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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
3章 侵略
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二話 彼の選択(3)

木陰ちゃんの報告通り、クラゲ型外的生命体は約三週間後にミラ島に姿を現した。

もちろん直接は見ていない。島のライブカメラの映像だ。


「とうとうだね……」


地下都市の疑似窓の映像を見ながら、悟が呟いた。


「結局、地球は何も対策ができなかったね」


低い声でミライが言う。私はミライの言葉に苦笑いした。不安そうに朋里と優希が私にしがみついてくる。


「みんな、死んじゃうの?」

「死なないために、ここに逃げてきたし、ママたちが研究してるんだよ」

「じゃあ、大丈夫? 学校のお友だちは?」

「学校のお友だちは分からないかなぁ……」


私の口から出る言葉は歯切れが悪くなる。悟がすかさず朋里と優希の頭を撫でた。


「お家の方は人が少ないから、あまりクラゲが行かないかもしれない。ただ、安心はできないから、パパたちもできるだけ頑張るね」


「うん」と少し安心した様子で朋里は頷いたが、私は暗い表情を消せないでいた。悟がそんな私に笑いかけてくるので、私も少し笑顔を返す。


「あと一週間……それで何ができるかだね」

「天候を操作できる装置が発明されていないのが痛いね。それがあれば楽勝だった」

「地球全体が台風になるのは、それはそれでキツそうだなぁ」

「日本は一応台風のシーズンだけど、どれだけ好転できるかだね」

「日本は多少マシかもしれないけど、他の国は壊滅的になるだろうね。このタイミングで国同士の政治でバトルって、馬鹿の極みだよ」


心底呆れたようにミライはため息を吐いた。


――まぁ、私もそれは同意見だけどね。


「さ、そろそろ学校と幼稚園の時間だよ。行っておいで」

「朋里、優希、行くよ」

「はーい!」


悟が朋里と優希と手を繋いで部屋を出ていく。こちらに来てから、一応学習の機会ということで、学校や幼稚園に通わせてもらっている。

朋里は授業で翻訳がいるのだけど、何とか小学校での履修範囲のクラスに食い付いている。習熟度別のクラスは、こういう時少し不便だな、と思った。

優希は幼稚園でのびのびと楽しんでいるようだ。皆に翻訳の鳥が肩に乗っているのを羨ましがられるらしい。


三人を見送ると、私とミライは食器を片付けたり、研究室に向かう準備をする。


研究施設はコアタイムのあるフレックス制度が適用されているけど、毎朝十時半には定例会があるので、最低でもそこに間に合うように行かないといけない。まあ、学校の時間に合わせると余裕なんだけど。


研究室に向かう前に、今朝のニュースやSNSをチェックするのが、私とミライの習慣になっている。


「皆、自国の守りを固め始めてるね」

「自国の守りを固めるより先に、殲滅しちゃえば関係なかったのにね」

「まぁ、失敗しちゃったからしょうがない」

「あちこちの国が滅ぶよ」

「そうね……」


頷いてはみたものの、正直まだそこまで他国が滅ぶという危機感はなかった。日本以外の国なんて、結局テレビやスマホの向こう側の存在で、行ったことも関わりもなければ、存在しないものにも等しいからかもしれない。


私は不安になり、いつもの江島神社のライブ映像が見られるチャンネルを開く。


――良かった。今日も無事。


江島神社の上空を、いつものように優雅に白龍が浮かんでいる。建物もどこにも損傷はない。いつも通りの光景。


――お姉ちゃんたちも、どうか無事でありますように。白龍様、護ってください。


私から出た祈りが画面を伝って白龍に吸い込まれていく。吸い込まれる瞬間、白龍が少し身動ぎした。



そして、八日後、その時はやってきた。

始まりは、衛星の不具合だった。


「――本隊が大気圏に来てる」


そう言ってミライが見せてきたライブ映像の上空は、不自然な歪みが広がっていた。


「遅くとも明後日には地上に降りてくる」

「結局インドから?」

「うん。この映像もインドだね」


私はいつの間にか、自分の手を祈るように握っていた。

結局、侵攻は始まってしまう。ここまで来たら、どこまで被害を減らせるかが課題になる。

第一次侵攻の対象国家には申し訳ないが、糧として情報収集させてもらうしかなかった。


「お母さん、ここからが正念場だよ。気をしっかりね」

「うん」

「助けられないものはどうしようもない。自分を追い詰めたらダメだよ、茜」

「――うん。分かってる、つもり……」


空の大きな歪み――クラゲの軍団を見て、やっと現実感が出てきた。


そう、もう人類すべてを助けられるフェーズは終わっている。罪悪感に苛まれていては、助けられる命も助けられなくなる。


――大丈夫。大丈夫……。


拳を強く握りながら、自分に何度も言い聞かせた。

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