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第14章:シスコン宣言

 那奈姉が我が家に来てから1週間、これが俺に訪れた4度目のピンチ。

 1度目は婚約者騒動、2度目はパンドラの箱騒動、3度目は前回の映画デート騒動。

 そして、4回目、この窮地、乗り越えることはできるか。

 ……正直、これまでの事と違って、かなり難しそうだ。

 なぜならば、目に見えて那奈姉が怒ってると分かる。

 それもマジ怒り、これは嫉妬。

 多分、俺の勘違いじゃなければ。

 女の子を怒らせると怖い。

 咲良にちょっかい出してたのを完全に誤解されている。

 そう、彼女の中で俺の評価はシスコン扱いだ。

 妹魂と書いてシスコンと読む、あのシスコン。

 俺がシスコンかどうかと言われたら、シスコンだと思う。

 うむ、咲良は可愛いからな。

 それは否定しないが、それを他人の前で肯定するのは恥ずかしい。

 可愛い妹を大事に思うのはいいが、シスコン扱いは勘弁だ。

 

「道明、言い訳は考え付いた?まだシンキングタイムは必要かしら?」

 

 那奈姉が不敵な笑みを浮かべている。

 どこぞのラスボス風でめっちゃ迫力あります。

 頑張れ、俺。

 この選択肢、間違えたら即BADENDだぜ。

 人生にリセットボタンはないぞ、慎重かつ正解を選ぶんだ。

 俺は思考しながら、起死回生の策を考える。

 何も思いつかない……無理っす。

 いや、諦めちゃダメだ、何かあるはずだ。

 那奈姉はやがて俺に無慈悲にもこう言った。

 

「時間切れよ、道明。さぁ、聞かせてもらいましょうか」

 

「え、えっと……」

 

 時間切れって時間制限あったのか!?

 考えている時間はなくなった、どうすればいいんだよ。

 咲良を起こしてはいけないと、俺はゆっくりと立つ。

 

「道明、そこに正座しなさい」

 

「はい、分かりました」

 

 有無を言わせない那奈姉の言葉に従い、俺は床に正座させられた。

 こ、怖いよ、那奈姉。

 俺はかなり動揺しながらも、とりあえず話をしてみる事にする。

 

「あ、あのですね。那奈姉、言い訳も何もないよ?俺は何もしていないんだから」

 

「……何も、していない?」

 

「ほら、咲良もぐっすり寝ているし、ちょっと触っただけ。それだけなんだ。やましいと思う事はなにひとつしておりません」

 

 こうなったら正論を貫き通すしかない。

 俺の無実をひたすら彼女にアピールすればきっと乗り切れる。

 

「今にも飛びかかりそうな野獣の目をしていたわ。鬼畜、兄と言う野獣が妹に襲いかかる寸前に見えたのも?」

 

「違うって!?ホントに何もしてないっ」

 

「……咲良ちゃん、可愛いものね。これだけ無防備な姿を見せられたら、男の子なら誰だって襲いたくなるもの。道明だって、犯罪者になってしまうわ」

 

「待って!?俺、犯罪者扱い決定!?」

 

 俺を上から睨みつける彼女の視線に俺はびびる。

 やばい、那奈姉が俺の予想以上に怒ってる。

 

「あのさ、那奈姉。ひとつ聞くんだけどいい?」

 

「何かしら?」

 

「どうして、那奈姉が怒ってるの?」

 

「どうして?教えてあげましょうか?私が怒ってるのはね、道明」

 

 そっと彼女は俺の肩を手で掴む。

 い、痛い、痛いです、マジで痛いよ!?

 

「私以外の女の子にちょっかいだしてる道明をみたくないからよ。そして、その相手が妹の咲良ちゃんなんて冗談でしょう?」

 

「な、那奈姉、痛い、マジで痛いですけど!?」

 

 さりげなく選んだ選択肢は地雷でした。

 

「私の心の痛みはそんなものじゃないわ。とてもショックよ、えぇ、本当に……。道明が世に言う『シスコン』という種類の人間だったなんて」

 

 うわぁ、シスコン扱いされたぁ……俺もマジ凹みしそう。

 好きな子にシスコン扱いされた男の気持ちが貴方に分かりますか?

 

「咲良とはそういう関係ではなくて、ちゃんと俺の話も聞いてよ」

 

「分かってるわよ。私も約束したもの。どんな罪も一度は許すって……」

 

 那奈姉は深いため息をついて言う。

 愁いを帯びた瞳、何だかその仕草は色っぽくていいのだが。

 それを眺めている状況ではない。

 

「何で、こんな約束したのかなぁ。許したくないわ、今回の事だけは。ホントに不愉快だもの」

 

 失望に満ちた表情で愚痴る彼女。

 

「私の婚約者はシスコンです」

 

「やめて!?変なタイトルをつけないで!?」

 

「……はぁ。私は道明にとって、咲良ちゃん以下の存在なのね。6年の月日が離れていたんだもの。好感度順位が変わっていても不思議じゃないわ。道明の心変わりに私は悲しい。お姉ちゃん、とても悲しいわよ」

 

 那奈姉の好感度もだだ下がり。

 彼女の中で俺の株価暴落……BADEND寸前。

 

「運がよかったわねぇ。道明、これが一度目で。浮気だって、何だって、一度は許してあげる優しいお姉ちゃんだもの」

 

「……も、もしも、一度目じゃなかったら?」

 

「くすっ。そんなこと、私に言わせないで――」

 

 微笑する彼女から殺気を感じたのは気のせいじゃない。

 目が笑ってませんよ、那奈姉?

 俺は猫に睨まれた子ウサギのごとく、震えるしかない。

 

「う、ぁっ……」

 

 愕然とする俺は正座しながら何もできずにいた。

 諦めてここは彼女の非難を受け入れるしかないのか。

 些細なことだった。

 ちょっと魔がさしただけなのだ。

 咲良が可愛すぎて、頬を指でつついてしまった。

 思わず咲良相手に狼さんになりそうな気持ちになってしまった。

 まさか、それを彼女に見られるなんて思わなかったんだよ。

 

「さぁて、道明。私も、許すとは言ったけど、とても不愉快なのよ。道明と咲良ちゃんといちゃラブする姿を見せつけられた、この不愉快さは誰にぶつけたらいいと思う?」

 

「そ、それは……俺?」

 

「せ・い・か・い♪正解よ、道明。偉いわねぇ、ちゃんと分かってるじゃない」

 

 俺のピンチ過ぎる、冷や汗で背中がびっしょりだ。

 これほどの大事になると誰が想像したことか。

 那奈姉に嫌われたら告白どころじゃなくなる。

 

「も、もうダメだぁ……」

 

 俺は声にならない声で呟いた。

 だが、しかし――。

 ピンチ、困難、失敗、苦境……。

 人は追い込まれてからこそ、とんでもない発想を思いつく事がある。

 逆境こそ最大のチャンス、そんな言葉があるように。

 

 ――閃いた、この危機を乗り越えるための策。

 

 崖っぷちに立たされて閃くこともある。

 逆境の現状、那奈姉の機嫌を直してもらうのは難しい。

 簡単にできるわけがない、この場を乗り切る方法。

 逆転の発想、通常ならばありえないことをすれば別だ。

 この状況だからこそ、この流れを利用できる。

 俺は一呼吸してから、ゆっくりと立ち上がる。

 真正面から那奈姉に向き合う。

 

「……そうだね、俺が悪いかもしれないね」

 

「あら、認めるの?」

 

「うん。認めるよ、今回の事は俺が悪い。俺が悪いと思うよ、那奈姉の言う通りだ」

 

 頭をさげて謝る俺。

 

「そう。認めるの。人間、素直になるのはいいことよ。でも、素直に謝ったくらいじゃ許さない。それも分かるわよね?」

 

 素直に認める俺に那奈姉は微笑のまま、そっと俺の頬を手で触れる。

 その行為に背中がゾクッとする。

 

「道明、人間は時に悪い事をする。でも、それを謝罪だけで許してもらえるなんて甘く考えてない?世の中はそんなに甘いわけがない。それを教えてあげるわ。床に座りなさい、誰が立っていいって言ったの?」

 

 くっ、ホラー映画並に那奈姉が怖すぎる。

 でも、彼女の心情としてはそれだけ傷ついているのだろう。

 彼女の怒り、それもすべて、俺のせいだ。

 だから、この場を収めるには、閃いた策を使うしかない。

 

「ううん。座らないよ。だって俺は自分が悪い事をしたと思っていないから」

 

 那奈姉の表情が強張り、押さえこんでいた怒りが表情に表れる。

 怒りの導火線に火がついた、爆発寸前の大ピンチのはずだが、俺は落ち着いていた。

 

「開き直るの?へぇ、道明……。お姉ちゃん、一度目は許すって言ったけど、こう言うのはよくないと思うんだけどなぁ?」

 

「開き直りか。そうかもしれない。那奈姉、俺は認めるよ」

 

 その場で俺はとんでもない宣言をする。

 

「――俺は咲良が好きなんだ。大事な女の子だって思っている」

 

 俺の告白に那奈姉が驚いた顔を見せた。

 

「はっきりと認めるよ、那奈姉。咲良が好きだ、俺は“シスコン”だよ――」

 

 まさかのシスコン宣言。

 それが俺の起死回生の道を切り開く――のか?

 

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