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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
3章 侵略
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二話 彼の選択(10)

*** 淑華視点 ***


「そもそも、人口密集地以外は襲われていないケースが多いですが、命と魂がかかっています。安全に安全を重ねた方がいいでしょう」


私たちの顔を順番にゆっくり見ながら、由香里さんは提案する。私たちは皆で顔を見合わせてから頷いた。


「わかりました。施設の方にお邪魔していいのなら、そちらでお世話になろうと思います」


私の言葉に、由香里さんが溜めていた息を吐き出してから微笑んだ。


「そう言って頂けて安心しました。茜ちゃん達から託された大切な人ですから、少しでも安全に過ごして欲しかったので……」


由香里さんの言葉に胸が少しこそばゆくなる。

そんな風に思われていただなんて、思ってもみなかった。


「では、いつクラゲが攻めてくるかも分からないので、今日中に行きましょうか。でも、あちらではシャワーですし、有料になりますので、今日はお風呂は済ませてから向かいましょう。その間に私はご飯を作りますので、寛いでいてください」

「え、そんな、お手伝いします――」


私と母が立ち上がると、由香里さんは手で制してきた。にこりと微笑む。左手の薬指の指輪がキラリと光った。


「暫くはゆっくりできません。どうか、今日くらいはゆっくり団欒してください」

「それは……ありがとうございます。ありがたく、寛がせて頂きます」


まだまだ夕方には早い時間だったけど、皆がのんびりと入浴していったら、あっという間に時間は過ぎていった。


由香里さんが出してくれた夕飯は、唐揚げ、ほうれん草のお浸し、ホッケの干物、豚汁、きんぴらごぼうとタマゴサラダで、大盤振る舞いの大量メニューだった。

康生が大喜びして食べ始め、まだまだ食欲旺盛な幸成もガツガツと明と競うように食べる。


「こんなに手間がかかった料理――ありがとうございます! 美味しいです……!」

「いえいえ、お粗末ですが……すみません、冷蔵庫のストックの消費もあるので、かなり量が多くなりました」

「いやいや、どれもめちゃくちゃ美味しいですし、多くて嬉しいです! 凄いです! 茜たち、普段こんな美味しい料理食べたりしてるんですか?!」

「毎日ではないですよ。交代制で作ってます」

「交代制でも羨ましいですよ!」


私の言葉に大きく頷く幸成と康生を睨むと、二人はしまったとばかりにご飯をかき込んで誤魔化した。


それからは、茜達の幼少期の頃や今の茜達の話で盛り上がった。

あんなに孤軍奮闘していた二人が、今や周りの人々に評価され、大切に思われていると思うと目頭が熱くなった。

それはお母さんも同様で、なんならお母さんは少し泣いていたようだ。


夕飯の片付けまで終えると、今度は車に乗り込んだ。

由香里さんは私たちとは別で軽自動車に乗っている。軽自動車には既に目一杯の食料品や、あると便利そうな日用品が詰め込まれていた。


由香里さんの車の案内で、道を進む。

茜達が暮らすこの場所は、都心からそれなりに離れており、畑や田んぼ、雑木林が多い。なんなら、私達が暮らしている近辺より人口が少ないかもしれない。


――まぁ、ウチの市も田んぼが広がってる所ばっかりのところあるか。


街灯がほとんどない道を車のヘッドライトだけで10分程度進むと、田舎には似つかわしくない巨大な施設が現れた――が、由香里さんの車はそれっぽい施設からまた離れていく。


「あれ、ここじゃないの?」

「なんだろうね?」


皆で「まさか迷ったとかはないよね?」とか笑いながら車をさらに10分程度走らせると、突如地下に繋がる入口に入り込んでいく。


私たちの車が入ると、鉄の扉がゆっくりと閉まっていくのが見えた。


「すげー」


突如現れた謎のトンネルに呆気に取られながら、さらに五分程度、緩やかな下り坂に沿ってどんどん地下に潜っていく。


途中で道が二手に分かれ、片方に曲がり、出入口をくぐると奥に広い空間が広がっていた。


「なんじゃこれ?」

「凄すぎん?」

「あの壁なに?」


天井は非常に低く、我が家のワンボックスカーの天井が擦らないか心配になるほど低い――後から確認したら、50センチ無いくらいは余裕があったけど。


「広いねー、駐車場みたい」


あちこちに板で間仕切られた空間ができている。

由香里さんが二つ続きで空いているスペースの1つに車を停めたので、幸成も由香里さんの隣のスペースに車を停めた。


車から出て周りを確認していると、由香里さんが出てきた。


「天井から伸びてるホースを車のマフラーに付けてください。マフラーが冷めてからでいいんで」

「あー、そういう事ですか!」


幸成がブンブン振り回していたホースの先を見て納得する。


「そうなんです。排気ガス予防のためなので、ご協力ください。あと、幸成さんと康生くんと淑華さんのお父さんはこちらに来て、間仕切り用の板を運んでください」


どうやら車を置く場所を含めて、この15畳程度のスペースが私達に割り当てられた空間のようだ。今は仕切りがない向かいの板には、扉らしきものもついている。


「すいません、私の分まで運んで頂いて……」


どうやら父は、由香里さんと一緒に由香里さんのスペースの間仕切り板を運んできたらしい。

間仕切り板の高さは180センチ程度、ギリギリ覗けない高さだ。これで避難中のプライバシーを世帯ごとには確保できる。


「今から避難手続きや、支給品の受け取り、施設のルール等の説明をするので、代表で二名ほど着いてきてください」

「お父さん、幸成、頼んだ」

「いや、お母さん経由なんだから、じーちゃんに任せてないで、お母さん行かないとダメでしょ」


説明を覚えるのが苦手なので逃げようとしたが、康生により失敗する。お父さんがクククッと笑った。


「康生、あんたいつからそんなに賢くなったの?」

「僕はじーちゃんに似たからね」

「え、俺は?」


幸成の寂しそうな声が、間仕切り空間に響いた。

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