二話 理解者(1)
「こらぁ!! 女の子泣かすなぁ!!」
突如の怒声に、私と悟は思わず硬直した。動けないうちに、ジャリジャリと音が近付いてくる。
振り返ると、物凄い剣幕の女子高校生くらいの女の子がいた。お姉ちゃんは私の横に駆け寄ると、ぎゅっと私の体を引き寄せた。蛇も殺しそうな視線で悟を睨む。二つ結びにされた、肩より少し長い髪がふわりと揺れた。
「何したの?!」
「え、僕は……」
「虐めちゃダメでしょ! 謝って」
「ごめんなさい?」
悟が目をパチクリさせながら、形だけの謝罪をしたのを見届けると、お姉ちゃんはしゃがんで私を見た。
「どうしたの? 大丈夫?」
悟に向けた目とは全く違う、とても気遣ってくれる目に、私の涙は引っ込んだ――いや、そもそも怒声の時点で驚いて引っ込んでいたけど。
「あ、あの……さとるくん、わるくないよ」
「え? じゃあ何であんなに――ヘックチン! さっむ!」
ごめん、ちょっと中入ろ? と提案するお姉ちゃんの服装は、急いで出てきてくれたのか、部屋着に厚手の半纏を着た軽装だった。ちなみに足元はサンダルである。
提案されるまま、本殿とは別の家だと思っていた建物に向かう。改めて観察すると、一階はガラス張りが多く、建物の中が丸見えだった。ガラス張りの廊下を通り、外から丸見えの広間に案内される。広間は二部屋が障子で仕切られているらしく、私達が入った広間は十五畳程度の広さだった。
普段はあまり使っていないのか、部屋の温かさは外よりマシ程度で、まだ寒い。お姉ちゃんが「寒ぅ」と言いながら石油ファンヒーターを付ける。「ちょっと待っててね」と広間を出ていくと、遠くで「おかーさん、ちびっ子二人拾ったー」と聞こえてきた。
ファンヒーターで手を温めながら、悟と二人で顔を見合わせていると、お姉ちゃんがすぐに戻ってきた。
肩に炬燵の下の部分を担いで。
「寒すぎるから、炬燵出すわ」
そう宣言して、またどこかに行く。お姉ちゃんのお母さんらしき人もやって来て、ニコニコしながら炬燵布団を炬燵に乗せていく。
「ごめんね、普段使わないから。もうちょっと待っててね」
暫くすると、炬燵が完成した。悟と炬燵の温かさに感動していると、お姉ちゃんがみかんやマグカップを炬燵に置いた。お姉ちゃんも、そのまま炬燵に入る。
「ここ広すぎて、なかなか温まらないね! ごめんね! これ飲んでいいし、みかんも食べて!」
マグカップを受け取り、両手で包むと熱いくらいに温かい。一口飲もうとしたけど、熱すぎて私にはまだ飲めなかった。悟がふーふー冷ましながら一口啜る。
「障子、閉めなくてもいいんですか?」
「あー、それはいいの。閉めないルール。覚えといて!」
あっけらかんと言うと、お姉ちゃんは私の顔をまじまじと見た。
「――なんか、頬っぺ片方赤くない?」
「え?」
「本当だ」
「どうして赤いん?」
お姉ちゃんの問いかけに、思わず息が詰まる。
「――たぶん、おかあさんに たたかれたから……」
「はぁ?」という声に怒気が籠っていて、ビクリと肩が震えた。
「あ、ごめんごめん。怒ってないよ。どうして叩かれたの?」
「へんなものが みえるから……」
今朝のことを思い出したら、また涙が零れ始めた。私の代わりに悟が説明してくれる。
「彼女――茜ちゃんって言うんですけど、霊が視えるみたいなんです。でも家族に信じて貰えないらしくて……今日引っ越してきたみたいなんですけど、今までいなかった場所に出るようになったのが怖かったみたいで……」
悟の言葉に、お姉ちゃんが息を飲んで固まり、少し視線を下げた後、真剣な目で私を見た。
「視えるの? 茜ちゃんも?」
お姉ちゃんの言葉に、今度は私も息を飲む。
「お姉ちゃんも、視えるの?」
私の問いかけに、お姉ちゃんは神妙な顔で頷いた。
「視えるよ。ちなみにお母さんも視える。お父さんは感じるだけだけど」




