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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
2章 生命の創造
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四話 ミライ(13)

「うっ――」


意識は覚醒したが、目隠しされていて周りが見えなかった。ただ、自分が両手両足を結ばれた状態で、ベッドの上らしき場所に掛け布団を掛けられて転がされていることは把握できた。


まだ強い眠気があって、頭が重い。

舌が少し痺れていて、喉の奥が焼けるように乾いている。

気絶する直前に嗅がされた甘い匂いが、鼻の奥に強く残っているのが少し不快だ。


――ここはどこ?


掛け布団が重くて、地味に動きにくい。


「(起きましたか)」


恐らくメイドの女性の声だった。自信がないのは、そこまで彼女の声を聞いた覚えがないからだ。


「ここは、どこですか?」

「(言えません)」

「何のために私を拉致したのですか?」

「(日本に帰さないためです)」

「誰の命令で?」

「(命令はありません。私たちの意思です)」


男性の声が部屋に響いた。

目隠しが解かれる。やはりメイドの女性がいて、男性は……よくよく思い出すと、ミニバスの運転手だった。

島を案内してくれた時、無口で、こちらを一度も見なかった若い男性だ。


「(あなたは、ケラー様の研究に必要です)」

「でも、ケラーさん達は、私達が日本に帰る前提で話を進めてますよ」

「(皆様は優しいですからね)」


うっとりとした表情で、男性は言う。


「(あなたのご家族が日本に帰るまで、あなたはここに隠します。それまで、ここで待っていてください。その間のお世話は、彼女がしてくれます)」

「そんな――私は、日本に帰らせてください!」


彼は一通り告げると、満足したように部屋の扉から出ていった。残されたのは、私とメイドさんだけだ。

メイドさんは、私をジットリと睨みつける。小林さんが早めの帰国をクロウリーさんに相談して以来、彼女が私を恨めしく睨んでいるのは気がついていた。

底冷えのする声で、彼女が言う。


「(何故、あなたは島にいるのが嫌なのですか?)」


翻訳するインコも、こんなに感情表現を模倣できるのだと、少し驚く。


「私の家は、日本だからです」

「(ここは――理想郷ではありませんか? 誰も飢え、苦しむことはありません)」


それは割と、日本にも適用されていますよ。

という言葉は飲み込んだ。余計に嫌われてしまいそうだ。


「(あなたは、アイゼンベルク様に必要とされているのに――っ!!)」


猫のように威嚇しながらも、彼女の瞳から一筋の涙がこぼれた。


――この島の『価値』は、アイゼンベルクさんに『価値がある』と判定されることなのかもしれない。


彼女の言葉を聞いて、ふと気がついた。


「それは非常に光栄ですが、私は、日本でしなければいけないことが沢山あります」

「(そんなこと、オンラインで片付ければどうにでもなるでしょう?)」

「私の本職は、機械生命体の開発と研究です。物理媒体がないと無理です」

「(本職なんて、辞めればいいのではないですか?)」

「……」


それを言われてしまえば、どうしようもない。


「(何故、あなたはこの島が嫌なのでしょうか?)」

「この島が嫌なのではないです。日本が大好きなんです」

「(この島で暮らせば、この島が大好きになりますよ)」

「それは、ありえません」


反射的に言ってしまい、やらかしたと顔を歪める。

やはり、彼女の逆鱗に触れたらしく、彼女の視線が、より一層鋭いものになる。


――助けて、悟……。


私が薄らと涙目になると、彼女は荒々しく扉の向こうに消えていった。


――良かった……。


思わず、ため息が漏れる。

しかしながら、どうしようか……。

喉の渇きが酷いのに、メイドさんはどこかに消えてしまった。幸い、トイレはまだ大丈夫だけど……。

仕方ないので、好機とみて脱出方法を考える。


――こんな時こそ、霊能力を使わずして、いつ使う?!


まずは透視した。街の家の一つらしい。周りの風景も確認したが、そもそも土地勘がないので、有益な情報がない。しかも、似たような家ばかりなので、余計ヒントが少ない。

物でも触って、物を透視しようとしたが、無理だ。そもそも動けない。布団が重い。


しょうがないので、一縷の望みをかけて、私はひたすら念じて、情報構造体を悟に送る。悟の姿は透視で捉えたが、気付いて貰えない。そうだ、そもそも悟は、全く霊感がない。落ち着きなく動き回る悟の近くにいた、朋里の姿を捉える。


――朋里なら、気が付くかも……!


朋里に「助けて」と、ひたすら念じると、朋里が私に振り向いた。念じ過ぎて、生霊を飛ばしていたらしい。


「おかあさん――」

「誰かの家に連れて行かれたの。皆が帰るまで、隠すって――お父さんに伝えて……」


それだけ伝えると、気力が消耗して集中力が途切れた。

消える間際に、ミライが私に振り向いた気がするが、私は視えないはずなので、気のせいだろう。


生霊を飛ばしてしまった代償で、私はまた眠りに落ちてしまった。

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