二話 理解者(3)
お姉ちゃんは少し深呼吸する。少し落ち着いたのか、ハァとため息を吐いてから頬づえをついた。
「2人ともこの近所に住んでるんだよね?」
「はい。六丁目です」
「茜ちゃんは?」
「ちかいけど、6ちょうめとかはわかんない」
「引っ越してきたばっかだから、まぁそうよね。とりあえず、2人とも暇な時とかここに遊びに来ていいからね。お母さんも喜ぶし」
お姉ちゃんが笑いながら部屋の入口付近を指差すので振り返ると、少し年季が入った箱のおもちゃが数個置いてあった。さっきから人影が廊下を行ったり来たりしていたと思っていたら、お姉ちゃんのお母さんが運んで来ていたらしい。
「あれで好きに遊んでいいみたいだから。あ、来た時はお母さんに声を掛けてあげてね。社務所にいると思うから」
「今日会ったばかりなのに、いいんですか?」
「いいよ、いいよ。元々私が小学生の頃は、私が居なくても私の同級生がここで遊んでたくらいだし。あ、でもテレビゲームはないからね」
私にはあまり関係ない注意事項を伝えられる。
「あと、子供しかいない時は、今みたいに障子は少し開けておくこと。大人に怒られることはしちゃダメ。物も壊さないように。おもちゃは譲り合って使うこと。来る時はお家の人に、ここに居ることを伝えること」
次々に伝えられるルールに、私は目を白黒させていたが、悟はうんうんと頷いていた。一通りここで遊ぶルールを伝えると、お姉ちゃんはふと笑った。
「――まあ、全部守れなくてもいいよ! とにかくお母さん、子供好きだからさ。こまめに来てあげて。お菓子も準備してくれるし、良い場所だと思うよ」
そう言うと、ちょうど障子に人影がやって来た。お姉ちゃんのお母さんがお盆にお菓子を乗せて、広間に入ってくる。
「3時のおやつ持ってきたよー。良かったら食べてねー」
「お母さーん。守山悟くんと安倍茜ちゃんって言うんだって。また遊びに来てくれるように誘っといたよ」
お姉ちゃんの言葉に、おばさんの顔が綻ぶ。
「本当に? 嬉しい。最近誰も来てくれなくて、寂しかったのよー」
「茜ちゃん、今日引っ越してきたんだってー」
「あー、じゃあ安倍さんのとこのお孫さんねぇ! この前会った時、もうすぐ息子家族と同居するって言ってたわぁ」
「あー! あの気難しいおばーちゃんのとこね! 理解理解。ありゃ大変だわ!」
お姉ちゃんに同情される。おばさんも同意見だったらしく、深く頷いている。
「茜ちゃんも霊が視えるんだってー」
「あらあら、それは大変でしょうに。しかも安倍さんのお宅って……」
「お家に霊が出て怖いらしいよ。なんかいいやつない?」
お姉ちゃんの言葉に、おばさんの目が鋭くなる。おばさんが私に振り向き、問いかける。優しい笑顔をしているのに、目は笑っていない。
「それはどんな霊かな?」
「くろいかげ? おかおがないの。めもくちも。でも、おばーちゃんをじっとみてるきがする」
「それはもしかして……」
おばさんは言い淀むと、首を横に振ってから「ちょっと待っててね」と言って立ち去った。少しして戻ってくると、絵のような複雑な文字が描いてある紙と、桃色の小さなお守りを持ってきた。
「これを玄関に貼っておくといいわ。貼っておくと、悪い霊は居心地が悪くなって、お家から出ていくはずよ。おばあちゃんには『開運にいいんだって』って言うと、喜んで貼ってくれると思う。こっちは御守。悪い霊が近付きにくくなるはずよ。できるだけ肌身離さずに持っておくといいわ」
「でも……」と遠慮する私に、おばさんは押し付けるように2つを渡す。
「遠慮はしないで。おばちゃんからのお願い……ね?」
「ありがとう……」
「ここにもいっぱい来ていいからね。ここは白龍様のお膝元だから、悪い霊が寄ってこないから」
小さく頷くと、おばさんはニコリと笑った。お姉ちゃんとよく似た、明るい太陽みたいな笑みだった。




