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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
2章 生命の創造
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四話 ミライ(16)

「(まず、本題の方から話しましょう。座ってください)」


そう言ってアイゼンベルクさんは私たちに着席を促した。


「(まず賠償のお話ですが、あなたの通院費、ミライさんの修復費が決定致しましたらご連絡ください。領収書等は不要で、金額のみお伝えください)」

「わかりました」


――流石富豪、言い値の請求でいいとは……。


「(それとは別で慰謝料もお支払いしますので、支払い先口座を後ほどご連絡ください)」

「はい」

「(また別途、悟さんと小林さんにも今回の実験の報酬をお支払いします。こちらも振込先をまたご連絡ください)」


実験の報酬とは言っているが、体のいい口止め料だろうとは推測できた。

私と悟が頷くと、アイゼンベルクさんは椅子に深く座り直した。


「(……私の姿に驚いてもらえましたか?)」

「えぇ、それはもう……」


苦笑いしながら返事をすると、アイゼンベルクさんは満足気に笑む。


「何をしたんですか?」

「(首から下をすげ替えました)」

「はい?」


アイゼンベルクさんはシャツの襟元を広げ、首の包帯を解く。生々しい傷跡が首に一筋できていた。


――若返るために、首を入れ替える? は??


意味は分かっていても、色んな意味でそれは可能なのかと頭が混乱する。


「首から上はどうしたのですか?」


先に思考力が復帰した悟が問いかける。


「(個別の移植でまかないました)」


――移植元はどうなってるんですか?


と問いかけたかったが、返答次第では末恐ろしくてとても訊く気にはなれない。


「……もしかして、うちのチームメンバーの村瀬の技術を応用しましたか?」

「(流石ですね。そうです。村瀬さんには非常に感謝しています)」


アイゼンベルクさんは暗い闇を湛えた瞳で笑みを浮かべる。


「(彼の技術は人間を老いから解放しました!)」

「――」


間違いない。パッと見でも老人と分かったアイゼンベルクさんの姿が、若者に変貌しているのだ。驚異的な医療革新である。


「(彼は歴史に名を刻むでしょう!)」


ギラギラとした目でアイゼンベルクさんは主張する。

それは間違いないだろう。


――しかし、人間が老いを克服してしまうとどうなるの……?


薄らとした恐怖が込み上げてきて、鳥肌が立つ。そっと悟が手を握ってくれた。


「(彼と彼の同僚であるあなた達に多大な感謝を――!!)」


静かな空間にアイゼンベルクさんの声だけが響く。

そして彼は虚空を見上げ、祈りのポーズを取った。


村瀬は――いや、私達は機械生命体を創造する過程で、とんでもない化け物を生んでしまったのかもしれない。



あれほど望んだ帰国は、呆気ない程簡単に叶った。

それもこれも、私を助けてくれたミライのお陰だ。


日本に到着すると速やかにミライを開発室に運び込み、鈴木さんや村瀬にすぐさま引き渡した。


「どれだけ無茶なことをさせたんですか……」


ミライの状態を見た二人は言葉を失っていた。それほどまでにミライはボロボロになりながらも、私を助けてくれようとしていた。

涙が込み上げる。


「私を、助けようと、してくれて……お願いです、ミライを、直してください!」

「大丈夫。しっかり直すからね。安心してね」

「俺たちがいれば大丈夫だって! 一週間もあれば直るから、落ち着いて待ってろ!」

「そうだよ、大丈夫! なんとかなるよ!」


ツバサちゃんも私にティッシュを渡しながら励ましてくれる。


「うぅ……天使」

「なに当たり前のこと言ってるんだよ」

「そうね、ツバサちゃんは天使、当たり前……」

「私は天使じゃなくて、機械生命体だよ!」



村瀬が宣言した一週間より早く、ミライの身体は完全に直った。むしろ、各所がバージョンアップしたくらいだ。


焦る気持ちを抑えながら、ミライの起動処理をする。

一瞬、瞼が震えたかと思うと、ミライはゆっくり目を開けた。虚ろな目が私を捉える。


「――お母さん?」

「ミライ、変なところはない?」


ミライは起き上がり、手を握ったり開いたり、首を曲げたりする。


「大丈夫だよ――なんか、前より動きやすくなってるくらい」


ミライの言葉を聞いて、村瀬が鼻を鳴らし、鈴木さんとツバサちゃんが笑う。


「みんな、直してくれてありがとう」

「おう!」

「どういたしまして」

「無茶し過ぎはダメだよー」


それぞれの返答にミライは笑う。


私が感極まってミライを抱きしめると、ミライも抱きしめ返してくれる。温もりを感じて、少し安心する。


「ミライ、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。もうあの島には行っちゃ嫌だよ?」

「うん、行かない。約束する」

「絶対、絶対だからね?」


ミライの激しい念押しに、思わず頬が緩む。


「うん。絶対に行かない」

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