表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙する存在  作者: 小島もりたか
3章 侵略
63/67

二話 彼の選択(11)

*** 淑華視点 ***


シェルター内では色々な規則があって、一度ではとても覚えきれなかったが、渋い顔をしている私に説明をしてくれた由香里さんがニコリと笑った。想定の範囲内らしい。


「困ったら、お渡しした紙の資料を読んで確認してもらえればいいだけなので、暗記しなくても大丈夫です。基本、注意してほしい所には貼り紙もしてあるので、貼り紙を基準にしてもいいかもしれません」


「あと、こちらのQRコードから資料のデータを確認できますよ」と追加で説明してくれる。


「なにここ、めちゃくちゃ親切ですね」

「職員関係者前提ですからね。皆さんの人柄もある程度担保されているという前提です。ただ、同じ注意を複数回した場合など、著しくマナーが悪い場合は容赦なくシェルターからご退出していただく必要があるのでご注意ください」


――つまり、茜や悟の顔に泥を塗るなよ? ってことね。お父さんとお母さんは大丈夫として、明には注意しておかないと……幸成は締めるけど。


ぐっと小さく拳に力を入れる。


シェルターは予想以上に広かった。約千人収容できる規模らしい。

しかしその分突貫工事で、約一ヶ月で造ったらしい。

「機械技術と人工知能をフル活用したんです。採掘ロボを24時間稼働させたりとか」と由香里さんは笑っていた。費用面は職員の命とメンタルには変えられないと、費用度外視で建設着手したらしいが、ここの機械的生命体を契約した海外の富豪が半分以上費用を出してくれたらしい――施設長、豪胆だし、富豪は気前が良すぎる。控えめに言ってヤバい。


シェルターでの初めての夜は、移動による緊張と疲れが溜まっていたのか、皆すぐに寝落ちていた。

シェルターで配布された敷布団セットも寝心地が良かった――ありがとう、富豪……。


朝は毎日8時にラジオ体操の時間だ。地下駐車場で皆が仕切り板の中から出てきてノロノロとラジオ体操をするのは、なかなかシュールで面白かった。


「こんなとこでもラジオ体操……」


中学の体育でラジオ体操を覚えさせられる康生はすごく不服そうだが、ちゃんとやるのはやっている。可愛いやつよ。


ラジオ体操が終わると、朝食の支給時間だ。支給と言っても、一応購入する体裁だ。朝食は一食200円。白米と根菜類がたくさん入った味噌汁だ。熱くて塩っぱい味噌汁が身体に染みて、ぷはぁとため息が漏れる。


朝の支度を終えたら、家族全員で部屋を出た。このシェルター内での義務を果たすためだ。


医療補助 時給1,500円

ゴミ処理 時給1,300円

講師 時給1,500円

清掃 時給1,000円

販売員 時給900円

調理 時給1,300円

警備 時給1,200円

保育 時給900円

……


「えー、どれにしよう?」

「俺はゴミ処理しようかな」

「決めるの早っ!」

「すごいねぇ、タウンワークみたいだわ」

「僕は清掃でもしようかな」


大量に掲示された求人票からさっさと決めてしまう男性陣に、私は呆れてしまう。


「そんなさっさと決めたやつでいいの?」

「こういうのはフィーリングでいった方が楽だし。長くても三ヶ月でしょ? しかも嫌なら変えられる」

「まぁ、そうだけど……」


――どれにしようかなぁ……。


私が悩んでいる間にも、母は「保育かな」とさっさと決めてしまう。


ちなみに仕事――といってもアルバイトか――は時給制で、時給は地上とあまり変わらない。

作業が楽そうで人気が多そうなものほど安く、大変そうで人気がなさそうなものほど、時給は高い。


――えぇい! ままよ!


「私は、調理でいく!」

「時給高いけど忙しそうだよ、大丈夫?」

「忙しい方が時間過ぎるの早いでしょ?」

「まぁそうだけど、大丈夫?」

「大丈夫! ダメなら転職する!」


私が宣言すると、幸成が笑って「確かに」と呟いた。


「いいなー。俺もやろうかなー」

「明も空き時間に職業体験してもいいんじゃない? 中学生以上OKなやつもあるし」


康生たち学生は一応、一日五時間千円で勉強を教えてもらえるので、皆基本学校代わりの場所に行く。が、その他の空き時間は自由なので、職業体験的な感じで簡単な仕事の求人も出ていたりした。ただし時給は半額くらい。

あと地味に講師の求人もあるので笑った。


「じーちゃんと清掃員一緒にするか?」

「あー……そうしてみる!」


――ありがとう、お父さん!


父が一緒に作業してくれるなら、周りに迷惑をかける可能性が格段に減る――ナイスアシスト、父!


そうしてサクッと皆でタウンワーク的な事務所で応募し、簡単に現場で面接兼説明を受けたら、翌日からアルバイトを開始することになった。


お昼ご飯のチャーハンを食べながら、皆で寛ぐ。


「なんか、避難生活って感じじゃないな」

「ね、なんか新生活始まるみたい」

「ジムがあって、エアロバイクが設置されてるみたいなんだけど、発電機らしいぞ。発電した分、ちょっとだけだけどお金になるってさ」

「え、すっご」

「食べ終わったら行くか、明?」

「行く行く」


今のところ家族全員、ここの生活を楽しめそうで、なんだか少し拍子抜けした。


でも、その日の夕方、広州から分隊したクラゲの一部が台湾侵攻を開始したとSNSのニュースを見て、心がザワついた。他の部隊は着々と日本に近付いている。


――台湾の次は沖縄だ……。


その日の夜は少し肌寒くて、なかなか寝られなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ