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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
3章 侵略
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二話 彼の選択(2)

「(まず前提からお話しましょう)」


煉瓦の壁の部屋の中、ケラーさんを中心に、以前顔を合わせた島の研究者たちがテーブルに座って並んでいる。

正面にはケラーさん。ケラーさんの隣にはクロウリーさんが座っていた。

日本勢で会議に参加するのは、私、悟、村瀬、河井と、それぞれの相棒たちだ。家族は参加していない。娘たちは河井の家族が面倒を見てくれることになった。有難い。


「(我々の目的は、島および島人を護ることです。外的生命体の撃退ではありません)」


肩に乗った鳥が、淡々とケラーさんの言葉を翻訳する。


「(ただし、調査で判明したことを外部に共有することは問題ありません。地球を護ることは、この島を護ることにも繋がりますから)」


皆が静かに頷いた。昨日面会したアイゼンベルクさん――若返っていたせいで違和感が凄かった――も、同様のことを言っていた。

日本政府にも伝えていい、という意味だろう。


「(基本的に、地上に出ていいのは機械のみとします。例外的に研究施設は可能としますが、許可制です。必要な場合は、まずクロウリーに確認した後、私の承認を得てください)」


木陰ちゃんを隣に座らせ、木陰ちゃんのイラストがプリントされたトレーナーを着たクロウリーさんが、重々しく頷く。


「(では、現在の状況を報告してください)」


木陰ちゃんが立ち上がった。


「(現在、クラゲ型外的生命体の目撃情報がある国は主に一箇所。インドです。二週間ほど前までは村の壊滅報告が中心でしたが、一週間前から都市部での目撃情報も増加。行動パターンの報告も上がるようになりました)」


ノートパソコンで画面が共有される。私も見たことのある襲撃映像だった。


「(現時点の推論では、この生命体の目的は地球生物の捕食です。また、契約している霊視者の情報によると、捕食時に情報構造体の消失が観測されています。よって、この外的生命体は地球生物の情報構造体および肉体を捕食すると考えられています)」


暑くもないのに、背中を汗が伝った。


――何のために、魂まで食べるのだろう……?


そう考えて、すぐに思い出す。私たちも他の生命体を食べて生きている。

他の生命体からすれば、それも理不尽な行為だ。


――理由は、生きるため。それだけで十分か……。


私たちは今、食物連鎖の「食べる側」から、「食べられる側」に分類されている。


ただそれだけのことなのに、どうしようもなく理不尽に感じてしまう。

自分たちも同じことをしているというのに。


――でも、魂まで食べなくてよくない?!


木陰ちゃんは淡々と説明を続ける。見たことのない動画が再生された。


「(銃弾、ミサイル、火炎、電撃、レーザー攻撃はいずれも非効率。ただし、巨大ミサイルによって全体を吹き飛ばした場合は有効でした)」


軍の実験映像のようだった。様々な兵器で遠距離攻撃を行い、反応を分析している。


「(現時点では、風圧が比較的有効との分析結果が出ています)」


私たちは頷いた。ミライと悟の分析と一致している。


画面が切り替わる。海外で人がクラゲに捕食される、凄惨な映像だった。


「(捕縛されると、電撃のような攻撃で身体が硬直し、自力での脱出は不可能になります。捕縛された人物を発見した場合、鉈のような刃物で触手を切断することが、現時点での最適解とされています)」


「自力で逃げる方法も、探しておいた方がいいね」

悟に小声で伝える。


「電撃の正体次第だね」

「電流なのか、毒なのか、それとも文明外の何かか……」

「電流なら服を絶縁体に。毒なら、針が通らない素材……どのみちゴムが強そうだ」

「だね」


次に映し出されたのはスラリーだった。

人の死体だと思うと、鳥肌が止まらない。


「(捕食後、対象はスラリーとして衣服と共に排出されます。このスラリーは、バクテリアによる分解も起きない、非自然的な物質のようです)」


捨てられた衣服に絡みつく半透明のスラリー。

壊滅した村に残されていたスラリー群――それは、人の死体の山だった。

衣服のないものは、動物の死骸なのかもしれない。


「(消化時間はおよそ五分。一分以内であれば、生存の可能性は二〇%あります。ただし、救出に成功した事例がないため、実際に可能かは不明です)」


淡々とした説明が、クラゲの理不尽さをより際立たせる。


「(ミラ島への出現予測は三週間後。斥候のみの出現が予想されています。本襲撃はその一週間後。本襲撃の予測地点はインド。壊滅までの期間は約二週間と推定されます)」


「(以上が報告です)」


最後にニコリと微笑み、木陰ちゃんは着席した。


内容が頭に入っているのか不安になるほど、クロウリーさんは恍惚とした表情を浮かべていたが、

木陰ちゃんが座るとすぐに「(ありがとう)」と、いつもの調子に戻った。


――クロウリーさんのギャップで、内容を一瞬忘れたわ……。

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