きなのは仕方ないかなぁ。でも、世の中にはいろんな関係があると思うのよ。兄妹愛以外の恋愛に興味を持った方が良いに違いないわ」

 

「そうだよね、いろんな恋愛関係があると思う。大学生にもなって小学生の頃の約束を現実にしようと、親戚一同に様々な工作をして婚約者という関係の外堀を埋めてから本人に通達する。逃げ場のなくなった彼に婚約宣言をしたのに、現実問題として彼に嫌われる事を恐れて告白もできないっていう、お姉さんを私は知ってるよ?」

 

「うぐっ!?え、えっと、誰かなぁ?」

 

 咲良ちゃんの指摘に私は凹みそうになる。

 うぅ、どうして彼女に見抜かれているの?

 道明を婚約者に仕立てあげたのに、本人は自覚がない上に約束も覚えていないから、不安になって告白もできずにいる。

 私ってば、傍目に見ると分かりやすい態度をしてるのかしら。

 そして、それをほんわかとした雰囲気の咲良ちゃんに見抜かれていたなんて。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。例えば、ブラコンの妹とシスコンの兄の兄妹がいたとして」

 

「……?」

 

「きっかけひとつで禁断の関係に進展しちゃうこともあるよね?」

 

 にこっと微笑む笑顔が怖い!?

 咲良ちゃん、いつのまにこんな子に育っちゃっていたんだろう?

 私の知るこの子は笑顔のよく似合う可愛らしい子だったのに。

 

「だ、ダメよ?禁断の関係はダメーっ!」

 

 まさか、本当にふたりはそのような禁断の関係?

 私の知らない数年の間に何があったの~っ!?

 混乱する私をよそに咲良ちゃんはおっとりとした物言いをする。

 

「落ち着いて、那奈お姉ちゃん。例えばの話だよ?」

 

「例えばでもダメ!……だと思う」

 

「えー、少女マンガや恋愛小説じゃよくあるシチュじゃない。禁断だからこそ萌える、じゃなかった、燃えるみたいな?お姉ちゃんだって、そう言うの好きでしょ?」

 

 確かに漫画とではよくあるシチュエーション。

 禁じられてるゆえに、その恋愛は美しい。

 でも、現実では誰にも許されない。

 

「恋愛は障害があった方が燃え上がるんだよ?」

 

「普通の恋愛の方が私はいいわ」

 

「そう?那奈お姉ちゃんだって、従姉弟同士で結婚したいって思ってるんだから、禁断のラブと似たようなものでしょ。よかったね、日本は“従姉弟同士”の恋愛は自由で。どうして、“兄妹”で恋愛の自由はないんだろうね?」

 

 ――この子、危険だ。

 私は初めて咲良ちゃんに危機感を抱いた。

 私の本当の意味でのライバルは咲良ちゃんだって言うの?

 可愛い従妹が恋愛の敵になるなんて思いもしてない。

 咲良ちゃんはジュースを飲みながら、

 

「怖い顔をしないでよ、お姉ちゃんっ。例えばのお話だよ♪」

 

 冗談だって言うならば、冗談だって言う口調でしてほしい。

 2人の間に気まずい雰囲気が流れていた。

 その時、その雰囲気をぶち壊す、男の子の声が響く。

 

「ただいま~っ。おっ、2人で何やって……なんか変な雰囲気なのだが?」

 

「おかえり、お兄ちゃん」

 

 このタイミングで帰ってきてくれたのは道明だった。

 今は道明の登場が本当に嬉しい。

 

「おかえりなさい、道明!」

 

「あ、ただいま?」

 

「道明、貴方はシスコンじゃないわ。そう、シスコンなんかじゃないのよ!」


 呆然とした表情を見せて彼は理解できていない様子を見せる。

 

「いきなり何を言う、那奈姉。こほんっ……俺はシスコンなのだが?」

 

「――違うわっ!」

 

「ひっ!?……え、違うの?シスコンじゃないってことでいいのか?」

 

 道明は理解不能といった感じで?マークを浮かべる。

 

「違うのよ、貴方はシスコンじゃないわ、道明。ただの妹想い&お姉ちゃん想いなだけ。そこを勘違いしてはいけないわ。貴方はまだシスコンなんて危うい存在になるにはまだまだレベルが低いのよ。ただの勘違いだと思い知りなさい!」

 

「えぇ?シスコン扱いから一転、普通扱いは嬉しいのに怒られているのはなぜだ!?」

 

 嘆く道明の横で咲良ちゃんが「お兄ちゃん、頑張れ」と微笑ましく笑っている。

 私は今日、初めて知った事がある。

 それは咲良ちゃんには私が思っている以上の裏の顔があるってこと。

 ……咲良ちゃんの道明を想う心はただのブラコン程度なのかしら?

 それとも、それ以上だったりしたら……咲良ちゃんがライバルってことなの?

 

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