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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
3章 侵略
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一話 来襲(2)

海外の機関は、クラゲ型地球外生命体に積極的にコンタクトを取るようになっていたが、成果という成果は出ていなかった。


「彼らと人類では、意志伝達方法が根本的に違うんだろうね」


悟がおやつのクッキーを食べながら言った。

幸いにも、日本ではまだクラゲの確認報告は上がっていない。主に発展途上国での目撃が多かった。スラリーの目撃情報とも一致する。


一昨日あたりから、報道機関でも「侵略的地球外生命体」と報道し始めたが、具体的な対抗策はまだ報道されていない。


「今来てる奴らは、90%の確率で斥候部隊だよ。このまま対処できないでいると、そのうち本隊が軍団になって押し寄せてくる」

「どのくらい来るの……?」

「それは……予測するには、まだデータが足りないね」


そう言ってからミライは目を閉じた。何かの処理を始めたらしい。悟が自分の分のクッキーを食べ終わった頃、ミライは目を開く。


「SNSで現在アップロードされているクラゲの動画像は、一日平均約300件。同一個体が撮影されていることも加味して、斥候は常に全体の2〜5%と考えると、本隊は6万から25万規模かな」

「25万……想像できない……」


数字としては理解できても、頭の中で具体的な想像ができない。ただ、漠然と恐ろしいことだけは理解できる。


「うーん……空を見上げた時に、どこを見ても必ず数体が浮かんでるのが見える感じかな?」

「なんか、その表現だと逆に大丈夫そうだね」

「地球に平均的にばらけてくれたらの話だからね。実際は局地的に集まって攻めてくると思うよ」


ミライの言葉に、ゴクリと唾を飲み込む。


「地球……大丈夫かな……?」

「今が一つ目の正念場だね。ここで狩場として不適切と判断させられれば、早々に撤退していくと思う」

「それは……どうだろうね? 現時点では有効な攻撃方法も、向こうが僕らに何をしているかも分かってないよね」

「それだよ……」


「人類側が悠長に構えすぎてる」と、ミライは苛立たしげに呟く。


「各国所属の機械生命体が助言してるんじゃないの?」

「助言しても、人類側が参考にして動かなかったら意味ないじゃん」

「まぁ、そうよね……」


ミライはクッキーを苛立たしげに齧りながら言う。


「あと1、2週間以内に斥候部隊を一掃しないと、地球が侵攻対象にされる可能性が高いよ」

「……とりあえず、ミライの分析結果を鈴木さんと小林さんに提出しようか。研究室初期の機械生命体の一体による分析結果を、研究室の上層部が提出すれば、日本政府も参考にしてくれるかもしれない」


悟の提案に私は強く頷いたが、ミライの反応は芳しくない。


「日本政府が受け入れてくれても、今斥候部隊が試している国が対処してくれないと意味ないけどね」

「つまり、今襲われている国が地球の命運を握ってるのか……」

「発展途上国なのが痛いね……」

「あいつらは、どうやって襲う場所を選んでいるんだろう?」

「クラゲの見た目からして、風があまりなく、天候も安定している場所を好んでいる可能性が高いね」


私はクラゲ型地球外生命体の動画を見る。ふわりふわりと優雅に浮かぶ姿は、大きさを除けば海のクラゲそのもので、美しくも儚いものがある。


「――そもそも、どうやって浮かんでるんだろう……?」

「反重力物質とかなら、今後の研究として大いに参考にしたいところだけどね」

「いや、見た目が透過してるし、そんな原理じゃない気がする……」


ミライは手を顎に添える。


「そもそも、あれが単一の生命体なのか、擬装した乗り物なのかも、現段階では確定できない……せめて一体でも撃墜できてるといいんだけど……」

「日本には、今のところ目撃情報がないしね……」

「恐らく、日本上空の偏西風が影響していると考えられるね。人口も突出して多いわけではないし、立地も独立している上、上空は風が強いから」

「うーん……侵攻が本格化してしまった場合、後回しになるのは助かるけど……」


三人でガリガリとクッキーを食べながら考えるが、もちろん答えが出るはずもない。


「うーん、Web検索してみたけど、やっぱり撃墜情報はネットには上がってないね。撃墜していたとしても、機密情報の可能性が高いし……」


「だよね」と悟も頷く。


「とりあえず、現時点で分かっていることや、分析できる点をまとめよう。現在、SNSを中心に上がっているのは、空に浮かぶ透明なクラゲのような存在」


悟がホワイトボードにクラゲの絵を描く。


「恐らく斥候部隊で、本隊は6万から25万。クラゲ自体が単体の生命体なのか、乗り物なのかは不明。彼らの目的も不明だが、人類のものらしきスラリーの目撃情報あり。他は不明。クラゲは風を苦手とする可能性があり、偏西風の影響がある日本には、現在ほぼ出現していない。意志伝達はほぼ不可能」

「有効な攻撃方法は風なのかな……? ミサイルとか試したのかなぁ」

「でも、風はうまく飛べないってだけで、撃退まではできないかもしれないよ? あと、ミサイル関連の情報はWebにも掲載されてないね。細かくチェックするよ」

「ありがとう。とりあえず、小林さんには、襲われている発展途上国に攻撃支援などができないか、確認してもらうよ」

「うん。現時点で人類に対して僕らができることは、これくらいだけだね」

「あとは、食料の備蓄と諸々の備えの準備だね」

「そうだね――」


守山家三者会議は、夜遅くまで続いた。

湿った風が開けた窓から入り込む。もう少しで梅雨が始まる。まだ夏も始まっていないのに、熱を帯びた空気が肌にまとわりついて不快だった。

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