三話 孤独な子供(1)
「今日からお友達になる安倍茜ちゃんです。みんな仲良くしてね」
――やった!! きっとこれは白龍の導きだ!
待ち望んでいた展開に、心の中で大きなガッツポーズをする。
僕が近所の江島神社で友達が欲しいと心から祈った日に出会った女の子――茜ちゃんが、僕の通う幼稚園に転園してきたことに、僕は運命を感じずにはいられない。
しかし、最後に会った土曜日と髪型が違う。土曜日は淑華お姉ちゃんと同じ二つ結びだったのに、今はこけしみたいなおかっぱだ。
疑問に思いつつも、前に立つ茜ちゃんに手を振る。僕に気がついて、茜ちゃんも手を小さく振り返してくれた。新しいお友達に興味津々の同級生を掻き分けて、茜ちゃんの元に行く。
「同じ幼稚園だったね!」
僕が茜ちゃんに話しかけると、皆が厄介者が来た時ばかりに散らばっていく。茜ちゃんはそれに気が付かないまま、僕に控えめだけど可愛い笑顔を見せてくれた。
「うん、さとるくんがいてくれてよかった! ちょっとこころぼそかったから」
「髪切ったの? 可愛いね!」
僕が褒めると、茜ちゃんは眉尻を下げながら、少し微笑んだ。
「おばーちゃんにキレっていわれて、きのうきったの」
「え?! おばあちゃんに言われて?!」
――なんて老婆だ!
罵倒は心の中に納めつつ、別の話題を振ることにする。声量はできるだけ抑えて、茜ちゃんの耳元で言う。
「お家のおばけどうなった?」
「なにもなってないよ」
「じゃあ、そもそも悪いおばけじゃなかったのかな? お札は悪い霊に効くって言ってたもんね?」
「そうだったのかも」
「あんしんした」と、少し明るく茜ちゃんが笑ってくれたので、僕も安心する。
「あ、めんさかーいんが女のコとしゃべってるー!」
「めずらしー、いっつもスカして一人であそんでんのにな」
「てんさいだもん、しょーがねーよ」
同級生男子三名が、これみよがしに大声で喋る。
「めんさかーいんってなに?」
「頭が良い人の集まり」
「そうなんだ……さとるくん、すごくあたまいいんだね!」
直球で褒められてしまい、思わず顔が熱くなる。
「会員になっても、僕には特に良いことなかったから、別に関係ないよ」
「そうなの?」と小首を傾げる茜ちゃん。あまり楽しくない話題なので、話題を変えるついでに遊びに誘おうと思ったけど、大変なことに気がつく。
――いつも独りで遊んでたから、二人だと何をして遊べばいいか分からないぞ?
一人で焦っていると、天の助けか、遊戯の時間になった。
幼稚園からの帰り道。幸いにも家が近所でもあったので、茜ちゃんと茜ちゃんのお母さんと一緒に帰ることにする。
「悟くんはお母さんが迎えに来ないの?」
「お母さんには一人でかえるってつたえてるので、ダイジョウブです」
「そ……そうなの?」
この辺は僕のことを知っている大人ばかりだから、心配そうに僕を見つめてくれる大人は、なんだか新鮮だ。
「お家かえったあとに、あかねちゃんといっしょにあそびに行っていいですか?」
「あかねと遊んでくれるの? ありがとう」
茜ちゃんのお母さんの顔を綻ばせる反応に、僕の印象が今のところ悪くないのだと安心する。
「いいの? やったー!」
「どこに遊びに行くか決めてる?」
「えじま神社です!」
「土曜日に茜がお世話になった所ね。分かったわ。私も挨拶に行きたいから、行く時は茜と一緒に行かせてね」
「わかりました!」
「茜より、凄いしっかりしてて凄いわねー」
「ありがとうございます、よく言われます!」
「まぁ!」
クスクスと笑う茜ちゃんのお母さん。
「茜と仲良くしてあげてね。茜も仲良くするのよ?」
「うん!」
茜ちゃんは満面の笑みで、お母さんと繋いだ手をブンブン振った。
自宅まであと少しという所で、急に茜ちゃんが立ち止まる。
――何かいた。
瞬時に悟った。
「どうしたの、茜?」
「ううん、なんでもない」
そう言って母親を見上げる茜ちゃんの顔は、酷く青ざめていた。見上げると、彼女のお母さんの顔は、能面のように表情が無くなっていた。
僕は心の中で悲鳴をあげる。
「まさか、また、何か視えたなんて、言うんじゃないでしょうね?」
発せられた言葉は、漆黒より暗い色をしていた。言葉は色を持つのだと、初めて思った。
茜ちゃんは震え上がり、首を激しく横に振った。
「ちがう! ちがうよ! なにもみえてない! きのせいだった! ね?」
「――そう? 気のせいならいいわ」
お母さんに、母親らしい優しい笑みが戻る。
僕はその様子を見て、茜ちゃんも本当に孤独なのだと理解した。




