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二話 彼の選択(13)

*** 淑華視点 ***


――動画、かなりあるじゃん!


動画のアップロードユーザーは、他にもクラゲクッキング動画を十本ほど上げていた。

どれも再生回数がすごいが、すべて守山家が出演していて、苦笑いが止まらない。


動画のコメントを翻訳してみると、大方が『日本はイカれてるぜ!』という内容だった。


仕事を終えてから、すぐさま茜にメッセージを送信する。動画のリンクも添えておいた。


淑華:あんた、何してんの?!

茜:もう日本にまで拡散したの?

淑華:最初の返信そこ?!

茜:いやー、いずれはお姉ちゃんも動画見ると思ったけど、こんなに早いとは……

淑華:殺人クラゲ食べるなんて、イカれてるよ!

茜:結構アレンジも効いて美味しいよ!

淑華:人食べたやつじゃん?

茜:大丈夫、人食べた残骸はほとんど残ってないから……


茜のメッセージに思わず頭を掻く。なんというか、基準が違う……!


淑華:気持ち悪いじゃん?

茜:食べ物無くなったらそうも言ってられないじゃん?

茜:まだ一応食料はあるけど、なくなる可能性がないわけじゃないし

淑華:まぁ、それはそうだけど……

淑華:私は絶対食べないから!

茜:ww

茜:そこは、まぁ、個人の自由で!

茜:そっちはまだ大丈夫?

淑華:まだ大丈夫! 茜のところは?

茜:こっちも大丈夫!


――まあ、クラゲ食べてる動画を上げてるくらいだもんね……。


苦笑いしつつ、安心感からため息が漏れた。


「あ、ただいま」

「お帰り、お母さん」


続々と家族が昼食を携えて帰ってきたので、皆で食べた。幸成にクラゲクッキング動画を見せたら吹き出し、両親に見せたら笑っていた。康生は少し引いていたので、私寄りだった。


翌日、とうとうクラゲが大阪の侵攻を始めた。

名古屋の次は、おそらく東京で、私たちの危険域は名古屋侵攻後から東京侵攻のタイミングだ。


自衛隊もあらゆる攻撃を行っているが、攻略には失敗している。ロボット兵などの機械技術のおかげで、自衛隊隊員の死亡数は低いが、侵攻を止められず民間人が死んでいるのは致命的に思える。


――自衛隊、頑張って……。


そうやって、ふとした瞬間に祈る癖がついてきた。


福岡も大阪も約八割の人がクラゲに捕食されていると報道されている。

そのすべてが魂まで捕食されていると思うとぞっとした。


名古屋の侵攻が始まるだろう朝、ラジオ体操の時に揉め事は起きた。

始まりは地下駐車場の出口に近い区画からで、一世帯を経由する度に人が増えていく。

奥にいた私達の所に来る頃には、かなりの人数になっていた。


こちらにきた大人の表情は皆青ざめていて、緊張していた。髪を前髪ごと後ろでひとつに縛った神経質そうな女性が声を掛けてきた。


「ここの管理者に、街の人も入れるだけここのシェルターに避難できるように説得に行きませんか?」

「あ――……」


思わず返答に困った。

そして返答に困った自分に気が付いて、恥ずかしくなった。


「クラゲの東京侵攻が落ち着くまでで、良いと思うんです。そしたら、かなりの人が助かると思うんです」

「……」


たぶん、そうだろうと思う。

でも、私達はここの研究所の善意で匿って貰っている身がほとんどだ。


――人数が絞られているのも、理由があるんじゃないの……?


「お母さん、助けれるんなら助けた方がいいんじゃないの?」

「それはそうなんだけど……」


私が悩んでいる間に、この集団のリーダーらしき女性が私を睨んだ。


「貴方は自分達さえ助かればいいということですね。分かりました!」

「あ――……」


私が反論する暇もなく、彼女達は去っていった。

康生が声を荒らげながら私に言う。


「なんで賛成しないの? お母さん、そんな自分勝手だったんだ」

「違うぞ、康生。俺たちはあくまでここに居候させてもらってる身の上なんだ。ここの善意でここに避難できてる」

「でも働いてんじゃん」

「ここで匿って貰うために、働いてるだけだな。働いてるからと言って、我が儘言っていいわけじゃない」

「でも、もっと助けれるんじゃないの? ここはこんなに広いから」


幸成の落ち着いた声に康生の声もどんどんトーンダウンしていく。康生の気持ちは痛いほどよく分かった。


「まぁ短期的にはそうだな。でも長期的に見るとキャパオーバーだ。食料の備蓄もあるにはあるが、限界がある。匿ってるのに飢え死にさせたら元も子もないだろ?」

「でも……」

「提案すること自体はたぶん問題ない。けど、どうするかは、ここの施設の管理者が決めることだ。そこは間違っちゃだめだ――あの人達はたぶん、それを分かっていない」


両親も私も幸成の言葉に頷き、康生はしょんぼりと肩を落とした。幸成はその肩を叩く。


「助けたい気持ちは間違いじゃない。けど、助けられるかは別問題なんだ……」

「洸希達、死んで欲しくない……」


学校の友達を思い出して明は顔を顰めた。今にも泣き出しそうな顔の康生を幸成は抱き締める。


「そうだよな……皆、死んで欲しくないよな」


「うん」と頷くと康生は静かに泣いた。

私も友人達や幸成の両親のことを思い出す。

そう、全員連れては来れなかった。

でも、皆死んで欲しくない。助けたい。けど、私達にはその手立てがない。今は誰かの善意に縋るしかないんだ。


奥の管理部へ向かう方を見ると、50人程の人が集まって通路へ入っていくのが見えた。


私達家族は、ただそれを黙って見つめていた。

施設側の答えは何となく予測できた。でも、彼女達はそれでも進むのだろう。

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