二話 彼の選択(9)
*** 淑華視点 ***
守山宅に到着すると、由香里さんと思われる女性が玄関から出迎えてくれた。
「初めまして、由香里です。お待ちしてました。どうぞ」
「初めまして。よろしくお願いしますー」
積荷を下ろそうとしたら、由香里さんに「先に休憩しましょう」とリビングに案内されて、皆の分の飲み物が置かれていく。私と幸成と両親にはコーヒー、康生にはコーラを出してくれた。
両親も長時間の車で疲れたのか、ふぅとひと心地ついたように息を吐いている。
「急で申し訳ないのですが、避難先をここではなく、茜ちゃん達の勤め先の研究所にしてもらいたいと思います」
由香里さんの発言に、私と幸成は顔を見合わせる。
「どういうことですか?」
「研究所にも地下シェルターが造られました。そちらの方が大きく、安全ですし、施設的にも整っていますので、提案しました――初対面なのにいきなりでごめんなさいね」
困った様に口元に手を当てながら、由香里さんと言う女性――機械的生命体と聞いているが人間にしか見えない。癖で魂も視たが、魂もほぼ人間と同じに見える――が笑った。
「あ、まだ時間は残されているので、まずはこちらの地下を見学します?」
「凄いんですよ」と笑いながら由香里さんが言う。それじゃあ、と私と幸成と康生は地下を見学させてもらう事にする。
「うわー、すげー!!」
入口は階段下の納戸の中にあった。中学生の康生がワクワクが止まらないといった感じで、由香里さんに続いて梯子を降りていく。
――茜、悟! あんたら何してんのよ!!
二メートル程下に降りると、コンクリートでできた部屋と簡易キッチンがあった。五畳程度のスペースに冷蔵庫とシンクとレンジフードがある。
カーテンで仕切られている隣のスペースを覗くと、食料庫なのか大量の保存食が置かれていた。
「俺ん家の何倍の量よ、これ?」
「凄いな……」
「ふふふ、頑張って買い溜めてたんですよ」
私は空いた口が塞がらないので、顎に手を添えながら次の部屋を確認しに行く。
隣はリビングだった。あまり広くないけど、八畳はあるだろう。真ん中にちゃぶ台、ちゃぶ台の前にテレビが置いてある。
――窓が無いだけでコンクリート造りの普通の家にしか見えん……!
廊下を出てすぐの右の扉は脱衣場。手洗い場もあるし、ドラム式洗濯機もちゃっかり置いてある。お風呂はビルトインの浴槽付きの風呂。
廊下に出て正面の扉はトイレ。ウォシュレット付き。
奥三部屋はそれぞれ五畳程度の部屋。一つはシェルター施設用の管理室で、正面の鉄扉は地上へ続く階段があった。
「由香里さん、この地下シェルターの何がダメなんですか? 十分過ぎると思うんですけど……」
率直な感想を訊くと、由香里さんは悩ましげに顎に手を添えた。
「今更だけど、深さが心配になってきたんです。それにもし、インフラが使えなくなっちゃったら、生活がキツいように思えて……あっちなら、大きめの自家発電装置も作りましたし、水道も近くの水源から使えるようにしました。ガスもかなり備蓄しましたから、多くの人と生活しないといけないのはありますが、インフラ面がやっぱり違うかなって思うんです」
「ここの地下シェルターはガスとか止まったら使えないんですか?」
幸成が率直に訊く。
「そうなんです……それにまだちょっと暑い日もあるじゃないですか? 長時間はエアコンが無いと厳しいと思うんです」
「電線は真っ先に切られたりしてますもんねぇ……」
「はい、だから、セルフスペースの確保が少し難しいですが、あっちの方がいいかなって思います」
「とりあえず上に戻りますか」と由香里さんの提案で、また地上のリビングに戻る。私はスマートフォンを速やかに取り出した。
淑華:あんた、家を魔改造しすぎじゃない?!
茜:私じゃないよ! 悟とミライだよ!
淑華:滅多に使わない地下に冷蔵庫とか洗濯機まで入れて……金持ちか!?
茜:ふふふ、色々ありましたから……ww
否定しない辺り、憎めないやつよ……。
まぁ、本当に色々あったみたいだから、言及はするまい。
淑華:由香里さんに施設のシェルターの方が良いってオススメされてるんだけど!
茜:え、なんで?! 足りてなかったかな??
淑華:インフラ止まったらキツいんだって!
茜:研究所の方は解決できてるの?
淑華:そうみたいよ!
茜:なるほど! 由香里さんの提案の方が的確だから、のった方がいいよ!
淑華:了解! ありがとう!
「実は昨日、中国で瓦礫の落下を利用した攻撃が始まりました」
ひと心地ついて、荷降ろしをどうしようか考え始めた頃、由香里さんがゆっくりと口を開いた。
「え――」皆が同じ表情で固まる。
――クラゲって、捕食と簡単な窓や車を持ち上げて落とすとか、それくらいだけじゃなかったの……?!
「クラゲも進化してきているようです。触手も三倍ほど延びるようになったのも観測されています」
「じゃあ、この家だと……」
「はい、心許なくなってきました。だから施設の方をおすすめしています」
私達は皆で顔を見合わせた。背中を伝う汗は私だけではないだろう。




