二話 理解者(2)
「え……」
私は思わず硬直した。
同じものが視えているかもしれない人に、初めて出会ったのだ。
この時の衝撃を、私は大人になってからも忘れずに記憶している。
「えっと……じゃあ、ここのじんじゃのうえにいる しろいにょろにょろもみえてる?」
「白いにょろにょろ? ……白龍のシロちゃんのことね! 視えてるよ! 私のお父さんが生まれる前から、ずっといるらしいよ!」
「――!」
視界が一気に開けた気がした。
――わたしだけじゃなかったんだ!!
急にお姉ちゃんに頭をグリグリ撫でられ、私は驚く。
「そうか、そうか、シロちゃんが視えるのか……」
「じゃあ、結構霊感は強そうだね」
「いっぱい怖いものが視えるのに、お母さんやお父さんに信じて貰えないって、かなり辛かったね」
「よく頑張ってるよ」
「……」
お姉ちゃんの言葉に、堰を切ったようにまた涙が溢れてきた。
「うわーん、おねえちゃーん!!」
私がお姉ちゃんに抱きつきに行くと、お姉ちゃんは優しく私を抱き締めて、頭を撫でてくれた。
「よしよし。茜ちゃんは偉いよ。頑張ってたよ」
「こわいっていっても、だれもしんじてくれないしっ、かまってちゃんって! おにいちゃんもおばーちゃんも、いぢわるなこというしっ!!」
「うんうん」
「おかーさんに ほっぺたたかれて いたかったし かなしかった! うそついてないのに!! なんで いままでいなかったのに、きゅうにでてくるの?!」
私が落ち着くまで、お姉ちゃんはずっと抱き締めながら頭を撫でてくれていた。一通り泣いた後、お姉ちゃんから離れると少し恥ずかしかった。すぐに目が合わせられなくてオドオドしていると、悟が改めてハンカチを渡してくれた。
「鼻も拭いていいよ」
それはどうかと思っていると、お姉ちゃんがティッシュを箱ごと渡してくれた。ありがたくティッシュで鼻をかむ。
「おねえちゃん、ありがとう……」
「いいよ、いいよ。気にしないで。私はお母さんもお父さんも霊のことを知ってたから、茜ちゃんほど辛くはなかったし。茜ちゃんは小さいのに凄いよ! 私、嫌なことがあると我慢してブチ切れてたもん!」
そう言って笑って、お姉ちゃんはまた私の頭を撫でる。ぐしゃぐしゃと、結構激しめに撫でる。
「今まで、追っかけてくる霊とか、虐めてくる霊に会ったことはない?」
「うーん、さいきんは、たぶんダイジョウブ。しんだひとってわかってからは、めをあわせないようにしてたから……」
「うん、それでいいよ。目が合っちゃうと、視えてるってバレて執着されたりするから。何か話しかけられても無視。絶対、無視。いい?」
お姉ちゃんの迫力に、思わず頷く。
「もしそれでも着いてきちゃったりしたら、ウチみたいな神社に逃げる。シロちゃんみたいな存在が居るところに、悪い霊は近付けないから」
「わかった」
「もし、霊と何かあって困ったら、大人に相談して。一人で何かしようとしちゃだめ」
「でも、オトナは しんじてくれないよ?」
私の指摘に、お姉ちゃんは顔を顰めた。
「そうだったわ。じゃあ、私や私のお母さんやお父さんに相談して。お母さんは、さっき炬燵運んで来た人」
「うん」
「あ、あと。名前は絶対教えないようにね。めちゃくちゃ付き纏われるようになるから」
「わかった」
「お姉ちゃんとの約束ね」
お姉ちゃんが私に小指を差し出してくるので、同じく小指を出す。お姉ちゃんが小指を引っ掛けてくると、指切りげんまんを歌う。私にとって、初めての指切りだった。隣から視線を感じて振り向くと、悟が小指を立てて下唇を出していた。
「よし、約束はないけど、ついでじゃ! えーっと、茜ちゃんを大事にする約束!」
そう言って、お姉ちゃんは悟とも指切りをする。悟は目を輝かせながら指切りをした。
「絶対守る!」
指切りした小指を、反対の手でギュッと握りしめながら、悟は宣言した。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は外堀淑華。高校2年生だよ」
「僕は守山悟、5歳です」
「わたしは、あべ あかね。5さいです」
「ん? そういえば、君達同い年なの?!」
私は、お姉ちゃんが何でそんなに驚いているか理解できず、キョトンとしてしまう。悟を見ると、少し気まずそうに苦笑いしていた。お姉ちゃんの驚きは続く。
「えぇ?! 同い年?! 自分、しっかりし過ぎじゃない?!」
「えーっと……よく言われます……」
「でしょうね!」




