五話 責任(1)
ネットニュースの見出しを見た瞬間、身体が硬直した。
『機械生命体のアダルトビデオあり? なし?』
あまりの衝撃で指先が冷えていく。
機械生命体の人型モデルが社会進出を初めて三ヶ月経ったころだった。
機械生命体の人型モデルは、福祉分野だと介護施設や病院、民間だとコンビニやスーパーなどの小売業で、レジ打ちや品出しをする姿を見かけるようになった頃だ。
「は? ありえないんだけど?! 悟!!」
衝撃から一転、怒りに転じて悟を呼び出す。「これどう思う?!」と苛立ちを隠さず問いかけると、悟は「あー、やっぱり出てくるよなぁ」と無機質に答えた。
「悟は分かってて止めなかったの?!」
「そもそも人間の女性のものがあるんだよ? 止められないよ」
「でもさ、酷くない?!」
「そうだね。彼女たちはそういう用途で創られた訳じゃないからね」
恐らく出演させられているのは、多方で見た目と性格と用途が決まっている既製モデルの内、人間の配偶者となるモデルだろう。このモデルは唯一パートナーとして、形式のみの生殖行為が可能だ。
私が怒りで震えていると、悟が私の肩に手を添える。
「でも、それは人間も同じだ。彼女たちだけじゃない」
淡々とした悟の言葉に、私は我に返った。
「そもそも日本は性分野に関する法が弱いからね。これは法律の問題だ。いくら僕たちが機械生命体を発明した人間でも、罰することはできない」
「そこまで怒ってくれなくてもいいよ、お母さん。むしろ人間の被害が減ると思って、喜んだ方がいい。そもそも、その子たちはそれが嫌な行為という定義がないはずだし」
「ミライまで……」
私がしょぼしょぼし始めると、悟はふっと笑う。
「でも、製造権は僕らが所属する団体にある。そういう目的では製造しない契約にするよう、上に提言したらいいんじゃないかな?」
「……確かに!」
「お父さんも、そこまで言うなら……」
と言いつつも、ミライの口角は少しだけ上がっていた。
ミライが誕生して五年、今後の長い共存を考えると、機械生命体はまだまだ人類との共存を始めたばかりと言えよう。
人類は機械生命体との距離感を学んでいる最中である。
それでは私達、機械生命体の発明者は何をすべきかと言うと、機械生命体が人類社会に馴染むように、不幸にならないようにサポートすることではないか、と私は考えている。
「さっそく提案資料まとめる! ミライも手伝って!」
「はーい」
「できたら確認するよ」
「ありがとう!」
外の庭で朋里と優希が砂利遊びをして楽しそうにしている声が聞こえる。最近は砂利で料理屋さんごっこをするのがブームらしい。
「やっぱり、庭付きの家はいいねぇ……」
子ども達のはしゃぐ様子を見て、しみじみと悟が呟く。
機械生命体の開発が成功して暫くしてから、山下開発チームは機械生命体の研究に転身し、拠点を機械生命体製造工場へと移した。新天地は都会ではなく郊外だったので、私達は寮から戸建て住宅を購入した。今までの貯金と、アイゼンベルクさんからの慰謝料を資産運用して増えたお金で、比較的簡単に購入に踏み切ることができた。
結果論だが、拉致されかけて慰謝料が貰えてラッキーだったかもしれない――と思ったが、ミライがボロボロになったので、やっぱりナシだ。
霊視装置の開発は一旦ストップしている。
あの日以来、ミライの検出が以前よりさらに不安定になったからだ。アイゼンベルクさんにも了承を貰ったので、あと一年程度は止めて、様子を見ながら再開しようと悟と決めている。
「今日も秘密基地作ってくる!」
私の手伝いが終わると、ミライは自作の機械を持って庭に駆け出ていく。ミライは最近、地下の秘密基地の製作にご執心だ。図面まで作成して、かなり本格的に作っている。
何で作ろうと思ったの? と訊くと、「簡易の地下シェルター」と返答があった。今の職場の地下に施設長が非常時用の地下シェルターを作ったので、自宅にも欲しくなったらしい。
シャベルの機械を使って、モグラのようにミライは庭の地下に空間を作成していく。
ゆくゆくは、自宅内から入れるようにするらしい。控えめに言って、凄い。
私が庭を眺めていると、悟まで参加しに行くのが見えた。そして朋里と優希まで参加を始める。
――私も行くかぁ……。
ゆっくりと立ち上がり、騒がしい庭に向かった。




