第11章:好きだよっ
【SIDE:望月那奈】
なぜか変な本を発見した私は道明に注意をされていた。
悪いのは私なの?
ホントなら、私が怒っていいはずなのに……先ほどの件があるから怒るに怒れない。
「那奈姉?」
「……道明はずるいわ」
「え?あ、でも、これは……」
「私、ホントは知ってるんだからね?道明が他に本を隠したりしてること」
彼はバレていないと思ってるかもしれないけども、そんなことはない。
道明の態度を見れば明らかだし、それが男の子だと言う事も分かってる。
「そ、そんなことはないさ」
「嘘つき。道明がどこかに隠してるのは分かってるの。探す気はないけども」
私が嫌なのは私以外の誰かに興味を持つこと。
道明には私だけを見ていて欲しいだけ。
「な、何を証拠にそんなことを?」
「道明の態度が怪しすぎるわ。それに男の子の部屋ってそんな本があふれているものでしょう?私が来たからどこかに隠したのが分かりやす過ぎる。咲良ちゃんに聞いてみてもいいのよ?」
「はははっ、何を言う。咲良が知ってるはずがないじゃないか」
私から視線をそらして苦笑いをする彼。
どこからみても怪しい。
道明は嘘が苦手というか、分かりやすい。
「……」
「……」
お互いに沈黙。
やがて、道明はその沈黙を破るように、
「明日のデート、楽しめればいいね」
「……そうね」
ぎこちない雰囲気のまま、私達はその場を別れる。
攻めきれなかった事は残念だわ。
……それで、結局、あの疑惑の本たちの持ち主は誰なの?
翌日、私は鏡を眺めながらメイクをしていた。
今日は道明とのデート。
昨日の夜から楽しみにしていたの。
「道明はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
デートプランは彼任せ。
咲良ちゃん情報では道明にこれまで恋人がいたことがないから私とのデートが初デートということになるはず。
「私も初デートなのよね」
高校時代、男の子から誘われた事はあったけども。
道明一筋だった私はその約束をすべて断っていた。
「……もしも、道明に恋人ができていたらどうしてたんだろう?」
ふと、自分の一途さがちょっと怖くなったり。
私が勝手に思ってるだけだったら悲しいもの。
「彼は私のモノ。それは変えるつもりもない。今は目の前のデートを楽しまなくちゃ」
そこだけは自信をもっておかないと。
自分の気持ちだけは大事にしておきたいの。
「那奈姉、準備はできた?」
ドアの向こうから道明の声がする。
「もう少しよ。すぐに行くわ」
「そう。リビングの方で待ってるから」
道明に私は「分かったわ」と答えると身支度を急ぐ。
私が小さな頃は彼と出かけるときには私が待つ方だったのに。
いつのまにか、私の方が彼を待たせる側になっている。
「男の子はすぐに準備ができるからずるい」
なんて事を思いながら、私は小さく笑った。
繁華街の方に出ると、彼は「映画でも見る?」と私を誘う。
「映画?今は何か面白いのあったかしら?」
「俺的にはいくつか興味があるのがあるんだけど?」
「言っておくけども、ホラー映画は嫌よ?」
私はあの手のジャンルは超がつくほど苦手だったりする。
昔から嫌いなのよね。
大体、幽霊なんていないのに過剰なほどの演出をするから嫌いよ。
「……それじゃ、このホラー映画で」
「人の話を聞きなさい~っ!」
「えー。いいじゃん、面白そうだし(那奈姉の反応が)」
私は軽く道明の頬を引っ張って抗議する。
「人の嫌がることをするなんて悪い子に育ってない?」
「じょ、冗談です。冗談だから!?」
「……まったく、道明は悪い冗談が多すぎるのよ」
「怖がる那奈姉も見たかったんだよ」
彼は無難に面白いと話題の映画を選んだ。
彼がチケットを買ってる間に私は飲み物を買ってくる。
「那奈姉、もうすぐ上映だって。早く入ろう」
彼が手を引いて、映画館の中へと歩いていく。
「……道明は大きくなったわよね」
「まだまだ、これからだよ。俺は高校に入ってから伸びる予定なんだ。中学の時は思ったよりも伸びなくてさぁ」
彼もまだ高校生、これから大きくなるんだろうな。
私なんてすぐに追い越してしまうに違いない。
「映画館で映画を見るのは久しぶりかなぁ」
「そうなの?道明はDVD派なんだ?」
「そうそう。家のテレビで見ることが多いよ。咲良と一緒にね」
「咲良ちゃんと道明って仲がいい兄妹よね」
よく一緒にいるところも見るし、普通の兄妹よりも仲がいい。
咲良ちゃんも、道明にとても懐いている。
「咲良がすごく素直な子だからだよ」
「……それだけかしら?」
この二人の中の良さはそれだけじゃないような気がするわ。
私達は自分達の席に座ると、映画が始まるのを待つ。
「映画が終わったら、何か食べに行こうよ」
「今日は道明に任せるわ」
「それが逆にプレッシャーなんですけど。頑張るよ」
道明はそう言うとそっと私に手を重ねてきた。
「これってデートっぽい?」
「50点かなぁ。ありきたりすぎて、新鮮さがないわ」
「え?そうなの?初心者には厳しいです」
でも、この手は離してあげない。
私は彼の手を握り合いながら、スクリーンを眺める。
そして、映画が始まったの。
私達のデートはまだまだ続く。