母校でのオペラ鑑賞
同級生たちと、母校の下級生たちが演じる
オペラ鑑賞に行かんと、並んだバス
一体何台いるんだ? わが同級生は何人いた?
しかし、学友の顔は見あたらない
懐かしき母校は古びた懐かしさと
新築された近未来的な佇まい
どういうわけだ! 観劇は廊下に座り
演者の姿を見ることは許されなかった
司会進行の声は明らかに小学生だ
ところがどうだ、歌声は立派な大人だ
ソプラノ、テノール、アルト、バリトンが
勇壮な歌声を響かせる
それは見事なオペラティックさだ
起立して聴けとの厳命あり
だが、早朝の新聞配達とかけもちの仕事
その疲れからくる倦怠感のせいで
ひとり最後まで体育座りをして聴いていた僕
そして誰もいなくなった侘びしげな廊下
夢現のなかで指導とも説明ともつかぬ声
誰だあなたは! 知らない人は
ショートカットのふっくら丸顔の女性
威圧感はない、ただ真剣な気配を纏っている
「あなたが頑張りすぎるので、他の生徒に迷惑なのです
でも、逆にいえばその頑張りは見本として
『あなたもあの人のように頑張れるんだ』という
励ましとなることもある」
意味がわからない! 貶されてるのか褒められてるのか
まるで納得できない宗教の教義のようじゃないか
そこで夢のなかの夢はほどけた(らしい……)
演じた子どもたちが校舎と体育館をつなぐ
通路を、そうだあの懐かしき
くすんだ青色をした、角が丸くない
波打ったプレハブ屋根の下
あの通路を凱旋行進するという
全員が体操着姿で、足並みは微塵もずれていない
同じ背丈に同じ顔、まるで機械のような無表情
最後におくれ気味だった女の子だけが
あたりまえに人間の子どもであり
照れくさそうに遅れがちな自分を笑っていた
いいや、あの子は足並みを揃える気はなかったのだろう
僕は思わず、禁止されていた拍手を贈った
赤い色のまあるい体育帽がやけに色褪せていた
あの子は何年生なんだろう?
意識ははっきりしたまま
すべては明瞭のまま、帰りのバスへ向かう
違うこっちではない、反対だ!
これもまた近未来の駅の構内で回れ右して
走る、走る、ひたすら走る、息は切れない
埃ひとつない銀世界
金属でできた構内は天井と床の区別がない
バスに遅れまいと、地下鉄の通る側溝に降り横切る
ああ、懐かしき恩師、あの大好きだった先生の怒声に
背中をうたれる尊極の喜び! いかにいわんとするか!
ヘアーラインの入ったステンレスの床は
レールの下に敷かれたコンクリートの枕木を隠し
黄と黒の虎縞や、緑色の警告ラインや文字
「先生ごめんなさい、でも最高でしたよ、ありがとう!」
やたらに広い通路を左に曲がって、階段を駆け下りる
右手にふたつの人影、手にしているのは
「粛清に! 喋るな!」というプラカード
上下とも地味な背広にネクタイ姿が異様だ
二人はエスカレーターでゆっくり降りながら
階段を疾駆するぼくを見上げてニヤついている
嫌な笑いではない、場違いな笑いだ
ようやく着いたバス停
でも、あんなに連ねてきたはずのバスは
たったの1台しか見えない
僕はバスを待ちながら
いつのまにか夢から目醒めた




