四話 ミライ(11)
クロウリーさんの魂――情報構造体に焦点を当てる。目を閉じ、心を無にして魂に集中すると、私の脳裏に様々な情報や映像の一部が流れてくる。私はそれを精査しながら文章化した。
「――母親に産まれた時に捨てられ、ホームレスの男性に拾われました。六歳の頃、育ての親の男性が、若者の悪ふざけで殺されます。そこからがあなたのサバイバルの始まりでした。生き延びるためにあらゆることをしていると、街であなたのことが噂になりました。そして、噂を知ったアイゼンベルクさんがあなたに会いに来ました。あなたはその場でついていくことを決めました――とりあえず、ここまでは視えました」
本当はもっと色々なことが視えてしまったが、伝えない。帰れなくなるのは勘弁して欲しかった。
「――あ」
涙が零れていることに気が付き、慌てて涙を拭く。
魂に同調してしまって、視たこちらが不安定になることが多いので、透視はあまり好きではなかった。
少ししか視ていないつもりだったが、予想以上に的中していたらしく、クロウリーさんが目を見開いたまま固まってしまっていた。
「あなたは――いえ、何でもありません」
「どうでしたか?」
「私の幼少期そのもので驚きました。本当に視えるのですね」
「理屈的には、魂も情報構造体ですから、コツさえ掴めば大抵の霊視者は透視することができると思いますよ……他に試していないので断定はできませんが」
「理屈的にはそうなのでしょうが……実際に目の当たりにすると驚きますね」
クロウリーさんの言葉に曖昧に笑う。
本当に事実でしかないのだ。しかも、情報構造体には物理的な距離はあまり関係ない。どこにあるのかさえ把握できれば、地球の裏側でも透視できる――そこは伝えないけど。
ミライが強く私の手を握る。
私の勘違いかもしれないけど、研究者達の目の色が変わった気がした。
――やってしまったかもしれない……。日本に帰りたいんだけど……。
引き止められた場合、どういった理由を並べようか、頭がシミュレーションを始める。
「今日はもうお疲れでしょう。私共は今日、結果をまとめたいですし、続きは明日にして、今日はお開きにしましょうか」
というクロウリーさんの言葉で、今日の実験はお終いになった。
翌日は前日とは異なる部屋に案内された。今度は悟達も一緒だった。
部屋に入ると、広い部屋一杯に敷き詰められたデスクの上に、丁寧に石が並べられている。あまりの石の多さに、一瞬言葉を失った。そのどれもに並々ならぬ気配を感じた。
「今日は別の研究室の、所謂パワーストーンに関する研究にご協力ください」
「もしかして、これが全てパワーストーンなんですか?」
小林さんの素っ頓狂な声が部屋に響く。パッと見、大小合わせて五百個近い石が鎮座している。
「はい、そうです。我々はパワーストーンについても深い興味があり、長年研究し続けています」
「今のところ、どんな認識なんですか?」
「パワーストーンには、何かしらの情報構造体が宿っているというところまでですね」
「ふむ……」と、私は石を眺める。そういえば、情報構造体が含まれた石は認知していたけど、その情報構造がどういったものかまでは、深く考えたことがなかった。
「茜さんは、パワーストーンについて何か知識はありますか?」
「申し訳ないですが、ないですね。日本の付喪神の石バージョンという認識しかなかったです」
――でも、よく見ると、魂の情報構造体の形ではないなぁ……。
なんだろう。不思議な感じである。隣の石同士で見比べると、なんだか固定パターンはある気がする。
――全体的に炎みたいなオーラは同じ。色が違う。物によっては音もするし、なんなら匂いがするものもある。
意外と面白い研究材料かもしれないと思った。
白いオーラを纏ったアメジストを見つけた。何となく気になったのは、雰囲気が白龍に似ている気がしたからだ。
「これって、触っても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。お好きに触ってください」
言葉を聞いた朋里が、目をキラキラさせながら気になる石を掴んでは、光に翳して眺めていく。
私も気になったアメジストを掴んで、光に翳す。
とても透明度が高く、宝石としても高そうな石だ。
何となく、その石を握ってお祈りしてみようと思ったのは、気まぐれだった。たぶん、白龍に似ていたせいだろう。
――日本から来た守山茜です。今のところ、無事にこの島で過ごせています。無事に日本に帰国できるように頑張るので、見守っててください。よろしくお願いします。
「――?」
ピィィィンと石が鳴いた。白い光の輪が石から出ると、一瞬で広がって消えた。
「……」
「……」
一緒に行動していたミライと顔を見合わせる。
じんわりと汗をかく。幸いにも、石の異変に気がついたのは私だけで、私の異変を間近で見たのはミライだけだ。ミライは「何かしでかしたな」と言わんばかりに、私をジロリと見上げる。
――これは、誰にもバレてはいけない気がする……。
ミライが何食わぬ顔で「見せて」と、私から石を受け取って観察してから、石を元の場所に戻す。
朋里が石に夢中になっていてくれたことを、心底感謝した。もし近くにいたのが朋里なら、凄いと大騒ぎしただろう。
ミライが、もう石に触っちゃだめと言わんばかりに、私と手を繋いできた。
――うぅ……どっちが子どもなんだか……。
ミライに睨まれて、情けない気分になった。




