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第17章:妹よ、それ誤解だ

 朝、目が覚めたら、なぜか那奈姉の部屋のベッドの中にいた。

 幸せな温もりと共に訪れたのはピンチ。

 そこから幾多の困難を乗り切り、俺は彼女の部屋から脱出する。

 だが、しかし――。

 

「ふわぁ、あれ?お兄ちゃん、おはよう」

 

 最後の最後で油断してしまった。

 朝帰りをしてきた世間のお父さん方のように、こっそりと扉から覗う程度の緊張感と慎重さを持って、部屋から出なければいけなかったのに。

 まさか、ドアを開けたすぐそこに咲良がいるとは予想外だった。

 

「……って、どうしてお兄ちゃんがお姉ちゃんの部屋から出てくるの?」

 

 うぐっ、これは非常にまずくないか?

 

「な、那奈姉を起こしに来たのさ?」

 

「……ジー」

 

 う、疑われている、疑われてますよ!?

 咲良からジト目で疑惑を抱かれた。

 どうすれば、この危機を回避できるのか。

 俺はとりあえず、那奈姉の部屋の扉を閉める。

 

「お兄ちゃん。ちゃんと答えて?」

 

「え、あ、うん……」

 

「どうして、ここから出てきたの?」

 

「だから、那奈姉を起こそうと思い、えっと、ですね」

 

 咲良から妙な疑いをかけられるのは避けたい。

 くぅ、那奈姉の部屋から出るのに必死で油断した。

 こんな所で咲良と出会うなんて思いもしなくて……ちくしょー。

 

「そんな嘘、私に通じると思う?」

 

「本当なんだ、咲良。お兄ちゃんは嘘なんてついてません」

 

「……どうみても、一晩、そこで過ごしました的な雰囲気なんだけど。髪は寝ぐせ付き、パジャマはよれよれ。どう考えてもおこしに来た感じはしないよね?」

 

 鋭い指摘に黙りこむ俺。

 いや、待ってくれ、誤解だ。

 これは誤解なんだ。

 美味しい状況ではあったが、無実なのである。

 それを何とか理解してもらおう。

 

「誤解だよ、咲良?思っているような事は一切ないから」

 

「私はまだ何も言ってないけど?」

 

「ぎくっ」

 

「那奈お姉ちゃんの部屋で一夜を過ごした。そこから推測される結論はひとつ」

 

 咲良はにっこりと微笑みを浮かべて言った。

 

「……お兄ちゃんは大人の階段を上っちゃったんだね」

 

「のぼってません。誤解だって言ってるし」

 

「誤解なの?同じ部屋で寝てたのは事実なのに?」

 

 なんか咲良さん、怒ってませんか?

 なぜだか、不機嫌なご様子の咲良。

 いつもはミラクル咲良として俺に奇跡を与えてくれている俺の天使。

 それがなぜか、本日はかなりご不満の様子。

 

「むぅ……」

 

「あ、あのさ、咲良?とりあえず、部屋で話をしよう。うん、それがいい」

 

 俺は有無を言わさず、彼女を自室に連れ込む。

 廊下で話すような内容じゃない。

 部屋につくと彼女は俺のベッドを見る。

 

「昨日はここで寝てないでしょ」

 

「いや、寝てたはずなんだが……咲良。聞いてくれ。俺は今から包み隠さず真実を話そう。怪しいと思うかもしれないがすべて本当の事なんだから、聞いてくれよ?」

 

 昨日の夜、トイレの帰りからの記憶がなく、俺は気がつけば、那奈姉の部屋で寝ていた。

 なぜ、そこにいたのかは謎だ。

 真実のすべてを、わずか30秒で話し終えてしまった。

 咲良はひとつため息をついてから呆れた声で言う。

 

「お兄ちゃん。嘘をつくならもっとマシな嘘をつこうよ」

 

「違う。ホントなんだってば」

 

「いつもそうだよね。お兄ちゃんってば、行き当たりばったり、その場を乗り切るためなら平気で嘘をつくもの。今までは妹としてお兄ちゃんのフォローをしてきたのに、こうやって平気で嘘をつかれるのは悲しい」

 

「嘘なんてついてないよ!?咲良、俺は正直に言った」

 

 くっ、咲良の好感度が激低下中。

 どうすればいい、どうすればいいんだ。

 俺にとって咲良は大切な妹。

 ちょっと最近、自分でもシスコン気味だって自覚してるくらいだ。

 その咲良に嫌われたらどうなる?

 俺はどうなってしまうのか。

 ……ダメだ、想像するだけでもショックすぎる。

 

「お兄ちゃん」

 

「は、はい!?」

 

「もう一度だけ、最後のチャンスをあげる。真実を話して。昨夜、那奈お姉ちゃんの部屋で何があったのか。素直に答えたら私も納得するし。……あれでしょ、妹に言いにくいからって嘘つかなくてもいいんだよ?」

 

「もしも、咲良の想像する事だったら普通に言えるか!?」

 

「……むぅ。正直に話してくれたら、お祝いだってしてあげるのに」

 

 しなくていいです。

 咲良に祝われるのは微妙かつ複雑な心境になるわ。

 

「本当に何でもないんだよ。嘘ついてません」

 

「……証拠は?」

 

「ないけど。ほ、ほら、たまに俺が変な場所で寝てる事があるだろう?あれだよ、アレ」

 

「都合のいい時だけ、そんな言い訳が通じると思ってる?お兄ちゃん」

 

 咲良は拗ねた口調で呟くと、そっとふしめがちに、

 

「お兄ちゃん、私はそれなりに仲のいい兄妹だって思ってたの。でも、嘘をついて誤魔化して、ひどくない?私はただ真実が知りたいだけなのに」

 

 拗ねるな、咲良。

 ホントに罪悪感がわいてくるじゃないか。

 

「俺は無実だ、咲良なら分かってくれるはず」


「別にー、私はお兄ちゃんが那奈お姉ちゃんとラブラブでも私には関係ないもん。だからって、かまってくれないのが寂しいから拗ねてるわけじゃないもん」

 

「あのなぁ、那奈姉ともしも、そう言う関係になったとしても、咲良との仲は変わらないと言う事だけは断言しておこう」

 

「……ツーン。恋人ができたら、そっちにのめり込むのは目に見えてるし」

 

 咲良は頬を膨らませるそぶりを見せる。

 結局のところ、咲良は俺がかまってくれなくなると思い拗ねてるという結論でOK?

 カワユイよ、咲良。

 そんなピュアな想いにお兄ちゃんは感動した。

 相も変わらず、俺と咲良は運命的な兄妹の仲のよさってことだ。

 

「私はお兄ちゃんの妹なんだよね」

 

「何を当然のことを。今さら義理の兄妹設定は出てこないぞ」

 

「別に義理の兄妹設定はいらない」

 

 そう断言されるとお兄ちゃんは悲しいよ?

 わずかな可能性くらい残しておこうぜ。

 

「……そうだよね、長い付き合いだもん。冷静に考えればお兄ちゃんは無実かも」

 

「おぅ!?ついに俺を信じてくれるのか」

 

「どう考えても何かありました的な雰囲気で、女の子の寝ている部屋から出てきたのに、無実と言い切れる人間はどれだけいるか。でも、よく考えればお兄ちゃんだもん。あのヘタレなお兄ちゃんが何かできるわけがないよね?」

 

 満面の笑顔でヘタレ発言するのはやめてください。

 その笑顔が可愛いだけに反論する気力を失う。

 

「あー、そーですね」

 

「ふふっ。そうだよ、ふたりは何もなかった。うん、大丈夫」

 

 なぜだか喜んでいる咲良が可愛い。

 俺の天使は常に味方でい続けてもらいたいものだ。

 

「でも、一夜を那奈お姉ちゃんと共にして何もないってのも……可哀想?」

 

「同情するな。やめてくれ、そんな哀れな子をみるような目はやめて!?」

 

「それじゃ、何のためにお姉ちゃんの部屋にいたの?」

 

「……分からん。それはホントに分からんのだ」

 

 それは俺も知りたい。

 咲良のご機嫌がちょっと直ってくれたので一安心。

 ただし、「お兄ちゃんはヘタレだから手を出せるはずがないよね?」という結論で終わるのはどうかと思うんだ。

 お兄ちゃんだって、本気を出せば……出せば……。

 ぐすっ、どうせ、俺はヘタレだよ。

 実際に何もできない自分が容易に想像できて涙が出そうになった。

 

 

 

 

 

 今回の事件の真相。

 その後、那奈姉がリビングで朝食を食べている時に真実を話してくれた。

 

「道明~っ、ひどいじゃない。ついでに起こしてくれてもいいのに」

 

「……はい?」

 

「ほら、昨日は一緒に寝てたじゃない。道明、今日は私の部屋で起きたでしょ?」

 

「ナンデスト!?」

 

 なんと那奈姉は俺と一緒に寝ていたのを知っていた。

 俺が必死に逃げだそうとしたのに、それは無意味だったのだ。

 なぜならば……今回の事件の真犯人は……。

 

「昨日の夜、眠そうにうろついてた道明を廊下で見つけて、お部屋にお持ち帰りしたの。『一緒に寝る?』って聞いたら『寝る~』って言ったの。寝ぼけてる時の道明は素直で可愛かったし、久々に道明と一緒に寝れてお姉ちゃん的には嬉しかったなぁ。あれ?どうしたの、道明、咲良ちゃん?2人とも変な顔をして?」

 

 事件の真犯人は那奈姉でした。

 逃げ出す必要なかったじゃん、あの抱擁を満喫していればよかったのだ。

 くっ、あの膨らみの感触を体験できるチャンスだったのに!?

 寝ぼけた俺を那奈姉にお持ち帰りされただけ、それが今回の真相だった。

 

「あ、あのね……お兄ちゃん」

 

「なんだ、妹よ。誤解が解けてお兄ちゃんは嬉しいぞ」

 

「あはは……疑ってごめんね?」

 

 ちろっと舌を出して謝る咲良。

 なんかすっごく可愛いから許す。

 それはさておき、だ。

 これからは夜の廊下には那奈姉にお持ち帰りされないように気をつけよう。

 咲良に嫌われるような事は避けたいし、那奈姉の温もりは精神的に危険なのです。

 

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