四話 ミライ(12)
「では、パワーストーンを使用しながら、様々な方法で祈りを行います。茜さんはそれを霊視してもらえますか?」
「わかりました」
頷くと、研究者の一人からEEGデバイスを渡される。私が装着すると、朋里も優希も「すごい」と目をキラキラさせながら喜んだ。
どのパターンの祈りも、石に変化はない。私は霊視しながら仮説を立てる。
――神道式の祈りの形式が、トリガーになるのかもしれない。
私が行った祈りは、かなり略式ではあるが神道式だ。
1、名乗り
2、感謝
3、願いや決意
4、結び
――分解すると、自己定義、現状定義、依頼、処理の開始トリガーと考えることはできないだろうか?
ミライに服の裾を引っ張られて、我に還る。今はEEGデバイスも装着しているのだった。この思考は検出のノイズになる。
指摘して試して欲しい気持ちを、懸命に抑えて霊視に集中する。
「どうですか? 何か変化があった時はありましたか?」
「いえ、特にありませんでした……どういった祈りをされていたんですか?」
クロウリーが、検証者の一人である若い女性に顔を向けると、彼女は口を開いた。
「(アイゼンベルク様への感謝と、アイゼンベルク様の幸福を祈りました)」
ある程度予想していた内容だけど、思わず口を噤む。
「(私は、アイゼンベルク様への感謝と、島の発展を祈りました)」
他の数名も、似たような内容だ。
――最初の自己定義が、誰もない。
当たり前かもしれないが、日本の神道的なお祈りをしている人は誰もいなかった。日本人でも、ちゃんとお祈りできている人は半数位かもしれないけど……。
検証者が握っていた石は、どれも祈りの前と変わらない。私の仮説を検証してみたい気持ちを、必死で抑える。
「祈りの内容や方法を、もっと変えてみてもいいかもしれませんね」
「例えば、どのようなものでしょう?」
「うーん……」
ミライが、私の服の裾を静かに引っ張る。
――分かってます。分かってますよ!
「跪いているのを、立ってしてみるとか? ポーズとか?」
「ふむ……それは既に試したのですが、特に成果はありませんでしたね」
「試してますよねぇ……悟は何かある?」
「うーん、そもそも『祈り』という行為が、関係してない可能性もあるんじゃない?」
「それもそうよねぇ……」
「祈り以外は、何か試しましたか?」
「色々試しましたが……これは資料でまとめてお見せした方が早いですが……」
クロウリーさんが、時計を確認する。
「あと少しで食事の時間なので、今日は早めに昼食にしましょうか」
と、早めの昼食になった。
昼からも、既知の検証パターンから試していないパターンを検証したが、結局進展はなく、悟の「自宅でゆっくり検証できれば……」の言葉をきっかけに、パワーストーンを数個お借りして、手隙の際に私達でも検証して協力してあげることになった。こちらはついでなので、成果は出なくてもよいとのことだ。
「はぁ、疲れた……」
子ども達もお風呂に入れ終えてから、広い浴槽で伸びをする。
いよいよ明日が最終日、帰国の日だ。夕方まで頑張れば、日本に帰れる。アイゼンベルクさんの面白い物は、やはり気になるが、なるべく早く帰りたい。
――アイゼンベルクさんは、何を見せてくれるのかな?
日中に頑張った分、ボヤける頭でぼーっと考える。
こんなに霊視能力を必要とされたのは初めてのことで、かなり疲れてしまった。自分で好き勝手探究するのとは勝手が違ったし、公開していい情報を一旦精査するのも、地味に疲れる。
「ふぅーー」
ブクブクと湯船に沈み始める。いけない、いけない、湯船が広すぎる。
浴室の外から、楽しそうにはしゃぐ子どもたちの声が聞こえる。
――このはしゃぎ具合は、小林さんが遊びに来たのかもしれない。小林さん、面倒見良いもんなぁ……有難い。
そろそろのぼせてしまうと気が付き、のったりと湯船を出る。身体を脱衣所で拭いて、寝巻きに着替えた。
ゴォォォォォォ
ドライヤーを始める。疲れたなぁと、目を瞑りながら髪を乾かしていると、ふと、気配を感じた。
「ん?」
重いまぶたを開くと、鏡越しに私の真後ろに、メイドの女性が無表情で立っていた。いつもお世話をしてくれる若い女性だ。目が合うと、他の島の住人と同じ笑顔を見せる。
「?!」
なんで真後ろに?! どこから入ってきたの??
と思考した瞬間、彼女が私の鼻と口を、布で覆う。
甘い匂いで、吸ってはいけないと思ったが、抵抗する間もなく、視界が暗転した。




