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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
3章 侵略
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二話 彼の選択(8)

家庭内でクラゲを食べるか論争が繰り広げられた翌日、朝の会議でケラーさんにクラゲのスラリーは入手可能か、ダメ元で聞いてみた。


「(何故必要なのでしょうか?)」

「可食を検討したいと思いまして」

「(可食……?! 食べるのですか?!)」


ケラーさんは昨日のミライ並みにドン引いた顔をしている――いや、他のミラ島のメンバーもドン引きしていますね、はい。

え、河井と村瀬もドン引きしてる?! え?!

待って、ツバサちゃんにそんな顔されると悲しいよ! ウルフくんも……!

あ、でもスネイプさんは頷いてる……流石サバイバル上級者!


――っていうか、そんなに変な発想ですか?!


しかし、ただ一人クロウリーさんは目を輝かせた。


「流石、食の変態日本……! クラゲまで食べようとするとは、天晴れです!」

「え、日本ってそんな認識なんですか?!」

「そうですよ。ご存知なかったんですか?」


悟を勢いよく振り向くと、悟は深く頷いた。悟は認知していたらしい。


「日本は飢餓との戦いだったから、民族的にそういう性質だよね。食べられそうな物はなんでも試す」


ミライに説明されて妙に納得した。翻訳を聞いたミラ島の一同も何やら納得したようだ。


「(……一応、入手は可能かと思いますので、手配してみますが……その、クラゲは人間を食べていますが、それはいいのですか?)」

「人間としての物質はほぼ分解されているでしょうし、何より飢餓になったらそんなことも言っていられません。先に可食か調べておきたい感じです」

「(……わかりました、手配しましょう)」


ケラーさんは苦笑いしながらも了承してくれた。

クロウリーさんは、無表情だが目がキラキラしているのが隠せていなかった。


――クロウリーさんって、漫画だけじゃなくて、意外と日本文化も好きだったのね……。


しかし、毎日の定例である木陰ちゃんの報告で、皆の表情は一転して暗くなる。


「――昨日、中国広州の侵略が開始しました。当初、機械的生命体を駆使した戦略でクラゲを圧倒していましたが、現在の戦況は反転して市民の捕食が進んでいます」


共有された画面には、他の侵略された都市とは違い、大きく退廃した街並みが映っていた。

多くの建物は破壊され、穴が空いていない建物がなかなか見つからない。道路には白濁したスラリーの中に、破壊された機械的生命体が数えきれないほど多く倒れ込んでいる。


「クラゲは中国軍による攻撃に一旦撤退すると、大きい石や木材、瓦礫等を上空から落下させる攻撃を開始したようです」


確かに、よく見ると機械的生命体の肉体に石などがめり込んでいるのが分かる。

画面が切り替わり、破壊された人類の兵器が映される。


――まさかこんな攻撃手段を持っているなんて……。


瓦礫の自由落下という単純攻撃だが、その威力は凄まじいものだった。

爆弾ではないが、物理攻撃としては十分な威力を発揮している。


「クラゲは自由落下を応用し、建物の破壊も開始。建物内に逃げていた人類も捕食できるようになりました」


皆の表情がより一層暗くなる。


――これで爆弾を駆使し始めたら、地下都市も危険域に入ってくる。


ただ、奴らは情報構造体の揺らぎのあるなししか検知できない可能性がある。つまり、爆弾というものを認知できない可能性があるということだ。それは唯一の救いだろう。


「現在、一部クラゲが分隊し、既に侵攻済みの地域に戻る様子が見られています。侵攻済み地域もまた危険域に戻る可能性が高いです」


木陰ちゃんの報告に、皆が頭を抱えた。



昼食の時、食堂で村瀬が一人でミラ島定番メニューの野菜スープを啜っていた。食堂の奥の方では、河井の家族に混じって村瀬の母親が不安そうにパンを齧っている。

村瀬は私と悟に気が付くと、眉尻を下げながら顔を上げた。


「お父さんも来れたら良かったのにな」

「本当だよ……あのクソ頑固オヤジ……オカンが毎日心配してる。今日木陰ちゃんの報告を聞いて、もうオヤジは助からねぇだろうなって……」


村瀬がガクリと肩を落としてため息を吐く。


「オカンに伝えようか迷ってる。もう助からないだろうって」


村瀬の言葉を聞いて私も泣きそうになる。

私も日本に両親を置いてきた――いや、そもそもこっちに来るかなんて相談もしなかった。父や兄はどうでもいいが、やはり母親だけは心残りといえば心残りだろう。


「まだ死ぬって決まったわけじゃない」


悟が村瀬の肩を叩く。気が付けば、河井が私の隣の席に来ていた。


「今からでもさ、鈴木さんに相談して研究所の地下シェルターに退避できないか相談してみれば?」


河井の提案に村瀬は首を横に振る。


「そもそもツバサちゃん達、機械的生命体が嫌いなんだ。到底無理だ」

「でもさ、なんかあった時に心残りじゃん? 動くだけ動いてみたら? 後悔は減らしてこうぜ」


村瀬の眉がピクリと動いた。再び俯いていた顔を上げて河井を見る。


「そうだな――そうだよな。動いてみるだけ動いてみよう。後は知らん! 地下シェルターがOKなら、説得はオカンにさせよう!」


最後の語気はいつもの村瀬に戻っていた。少し安心して頬が緩む。


――お姉ちゃん達、大丈夫かな?


日本にも、斥候と思われるクラゲが出現するようになった。日本の侵略開始まであと少し……。


少し冷めたスープが、身体を冷やしていく気がした。

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