一話 来襲(3)
「――クソっ」
ミライがSNSを見て毒づいた。
SNSの画像は、村一帯に広がる脱ぎ散らかされた衣服とスラリーの群れだった。
――これは、全部人の死骸……?
思わずゴクリと喉が鳴る。鳥肌が止まらず、スマートフォンを持つ手が震えた。
翻訳したコメントには『両親がいる村を訪れたら、動物しかいなくなっていた』と書いてあった。
牛などの動物が村をとぼとぼと歩き、道草を食べている動画も一緒に添えられている。
「お母さん、本隊が来る」
ミライが、振り絞るような声で伝えてきた。
日本政府は動いてくれたが、結局間に合わなかった――正確には、最初に様子見されていた国から標的が変更されたせいで、援護できなかったのだ。
「滅亡するの……?」
「まだ滅亡は60%くらいの確率。今後の人類の動き次第。ただ、甚大な被害が出るのは確実」
「そう……」
私は優希を抱き締めながら、今後どう動くべきか悩む。優希は「めつぼうってなに?」と小首を傾げていた。
――どこかに逃げようにも、地球全体が対象だと逃げようがない。
できる限り籠城の準備はしたが、それでも限りはある。籠城できても精々一ヶ月が限度だし、電気や水道、ガスが止まれば一気に厳しくなる。
「ミライ、籠城ってどれくらいの期間しないといけない?」
「三ヶ月が目処かな」
「三ヶ月かぁ……」
思わず唸る。三ヶ月の地下シェルター生活は、気が狂いそうだ。
「ずっと地下シェルターは、優希も朋里も厳しいと思う。昼間は家、夜は地下シェルターとかの生活はできるかな?」
ミライは腕を組み、目を閉じる。
「今アップロードされている動画を見る感じだと、家屋を劇的に破壊している場所はない。だから、現時点では家の隙間を塞いで静かに過ごせば、昼間に過ごす分には大丈夫かもしれない」
ミライの分析に、僅かに安堵して溜息が漏れる。
「なら、様子見をしながら、昼間は家、夜は地下の方針でいく方向で、悟にも相談しよう」
悟は外で家の補強をしている最中だった。悟も昼間は家で過ごす方向にしたかったのだと、今更ながら気づく。
思考を巡らせていると、ミライがものすごく苦い顔をしているのに気がついた。
「どうしたの?」
問いかけると、ミライはとても嫌そうに口を開いた。
「いやさ、一番安全な場所があってさ」
「え! どこ?!」
ミライの言葉に、視界が開けた気がしたが、次の言葉でどん底に落ちる。
「アイゼンベルクの島」
「……」
「風が強いし、人口も少ないから標的になりにくい。しかも研究施設も堅牢で、設備も充実してるから籠城しやすい。お母さんが行くなら、喜んで迎え入れてくれるよ」
「……それって、帰って来られなくならない?」
私の苦笑いに、ミライは肩を竦める。
「死ぬよりはマシだよね。その選択肢もあるってことは、提示しておくべきだと思って言った」
「私、行きたくないよ! お母さん取られちゃう! お兄ちゃんがまた壊れたら嫌だ!」
隣でお利口さんに座ってお絵描きをしていた朋里が、ミライに向かって怒る。
「僕も嫌だよ。でも、死ぬよりはマシ。それくらい危険な状況なんだよ」
「いや、いや! 行きたくない!」
「ごめんって……」
泣いて怒り始める朋里と、頭を掻きながら謝るミライを苦笑いしながら見てから、窓の外を見る。外はどんよりとした曇り空だ。もう少しで雨が降るだろう。
――悟の片付け、手伝わないと。
さらに一週間後、とうとうクラゲ型地球外生命体が人類を捕食している動画が、SNSに出回り始めた。
三十代程度の男性が、いきなり現れた触手に絡め取られ宙に浮かび、クラゲの傘の中に吸い込まれていく――クラゲの体内に取り込まれた男性は、みるみる内に色を失い、輪郭を失い、五分も経たないうちに服飾品のみが体内に浮かぶ。そして、吸い込んだ口から、服飾品と共に半透明のスラリーが吐き出された。
私はその動画を見て、言葉を失う。
死よりも恐ろしいものが、そこには映り込んでいた。
――魂が……情報構造体を捕食している……?
通常、生物が死ぬと、魂に該当する情報構造体がまだ肉体の周辺に残っていたり、上へ登っていく様子が見える。しかし、クラゲに捕食された男性の魂は、どこにも見当たらなかった。むしろ、捕食される過程で、クラゲの情報構造体に取り込まれていく光景が映り込んでいた。
「悟……どうしよう……」
震える手で、隣にいた悟に縋り付く。
「絶対に、クラゲに食われちゃだめ」
「どうしたの?」
「クラゲ、魂を食べてる」
私の一言に、悟の表情が消えた。




