二話 彼の選択(6)
悟経由でアイゼンベルクさんのパワーストーンコレクションを追加で数個借りることができた。
「よーし! 早速検証しよう!」
腕捲りをして肩を回していると悟がふふっと笑った。
「良かったね、借りれて」
「ありがとう悟、助かったよ! 持ってた三つは固定で同じお祈りにしておきたかったから」
「別にいいよ」という悟に一つ石を渡す。今回悟が借りてきてくれた石は五つ。悟に渡したのはルビーの原石だ。オレンジ色のオーラが出ている。
「まずは私以外でも再現するかの検証ね」
「えーと、トリガーは……」
「神社でお参りする感じ。名乗って、神様に感謝して、お願いして、よろしくお願いします」
「自己定義、現状定義、依頼、開始命令だったね」
「そうそう」
流石は悟だ。飲み込みというか、記憶力と分析が早い。
悟は「何お願おうか……」と暫く頭を捻った後、両手で石を握ってお祈りを始める。
「――どう?」
「何も起きなかったね」
私が眉尻を下げながら言っても、悟は飄々としている。
「この祈りはダメみたいだね」
また祈る。が、何も起きない。それを数度繰り返した後、とうとう石が反応した。
ピィィィンと石が鳴き、オレンジ色の光の輪が石から出ると、一瞬で広がって消えた。
「――成功したみたいだね」
悟が私の顔を見て笑った。
「お母さん以外も再現が出来たね。お父さんも何かパターンを試してたみたいだけど、何を試していたの?」
「お祈りの真剣さを変えていたんだ。できたらいいなってお祈りから本当にこれだけは叶えて欲しいって心底願う内容まで」
「心底願う内容に反応した感じだね?」
「うん」
「反応した願いはなんだったの?」
「――茜や家族の無事」
悟が真顔で言った後、照れたように少しだけ笑った。
その反応で私まで恥ずかしくなってくる。
ミライが安心したようにため息を吐いた。
「とりあえず、石の反応はお母さん以外でもするって言うのがわかったね」
「でも、石が反応したところで本当に何か現象が起きるかな?」
「僕の祈りの検証は内容が内容だけに、検証しにくいね……」
――かと言って、心からの願いでなければ石は反応しない。
「うーん……絶妙に検証が難しいね」
いっその事クロウリーさんに報告すれば、検証は一気に進むけど、それはそれで破滅を招きそうな気がして無理だ。
――死んでもいい人の無事を心から寝返るって、結構サイコパスよね……。
「とりあえず、ミライもできるかやってみよう」
「え? 僕?? 人間じゃないのに?」
「機械的生命体でも感情はあるから、できるかなって」
「うーん、まぁ、やるだけやってみるけど……」
ミライにトパーズを握ってもらって祈ってもらう。
数分とかからず石が鳴いて、緑色の光の輪が弾けて消えた。私たちは特に驚かなかったが、ミライは石が反応したことに対して心底驚いたように何度も目をぱちくりとさせていた。
「何を願ったの?」
「――家族の無事……」
「私達って……」
ため息が漏れる。皆心底願うのが同じ内容って……相思相愛過ぎるわ!
とりあえず、三人でハグする事にした。満更でも無さそうなミライの顔に思わず口角が緩む。
「はい。ミライの分も検証できませーん。残りは三つでーす」
三人揃って黙り込む。
「いや、トリガーは分かったけど、次の検証しにくすぎるでしょ!」
「うーん、もっと軽い内容で検証したい所だけど、軽い内容だと祈りが弱くて反応しない……島の人も巻き込みたくなるね」
「なしなしなしなし、この島の人だけは絶対だめ! 一番適正あるけどさ!」
「うーん……とりあえず、ライブカメラで襲われてる人を見つけて、石が反応するまで祈るのを繰返す?」
自分で言っておきながら、なかなか酷い検証だと思った。人の死ぬ様を何度も見なければいけない。
「ちょっと、この線は一旦保留にしよう。検証が難し過ぎる」
「そうだねー」と項垂れながら頷いた翌日、特大の情報が舞い込んできた。
「――スリランカで仏教徒が襲われなかった?!」
悟にSNSで拡散された記事の日本語訳版を見せる。
「クラゲの襲来時に読経していると、クラゲが横を素通りして行ったらしいよ。どこまで本当か分からないけど」
SNSのコメントを読むと、これから仏教徒になると言っているアカウントがそれなりにいる。少し笑った。
「読経がクラゲの認識阻害になるのかな?」
「でも、読経してても食べられた人はいるみたい」
「何か違うのかな?」
「他の国でも、読経してたら免れたって報告してる人はいるみたい」
ミライがタブレット端末をスクロールしながら言う。
「何か条件があるんだろうね……それの一つが読経なのかも?」
「食べられなかった人のパターン他にもあってさ」
ミライが顔を上げてタブレットを見せる。
「病院で植物状態の人も生き残ってるみたいだよ」
ミライの言葉で私の頭の中で何かが繋がった音がした。




