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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
3章 侵略
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二話 彼の選択(1)

アイゼンベルクさんの島にヘリコプターで辿り着くと、ヘリポート傍の倉庫に案内された。

疑問に思いつつ連れ添って行くと、倉庫内に地下へと続く階段が出来ていた。


「どうぞ、我等が地下都市へ――」


無表情だけど大仰に、クロウリーさんが恭しく腰を折る。


開いた口が閉じないまま、煉瓦で囲まれた長い地下廊下を歩く。朋里も優希も探検だとウキウキで歩いている。とても短期間で造ったとは思えない出来の廊下を十分ほど歩くと、扉がたくさんある区画になった。


「扉一つで一世帯分の割り当てです。島の住人すべてに配当するために、あまり広くはありませんが……」

「千四百人規模をすべてですか?!」


悟も驚き過ぎて顔がおかしくなっている。

私たちの様子を見て、クロウリーさんは満足そうに頷く。


「はい。我々の技術力と統制なら可能でした」

「しかしながら、それは……」


呆気に取られている間に、広い空間に出た。広いとは言っても天井はあまり高くなく、せいぜい二・五メートル程度だろう。柱も多いが、ただ、小学校の体育館程度の床面積はあるように思える。ただ、天井は空の様子をプロジェクションマッピングしているようで、廊下に比べかなり明るい。島人の姿もそれなりに見られ、地上と同じように過ごしているようだ。


「ここは広場です。できるだけ地下で過ごすストレスを減らすための考慮を行っています。また、太陽光になるべく近い光を照射するようにもしています。基本的に地下の配置も地上と同じになっていますので、以前の記憶があれば、地図にもあまり困らないかと思います」


他にも畜産の部屋や、農業を行う部屋も準備されているらしい――凄すぎて、ずっとアホ面で歩いていた自信がある。


「もう皆、地下に住んでるんですか?」

「全員ではないですが、可能な者から住み始めています――現在は移行期間ですね」


広場を抜けて、地上では研究施設があったであろう位置の部屋に通される。


「こちらが、滞在中に使っていただく守山家の部屋になります。他の皆様が到着できたら呼びに来ますので、それまでお寛ぎください」

「ありがとうございます……」


クロウリーさんが去った後、部屋を見回す。


廊下と同様に、壁や床は煉瓦がベースだが、リビングに寝室、キッチン、トイレと風呂があり、それぞれに質素だが家具が備え付けられている。

なんと、キッチンにはレンジフードだけでなく、冷蔵庫まであるのだ。


「……凄すぎて言葉が思いつかないよ」

「さすが富豪が管理する、最先端技術も存在する島って感じだね」

「家電は、私たちの生活に合わせてくれたのかもしれないね」

「それはあるかも」

「そりゃ、あのクロウリーさんも自慢したくもなるわけだ」


ミライが肩を竦めながら笑う。


「お母さん! 地下なのにまどがあるよー!」

「すごい、おそとみえるよ!」


朋里と優希を見ると、確かに窓があって外が見える。悟が近付いて確認する。


「テレビが埋め込んであるっぽいね。リアルタイムで地上の映像を映してるのかも」

「ふあー……芸が細かいね」

「数ヶ月は籠るから、かなり配慮して造ってるんだろうね」

「短期間で、こんな地下都市を造れる技術力と予算に脱帽だわ……」


皆で大きく頷き、感嘆の溜息を漏らす。


「これなら、クラゲが侵攻してきても関係なさそうだね」

「本当だよー」


久しぶりに、皆でのんびり笑い合った。



しばらくしてから、他の面子も到着したと迎えがあった。


さらに階段で地下に降り、会議室に行くと、村瀬と、目をキラキラさせたクロウリーさんが意気投合していた。ずっと握手しながら話している。


少し離れた場所で、木陰ちゃんとツバサちゃん、ウルフくんにスネイプさんが、機械的生命体同士で集まっている。かなり現実に寄せた造形だが、皆、何かの原作があるキャラクターが元になっている。あそこの空間だけ、コスプレサミットの待機所にしか見えなくて、思わず苦笑いする。


「しかし、なぜウルフくんも創ったのですか? 原作では、ツバサちゃんのボーイフレンド……つまり、あなたの恋敵になりませんか?」


クロウリーさんの質問に、村瀬が苦笑いする。


「俺、気がついたんです。原作そのままの設定でツバサちゃんを創ってしまったばっかりに、ツバサちゃんがウルフくんに会えないことで悲しむって。一緒に暮らしてる俺が、諸悪の根源になるって……」

「あなたは……だから、木陰ちゃんの発注の際に、設定の修正提案があったのですね……!」

「はい……」


クロウリーさんが、村瀬に熱い抱擁をする。


「ありがとうございます……! あの提案のお陰で、私たちは今、幸せに暮らせています……!」

「それは良かったです」


村瀬が頬を掻きながら、力なく笑う。


「あなたの名は、私の中でも永遠に語り継がれるでしょう……!」


――まぁ、村瀬はノーベル賞を貰ってるから、普通に世界的にも名前が語り継がれると思うよ、クロウリーさん……。


一方、河井の家族――河井母、父、妹は、コスプレサミットの待機所の光景を見ながらソワソワしている。


「見て――木陰ちゃん、本物にしか見えないんだけど!」

「凄いねぇ」

「後で皆で写真撮ってもらいましょ!」

「そうしよ! 皆に自慢しよ!」


そう言って、妹さんはスマートフォンで、まずは集いの写真を撮っていた。


「いやー、うちのスネイプ渋いわ〜」

「ね!」

「男のロマンだよなぁ」

「僕のスネイプ、激渋だわ」

「いいよねぇ。お兄ちゃん、職場にツバサちゃんやウルフくんがいるんでしょ?」


河井がニヤリと笑うと、妹ちゃんはイーッと牙を剥いた。


「ズルい!」

「奈々も、そういう所に就職すればいいじゃん」

「お兄ちゃんが特殊なだけでしょー!」


河井一家のやり取りを、微笑ましく眺める。河井の相棒は最初、ドローン型の機械的生命体だったが、河井がある日、何となくゲームのこのキャラになりきれるか問いかけたら、みるみるうちになりきっていき、現在は自認スネイプにまで上り詰めた個体である。


そうこうしている間に、クロウリーさんはスネイプの所まで行き、じっくりと観察するようになっていた。


――クロウリーさん、日本文化大好きだね。

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