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第1章:姉との約束

 初恋だった女の子。

 俺の初恋相手、従姉、幼馴染……いろんな意味で大切な人。

 優しく俺にほほ笑んでくれたあの笑顔は今も忘れられずにいる。

 那奈姉との再会を心待ちにしていた。

 彼女がどんなふうに成長しているのか、楽しみだった。

 

「那奈……姉ちゃん……」

 

「もしかして、道明君?久しぶりだね」

 

 あの頃と少しだけイメージが違うことにまず驚いた。

 長い黒髪、清楚だった見た目も、ウェーブがかった髪型、いかにも大人の女性という感じになっている。

 スタイル抜群に成長なされて、そこは申し分ないのだが……あの大和撫子はどこに消えました?

 

「私の“モノ”になる準備はちゃんとしていた?」

 

 俺の知る那奈姉はこんな言葉を挑発的な表情で言うような人ではなかった。

 ……ていうか、“モノ”ってなんぞ!?

 

「……」

 

「ん?反応が薄いなぁ。お姉ちゃん的にはマイナスポイント。そこはちゃんと反応してくれなきゃつまらないわ」

 

「あ、あの、那奈姉?」

 

 あ然する俺は反応もできずにいた。

 彼女はこんなキャラだっただろうか。

 那奈姉はそっと唇に自分の人差し指をつけたしぐさを見せて、

 

「それとも、覚悟は既に完了?お姉ちゃんとの約束、覚えてるよね?」

 

 那奈姉の唇に視線がむかい、色っぽさにドキッとする。

 

「約束……?」

 

 俺は姉ちゃんとそんな約束をしただろうか、記憶にはない。

 

「ふたりとも、玄関先で話していないでリビングにきなさいよ」

 

 母さんがそう言うと、「おじゃまします」と姉ちゃんが家の中に入ってく。

 俺はひとり、しばらくの間、固まっていたが、ハッと気づき、リビングに向かう。

 リビングでは咲良が那奈姉に甘えている。

 

「咲良ちゃんは中学2年生?しばらく会わないだけで、ずいぶんと可愛くなっちゃって。学校じゃ人気あるでしょ?」

 

「えへへ。お姉ちゃんこそ、印象変わったね」

 

「そう?そんなに変わってないと思うわ」

 

 いや、思いっきり変わってるし。

 見た目は……成長と共に変わるのは普通かもしれない。

 俺の好みだった清楚系から卒業し、今時のお姉様っぽくなったのは仕方ない。

 だが、性格まで変わる必要はないだろう?

 俺の記憶が正しければ、彼女は俺をモノにするなど言わない人だった。

 

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

「そうよ、せっかくの再会なのに喜んではくれないの?」

 

「そんなことはないよ。そうだ、那奈姉の荷物、部屋に運んでおくから」

 

 俺は廊下に置きっぱなしのキャリーケースを部屋に運ぶことにする。

 

「あっ、道明君!?」

 

 姉ちゃんと顔を合わすのが恥ずかしくて俺は荷物を持って彼女の部屋に歩いていた。

 部屋の扉を開けて、荷物をベッドの近くにおく。

 

「はぁ……」

 

 深呼吸してからため息をつく。

 

「ちょっとギャップがあったからって俺、ビビりすぎ」

 

 俺が勝手に何も変わらないでいると言う幻想を抱いてただけだ。

 那奈姉は清純派路線を貫いていて欲しい、という幻想。

 何も変わらない人などいない。

 それが成長というものだ。

 大人しかった那奈姉があんな風に変わってしまうのは意外だったけど……。

 いつまでも動揺してないで現実を受け止めなければ。

 

「――くすっ、そんなに驚いたの?」

 

 女性の微笑に俺は顔をあげる。

 そこにいたのは那奈姉だった。

 

「“道明”にずっと会いたかったお姉ちゃんに、薄い反応は寂しいわよ?」

 

 俺を呼び捨てにする彼女。

 俺は思わずビクッとしてベッドに座りこむ。

 

「な、那奈姉!?」

 

「そんなに私って変わった?道明の中に残る記憶と違う?」

 

 顔を近づけてこちらにほほ笑む彼女。

 那奈姉は美人だ、近づいた顔に俺はドギマギしてしまう。

 

「別に私は変わってないと思うけどね。ねぇ、道明?」

 

「……あ、いや、その」

 

「さっきからビビりすぎ。私は別に貴方を取って食うわけじゃないわ。その様子だと、私のモノになる準備はしてなかったみたいね。減点よ」

 

 怒るわけでもなく、彼女はそっと差し出した手で俺の頬を撫でる。

 色っぽさを兼ね備えた那奈姉の一つ一つの行動から俺は目が離せない。

 

「道明は何あの頃と同じ、可愛らしい私の弟のままよ」

 

「……那奈姉」

 

「身長、伸びたわね。とても男の子らしく身体も成長してるわ」

 

 頬から腕、そしてお腹から太ももへと手で触る那奈姉。

 それだけでも俺はド緊張しております。

 

「あのさ、那奈姉。その、那奈姉の“モノ”になるって……どういう意味?」

 

「……約束したでしょ、当然、覚えてるわよね?」

 

 覚えておりません、少なくともそんな約束はしてない気が……。

 

「その顔は覚えていなのかしら?」

 

「い、いや、それは……」

 

「覚えてない?」

 

 俺は「ごめん」と謝りながら呟く。

 彼女は少しさびしそうに表情を曇らせる。

 

「……そう。覚えてないんだ?」

 

「な、何の約束だっけ?」

 

「道明との去り際に約束したのに」

 

 俺が彼女と去りぎわに約束したものってなんだっけ?

 

『それじゃ、道明君。約束しようか?』

 

『何年かたって私と会えたら、お姉ちゃんがまた遊んであげる』

 

 そうだ、あの約束は遊んであげるというものじゃなかったか?

 こんな風に所有権をめぐるものではなかったはず?

 

「遊んであげるって約束はした気が……?」

 

「遊んであげる?そんな約束だったかしら?」

 

 あれ、違った……どういうことだ?

 俺の覚えている約束とは違う約束?

 

「私と道明が約束したのはね……」

 

「約束したのは?」

 

 彼女はそれに答える前に、甘く囁くその唇が俺の唇に重ねられていた。

 

「んっ……」

 

 初めて味わう女性の唇。

 今、俺は那奈姉とキスしてる!?

 その柔らかな感触に理性が吹っ飛びそうになる。

 

「ちゃんと道明のためにとっておいた。ファーストキスだから」

 

「ふぁ、ファーストキス?」

 

 那奈姉が?

 恋人のひとりやふたり、絶対にいるに違いないように見えたのに?

 

「もちろん、道明もファーストキスよね?……そうじゃないと言うなら――する、わ」

 

 い、今、とんでもないことを低い声でポツリと言ったような。

 思わず――と伏字にしなきゃヤバい言葉をさ、気のせいですか?

 俺は「もちろんです」と答え、ちょっと怖くてキスの余韻にひたれずにいた。

 

「そう?よかった。大事だもんね、最初のキスは……」

 

 彼女は嬉しそうに微笑む。

 あらゆる意味で、那奈姉には昔の面影がない。

 まさに俺の幻想をぶち殺す、これが噂の幻想殺しか。

 何の話だ、俺……すまん、ちょっと混乱気味だ、落ち着け。

 

「あのさ、那奈姉……それで約束って?」

 

「私たちが約束したのは、将来、結婚しようっていうものよ?」

 

 子供の頃にする、ありきたりな約束No.1「将来、●●ちゃんのお嫁になる」。

 ま、まさかこの俺がそんなフラグを幼い頃に立てていたなんて……。

 

「――って、えええぇええええ!?」

 

 俺は驚き叫びながら戸惑うしかない。

 そもそも、そんな約束をした覚えもないし、そんな約束を律儀に守る子なんていない。

 

「……けっこん……結婚ッ!?マジですか?」

 

「何を驚いてるの?道明から約束してくれたのに。私はその約束を守ってきたのよ?」

 

「……お待ちくださいませ、那奈姉。え?どういうこと?」

 

「だから、結婚するの。私と道明が。心配しないで、お父さんもお母さんも認めてくれているわ。もちろん、叔母様達もね。そのための今回の同居でもあるわけだし」

 

「いわゆる許婚?」

 

 想像もしていなかった展開に俺はベッドから転がり落ちる。

 あの那奈姉と俺が……そんな……これは夢か、夢なのか?

 

「許嫁って古風な言い方をするのね?婚約者、と言った方があっていると思うわ。結婚自体はしらばらく先だけどね。道明が高校を卒業してからだとしても、あと3年待たなきゃいけないのはとても長く感じる。貴方もそう思うでしょ?」

 

 俺が、那奈姉と結婚!?

 ……ぷしゅう、ただいま脳内ヒート中。

 俺は頭が痛くなる思いをしながら状況を理解しようとする。

 

「ふふっ。早くお姉ちゃんの“モノ”になりなさい」

 

 那奈姉に抱擁されるのを黙って受け入れる俺。

 訂正、行動不能で身動きできないだけだ。

 過去の俺よ、お前に問いたい。

 幼き俺は一体、どんなフラグをたてやがっていた!?

 

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